データベースマーケティングの再始動
本連載では「伝統的企業のデジマ組織がDX推進のためにどう働きかけたか」をテーマに、JTBにおいてDX推進に携わっていらっしゃるWeb販売部 データサイエンスセントラル 統括の福田晃仁さん、副統括の山上亜紀さんと様々な企業事例の本質を掘り下げていきます。
JTBにおいて福田さん、山上さんが推進してきたデジタル変革の詳細については連載「JTBが挑むデータドリブン戦略 立ち上げから運用まで」をご覧ください。
――中野さんはANA入社以降、マーケティング部門内の組織を渡り歩いてこられたそうですね。
中野:はい。データ分析にはじまり、長くマーケティング業務に従事してきました。
その間コールセンター24時間体制の整備や添乗員、ANA Xの立ち上げなどの経験もさせてもらい、現在はマーケティング企画部でデジタルシフトに取り組んでいます。ANAは異動が多い会社ではないですが、私は様々な経験をさせてもらいました。H型、パイ型人材が必要と言われていますが、そうした経験から色々な観点を俯瞰的に見られるようになったことは、自分の価値になっていますね。
――これまで御社におけるマーケティングへのデータ活用は、どのように進んできたのでしょうか?
中野:2010年に、レベニューマネジメント部内にデータベースマーケティング(DBM)部が発足したものの、その時は残念ながら良い形に行き着きませんでした。
山上:他の日本企業と比べて、いち早くデータ活用に取り組まれていますよね。
中野:レベニューマネジメントでは短期的な収益貢献が求められるけど、アナリティクスって必ずしも即効性のあるアウトプットばかりではないじゃないですか。ある意味継続的な投資ができなかったのかなと個人的には捉えています。
福田:ちょうどセリングからマーケティングへの転換期ですね。
中野:転換期でもあったのかもしれませんね。ただ2016年3月に一旦、活動が途絶えてしまいました。
レベニューマネジメントで目指すのは1便あたりのレベニュー(収益)の最大化なため、需要の予測とお客様の動きをどうやって分析するかにデータを活用していました。あくまで短期的な施策でマネタイズするための分析機能からの飛躍が果たせなかったのかもしれません。
その後、仕切り直しとして立ち上げたのが、マーケティング部門にいる若手を中心とした「1to1タスクフォース」。データをより多角的に活用するにはどうあるべきかをマーケティング組織横断で研究し直すためのタスクフォースです。
福田:どのようなタスクフォースだったのでしょう。
中野:皆それぞれが「1to1のマーケティングでより良い顧客体験の提供を実現しなければいけない」とわかっていたのですが、同時に「1to1とは何なのか」「顧客体験価値を最大化するとはどんなことなのか」という疑問を抱えていました。それらを解決していくためにタスクフォースが立ち上がりました。
元々は、オペレーション観点でお客様の引き継ぎを円滑にするためのプロジェクトとしてデータの統合基盤を検討していたところに途中から参加し、部門横断でのデータ統合とマーケティング活用のビジネスデザインを進めていきました。2018年にはIT部門が中心となり「お客様情報(CE)基盤」を構築し、オペレーション変革を果たしました。
実働部隊では難しいトライアルを部門横断で挑戦
福田:たとえば、どんな1to1を実現されたのでしょうか。
中野:定時運航が当社における重要なミッションなため、お客様にはなるべく早く空港にお集まりいただきたい。それに向けて、我々からのアプローチでお客様の行動を変化させることができるのかを試すトライアル施策を実施しました。
内容は、出発前日にメールで「保安検査場の45分前までの通過で空港売店の500円クーポン配布」を告知して、当日通過すると搭乗口に最も近い売店のクーポンが届くというもの。
遅延発生が多い便におけるお客様の保安検査、搭乗口通過状況などを分析するのですが、実際には急な予約キャンセルなどが発生するので、データをどのタイミングでリアルタイムに着火させるのか、設計を工夫しました。クーポン利用率はかなり高かったです。
そうした実働部隊ではやらせてもらえないような実験を、部門横断で行っていました。それが2016年から2年ぐらいのことです。
タスクフォースと並走して、新会社「ANA X」の立ち上げにも参画していました。