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マーケ人材不足を救うか 深層学習の最前線

 マーケターの業務には人による“判断” が欠かせない。しかし人材には限りがある中で、デジタルツールを用いてその“判断” を削減していくために注目されている技術が深層学習だ。実はマーケティング業務においても、既に一部で深層学習の利活用が進んでいる。ここでは“人による判断を深層学習で置き換える”ことをテーマに、マーケティング調査領域下での深層学習を用いた研究例を紹介していきたい。

※本記事は、2020年9月25日刊行の定期誌『MarkeZine』57号に掲載したものです。

人による判断を深層学習で置き換える

 デジタルを活用した様々なツールが普及した今もなお、ビジネスパーソンが抱える仕事の多くは、人による“判断”を必要としている。それはマーケターの業務にもあてはまるだろう。しかし人材不足が叫ばれる昨今では、人による判断をいかに削減できるかは重要な課題だ。そこで注目されている技術の一つが、深層学習である。

 深層学習とは、端的に言うと“特定の領域における規則性や関係性などの法則を見出すことに優れた要素技術”のことだ。実はマーケティング業務においても、既に一部の領域で深層学習の利活用が進んでいる。本稿では“人による判断を深層学習で置き換える”ことをテーマに、マーケティング調査領域下で深層学習を用いた研究例を紹介する。深層学習を使ってできること・メリットを中心に、導入に際して必要な事柄についても述べていきたい。

 今回紹介する研究例は2つあり、一つはマーケティング調査における人の思考パターンを深層学習モデルで仮想現実化させた研究例であり、もう一つは人の視覚情報に基づく判断を、深層学習で代替した研究例である。

1.パッケージ評価調査への活用

 マーケティング調査には数多くの種類が存在するが、今回はパッケージ評価調査を取り上げる。パッケージ評価調査とは、パッケージの見た目に依存する情報をなんらかの評価として収集するものであり、人による“判断”が介在している。人はパッケージを評価する際、それぞれが持っているなんらかの認識回路を通して評価しているが、視覚的な情報は画素という256種類の数値で表現できる。一度、数値の世界に変換できれば深層学習で取り扱えるため、人による“判断”を深層学習の世界へ連れ出すことができるようになるのだ。

 具体的には図表1の通りである。過去のパッケージ評価調査における評価スコアと、それに対するパッケージ画像を用いて深層学習で学習していくと、人による“判断”を推測できるモデルを構築できる。新たに評価したいパッケージ画像があれば、トレーニングした(=学習させた)モデルに評価させることで、人による評価を代替することができる。いわば、仮想現実世界でパッケージ評価調査ができるようになるのだ。

図表1 パッケージ評価モデルの作成プロセス
図表1 パッケージ評価モデルの作成プロセス

 続いて、使用データとモデル精度を図表2に示した。5段階の尺度評価におけるTOP2スコアの割合を目的変数として深層学習で学習させた。評価スコアによっては精度に差が出たが、見た目だけでは判断がつきにくい評価スコアは低い傾向にあった。たとえば、“食事に合う”は見た目よりも個々人の過去の経験(CMからのコミュニケーションなど)の影響を受けている可能性が考えられる。

図表2 パッケージ評価モデルに使用したデータとモデル精度
図表2 パッケージ評価モデルに使用したデータとモデル精度

 また、学習に使用するパッケージの種数について、一般的な深層学習で必要とされる数万規模ではなく、合計396種類で完結できている点が興味深い。おそらく、学習させた商品群の見た目が似ており、各評価スコアの大小に起因する情報に共通点が多く存在したことが要因であろう。たとえば、“果汁感がある”という評価スコアでは、果物のイラストが描かれており、果物を表す数値の羅列をモデルが学習できたのではないだろうか。評価スコアはパッケージの見た目だけで判断されているわけではなく、個人の経験やメディアからのコミュニケーションによる影響も含まれるはずだが、見た目だけでもある程度高い精度を保持できていることは注目に値する。

 これらのモデルを用いたビジネスへの展開イメージは図表3のとおりである。従来では、一度に評価できるパッケージ試作品は数種類に限られ、日数も約1ヵ月かかり、仕様を決定したらデザインの差し替えは難しい。これに対して深層学習を用いた仮想現実調査では、パッケージ画像数に制限はなく、1画像あたり数秒で評価することができる。そのため、調査サイクルを短縮化して試作品を改良するチャンスが増えるため、仮想現実調査の優位性は高いと言える。

図表3 パッケージ評価モデルの活用イメージ
図表3 パッケージ評価モデルの活用イメージ

 ただし、このモデルの評価は、過去の調査に参加した人々の“判断”を根拠としており、直近のトレンドは考慮できていない。そのため、定期的にパッケージ評価調査を実施し、再度トレーニングする必要がある。人による“判断”が変化する期間の選定は難しいものの、少なくとも数日や数ヵ月で変化するものではない。そのため、深層学習を用いた仮想現実調査は有意義な方法として浸透していくのではないか。なおインテージでは、飲料と袋麺パッケージの最適デザインを導出した実験調査の結果をWebサイト上で紹介している。

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この記事の著者

伊藤 友治(イトウ トモハル)

株式会社インテージ 事業開発本部 先端技術部 製造小売業、専門商社を経て、インテージに入社したデータサイエンティストです。主にマーケティング課題解決に対して、所謂データサイエンスの力でお手伝いしてきました。現在、画像解析系のAI技術をマーケティング領域で利活用すべく、いくつかのプロジェクトを担当してい...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/09/25 15:00 https://markezine.jp/article/detail/34341

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