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MarkeZine Day 2020 Autumn(AD)

Sansanの事業成長を押し上げた、創業期と拡大期のデータ戦略

 9月1日に行われたMarkeZine Day 2020 Autumnでは、Sansanの柳生大智氏によるセッション「BtoB企業の創業期・拡大期に実践すべきデータ活用とは。マーケティングとCRMのノウハウを徹底解説」が行われた。複数のプロダクトを展開するBtoB企業も少なくない昨今、顧客の継続的な獲得と売り上げ向上に悩むスタートアップは多いだろう。創業から13年、従業員700人以上に拡大した同社が、データ収集・活動により事業成長を成し遂げてきたプロセスを語った。

創業期は「プロダクト1本勝負」

 現在Sansanにおいて、首都圏のSMB領域とともに、新規事業であるオンライン請求書サービス「Bill One」のマーケティングを担当している柳生氏。BtoB企業のマーケティング/セールス活動は、創業期と拡大期では展開が異なるという。

 「BtoB企業の創業期において重要なのは、一つのプロダクトに注力してマーケティングとセールスを行い、ビジネスを軌道に乗せることです。一方、拡大期になると事業の柱となるプロダクトがいくつもローンチされ、事業拡大が加速化します。従業員規模は200人を超え、複数プロダクトのマーケティングとセールスが同時並行で行われている状態になっているはずです」(柳生氏)

 同社では2007年の創業から従業員規模が200人を超える2016年までを創業期と位置付け、「名刺管理」という概念の啓蒙と認知拡大のため、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」一本で勝負していた。

タップで拡大
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 その戦略が奏功し、2019年までの3年間で従業員は一気に500人まで拡大。2020年には700人を超えた。そんな同社は現在、拡大期の真っ只中にある。エンタープライズ企業の攻略を重点戦略とし、Bill Oneを始めとする新規事業や、既存顧客のアップセルにも力を入れる。

「データドリブンな戦略」に立ちはだかる壁

 続いて柳生氏はデータ戦略に言及し、成長フェーズごとに取るべき行動は大きく異なると語った。

 「創業期において重要なのは、正確なデータを蓄積し、マーケティングファネルのPDCAを回すことです。その後、拡大期に移行すると、部署別に蓄積されたバラバラなデータを一元的に集約し、取引先法人ごとにまとめる必要があります。営業活動を属人的なものから、全社的に統一されたデータドリブンなものへと転換していかなければいけません」(柳生氏)

Sansan株式会社 マーケティング部 アップセルマーケティング企画 アシスタントマネージャー 柳生大智氏
Sansan株式会社 マーケティング部
アップセルマーケティング企画 アシスタントマネージャー 柳生大智氏

 このようなデータ戦略上の課題を、同社ではどのように解決し、事業拡大につなげてきたのだろうか。

 創業期に苦労したのは、抜け漏れなく正しいデータを収集し、マーケティングファネルごとの正確な数字を把握すること。その数字から、受注率や商談化率などステップが変わるときの転換率を割り出し、セールス活動に活かすことだった。

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 「創業期は社内の体制も未熟で、根拠となるデータに抜け漏れが多く、なかなか正しい転換率が計算できません。メンバーごとに商談の精度もまちまちで、受注予測が立たずに目標を達成できないということもよくありました。あらゆるデータがちぐはぐで、PDCAを回せない。その頃の当社は、データ戦略がうまく機能せず、悪循環に陥っていたと思います」(柳生氏)

 そこで同社が行ったのは、データ入力にかかる負荷を減らしながら正確な情報を収集すること。さらに収集したデータを社内で一ヵ所に集約し、マルチデバイスで管理できるようにした。特にオンライン商談では、リード情報を獲得することが難しく、意外な壁になったという。

 「商談相手の名前と部署は把握できても、同席している他の方のデータをオンライン上で知るのはなかなか難しかったです。オンライン商談では、顧客データの蓄積やアップデートができず、商談後に適切なアプローチができないケースが増加しました」(柳生氏)

 そのような課題がコロナ禍で一気に顕在化する中、同社はSansanの「オンライン名刺」機能の提供を開始した。SansanやEightの利用企業であってもなくても、名刺情報のURLデータを送り合うだけで名刺交換が完了する。またSansanユーザーでない場合も、受け取った名刺情報が自動的にスマートフォンの連絡帳に登録される。名刺を送り返す場合は、スマートフォンで名刺を撮影するだけで名刺交換が可能だ。

受注精度を把握する7段階のフェーズ管理とは

 柳生氏は、マーケティングファネルにおけるステップごとのデータを正しく把握し、正確な転換率を導き出すために重要なことがあると力を込める。

 「重要なのは、パイプラインマネジメントです。各商談の受注確度を正しく把握しなければ、セールスの着地読みがずれてしまい、目標を達成することはできません。パイプラインをうまくマネジメントできず、目標を達成できないという問題が当社でもよく起きていました」(柳生氏)

 同社ではそのために、セールスフォース・ドットコム社のフェーズ管理手法を参考にして、7段階にわけた商談のフェーズ管理を導入している。

 7段階に分けて商談管理を行うと、データ入力の負荷は若干増えるが、商談の確度を正確に把握できるようになる。同社でもこの手法を導入したことにより、読み通りの受注ができるようになっていったという。

 同社がSalesforceを導入したのは、従業員が200人を超えてから。2016年ごろまでの創業期は、自社プロダクトであるSansanとWebフォームツールを活用してリード管理を行い、商談管理はSansanの「商談管理機能」で実施。すべてのリードがMarketoに集約されるようにしたという。また、その後はインサイドセールスに受け渡し、商談はSalesforceで管理した。企業規模に応じたMAツールの導入も大切だと柳生氏は話す。

創業期から拡大期へ移行するときのシグナル

 創業期を乗り越えた企業は、さらなる従業員規模の拡大を目指して、成長スピードが加速する。柳生氏は、企業が拡大期に入ったことを示すシグナルとして、エンタープライズ企業の獲得を目指したセールスチームの拡大や、アップセルを狙う既存顧客の見極め、商材の多様化といったニーズが社内から増えることを挙げた。エンタープライズ企業にセールスしたい、アップセルを行いたいなどの要望が出てきたときは、その組織は拡大期に入ってきたと言って良いだろう。

 ちょうど同社が拡大期に足を踏み入れた2016年に入社した柳生氏。同氏が注力したのが、ABMの推進だったという。

 「攻略したいアカウント(企業)を選定し、ニーズに合った商材を提案する。あるいは法人ごとに誰に・何の商材をアプローチするか戦略を練る。拡大期にはこうした戦略策定が重要です」(柳生氏)

 拡大期のデータ戦略で最も課題になるのは「データを取引法人単位で集約し一元管理すること」。創業期は部門ごとにデータ管理をしていても、拡大期は同じ担当者に違う商材を提案したり、同じ企業の異なる窓口に商材を提案したりする必要が出てくる。このとき、顧客ごとの状況を自社内で統一して管理し、取引法人単位で一元的に閲覧できるよう整理しておけば、より効果的にアップセルを狙える。

データの人力管理をやめた拡大期

 各部署に散らばっているデータを自社内で統一し、取引先を法人単位で管理し社内にある情報を集約して効果的な営業活動を行うときに重要なのが、バラバラに管理されているデータに、統一の文字情報を付与することだ。

 人力で誤りなくデータ入力するのは難しいが、入力された内容に法人番号を付与すれば、情報の一元管理はたやすい。同社の提供する「Sansan Data Hub」などを使えば、あらゆるデータに法人番号・企業情報を付与して集約することができ、データを取引先企業ごとに管理することができるだろう。

 「私たちはたった3人のアカウント管理チームで、データ重複の削除や情報の統一を目視で行っていました。しかし、人力で行うと1日かけても500件しか処理できません。社内のデータが1,000件、2,000件くらいであればなんとかがんばれますが、10万件まで増えてくると、人力でのデータ管理は難しいでしょう」(柳生氏)

 そこで柳生氏らが行ったのは、Salesforce上の取引先情報に法人番号を付与して重複を排除し、各担当者がMarketoのデータ(リード)に、Salesforceで作成した法人番号を割り振っていくということだ。自社が持つあらゆるデータに対して、「Sansan Data Hub」から法人番号を割り振り、同じ法人番号を持つデータ同士を自動処理で関連付けた。

 その結果、獲得済みのリード数十万件のうち、約7割の法人番号を特定でき、データの最適化を実施できたという。残りの3割については、無意味なダミーデータや、法人情報の入力されていないフリーメールアドレスなど無効な情報が大部分を占めることがわかった。

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事業フェーズに合わせた適切なデータ戦略を

 このように取引先法人単位ごとに集約したデータベースを構築し、データ収集を効率化した同社は、データ件数が3倍に増加、商談件数を64%増やすことができた。またデータ集約後、機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」で機械学習モデルを作成し、自社特有のスコアリングを入力することで、どの企業がどれぐらい受注確度が高いか予測することも可能になったという。受注確度が高いという予測結果の出たアカウントについては、業種ごとにリスト化して社内の各部署へフィードバック、営業活動に活かしている。

 柳生氏は最後に「事業フェーズに合わせて、適切なデータ戦略を取ることがスムーズな事業拡大の鍵となります。創業期はデータの蓄積、拡大期はデータの集約と整理、受注確度の予測が重要です。自社の状態を俯瞰して捉え、最適なデータ戦略を取ることが、プラン通りの事業拡大につながります」と要点をまとめ、セッションを締めくくった。

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/15 10:00 https://markezine.jp/article/detail/34304