エリアビジネスのデジタルに対する拒否感を一新したい
――まずは自己紹介をお願いします。
近内:デベロップジャパンの近内です。当社は、マンション開発を中心とした建設会社・デベロッパーである長谷工グループにて、デジタルマーケティングやWeb施策を担う企業として約20年前に立ち上がりました。ホームページの制作を始め、当時は珍しかったネットでのマンション販売など、デジタルを中心としたマーケティング&プロモーションサービスを提供しています。私は営業担当として、お客様の課題解決のためのコンサルティングを行い、様々なソリューションをご提案しています。
藤森:私はデベロップジャパンが指揮を取る、長谷工UXデザインセンター(UXD)というプロフェッショナル・コンソーシアムに参画しています。UXDは約30社から130人が集まり、DX推進やデジタルマーケティング関連のサービス・ソリューション開発などを行っています。
――コロナ禍で、購買行動のデジタルシフトが急激に進みました。不動産をはじめとするエリアビジネスのデジタルの取り組みにおいては、どのような課題が顕在化していますか。
近内:不動産などのエリアビジネスにおいては、お客様は直接販売センターにご来訪いただかないとサービスを受けることができませんでしたが、コロナ禍により対面でのサービスが難しくなっています。しかし、これまでアナログを中心にエリアビジネスを展開してきた事業者は、どう取り組めばいいのかわからず、対応できていないのが現状だと思います。
近内:コロナ禍以前は、デジタル化という課題を感じていなかった事業者も多かったのではないでしょうか。Webサイトの構築すら一般的ではなかったネット黎明期に、ネット上でマンションを販売しようという話が立ち上がったときも、「ネットでマンション販売は不可能では」と、業界内で疑問の声が多く上がっていました。今でこそ「DX化推進」という声も聞かれるようになりましたが、デジタルに対する拒否感は根強く残っているように感じます。
藤森:エリアビジネスの現場において、多面的なマーケティングデータを分析し、それに基づいて戦略を立てるという文化は、まだ根付いていないように思います。たとえば、新築マンションの集客・販促施策は、各物件のブランディング先行で、垂直落下的なフローで進められています。
- CGパース(立体的な住宅図)のデザインを決める
- それを基にパンフレットやチラシに起こす
- Webサイトやポータルサイト、広告用バナーにデザインを転用する
- 物件の近隣エリアにチラシを配布、翌週にチラシ持参の来場者数を計測する
このフローを持続するにあたり、過去の経験や勘に基づき戦略を立てていることが多いと感じています。その結果、不動産をはじめとしたエリアビジネスの中で、チラシを一万部配って一件申し込みが入れば良い、という感覚が生まれてきたのだと思います。
藤森:UXDは、こうした経験や勘に頼っていた部分をデジタルでより効率的に効果的な結果を出せる仕組みを作り出すことをミッションとしています。その一つの解として「DAMソリューション」の開発を進めてまいりました。
認知から来客まで、施策実施をサポートする「DAMソリューション」
――DAMソリューションはエリアビジネスのDX推進を支援するものだそうですね。詳しく教えてください。
藤森:DAMソリューションは、マンション販売や自動車販売、結婚式場の案内など、エリアビジネスに関わる業界に向けたデジタルマーケティングソリューションです。商品・サービスの認知啓蒙から理解促進、プレ見学まで、一連のサービスを備えており、エリア分析と動画ソリューションによる効果的なエリア集客「GEO-DAM(ジオ・ダム)」と、バーチャル見学体験を実現する「Air-DAM(エアー・ダム)」の2つから構成されています。
GEO-DAMは、動画広告のクリエイティブ制作からエリア分析・配信までを担い、商圏エリアのお客様のニーズに合った情報を提供できるように工夫を凝らしています。具体的には、行動履歴や居住地、デモグラフィックなど複数のデータから導き出したロジックに基づき、動画を配信。動画クリエイティブは、お客様ごとの購買フェーズに対応していることに加え、他の広告施策とも連動しています。
――なぜ「動画広告」に着目されたのでしょうか。
近内:消費者を取り巻く環境を見ると、動画サービスやコンテンツが浸透しています。一方、エリアビジネスではいまだにチラシと看板がメインで、その延長でWeb施策を展開しているという状況です。チラシや看板に使っている静止画をバナー広告に転用することも少なくありません。そこで、顧客体験のアップデートを図りたいと思ったのです。
特に不動産やブライダル、自動車など、空間としての価値を提供するサービスでは、テキストや写真だけではどうしても伝えきれません。エリアビジネスと動画の相性は良いものだと考えています。
――なるほど。もう一方のAir-DAMはどのようなソリューションですか。
藤森:Air-DAMは、あたかも店舗や販売センターに来たかのようなバーチャル見学体験が可能なサービスです。予約管理、接客に必要なシステム、設定済みの機材レンタル、マニュアル、導入支援までワンストップでかつ月額5万円という導入しやすい価格で提供しています。
――従来のWeb商談システムとは、どのように異なるのでしょうか。
藤森:Air-DAMは商談に重きを置くのではなく、満足度の高い体験をお客様に提供することを目的に開発しました。表情や声のトーンなど、お客様の心の機微を読み取り、販売スタッフ自ら動きながらコミュニケーションを取れるように設計されています。そのためコロナ禍でも、安全安心なご案内が可能です。これにより、「気になる商品・サービスをストレスなく見たい」「遠隔地に住む両親と一緒に商品を見たい」といった要望に応えることもできます。また、マンション販売においては、自宅と比較しながら案内を受けられるなど、これまでにはなかった新たな価値も生み出しています。
近内:これら2つのソリューションで得られた、集客データや来場データを基に、次の戦略策定にも活かすことができます。DXは、PDCAサイクルを回すところまでできなければ意味がありません。DAMソリューションを通じて、認知・比較検討から見学まで、一気通貫での販促活動の見える化をサポートしています。
来場獲得数は2倍に 来場獲得単価も30%削減
――既にDAMソリューションを導入されている企業もいらっしゃるとのことですが、どのような効果が上がっていますか。
藤森:住宅販売業界の事例では、DAMソリューションを活用した月は、そうでない月と比較すると全体の来場獲得数が2倍になっています。ネット広告やポータルサイト、チラシなどこれまで分断されていた集客施策に相乗効果をもたらすことによって、達成された数字だと見ています。また来場獲得単価においては、チラシ、ポータルサイト、バナー広告などとの比較で、30%のコスト削減につながっています。
――DAMソリューションは他にどういったビジネスで活用できますか。
近内:高額な商材についてはオンラインで見せる手法が有効だと思います。たとえばウェディングにおいては、バーチャルでのウェディングに加え、その前段階の会場、ドレスの下見に加え、海外ウェディングのロケーション確認にも使えるソリューションです。その他、ショッピングモールのイベント集客などにも活かせるのではないでしょうか。物件見学、式場見学、車の試乗など、敷居が高いと感じているお客様は少なくありません。そういったハードルを下げることもできます。
藤森:「店舗や販売センターに行きたくても、まとまった時間が取れない」というお客様にもメリットがあると思います。欲しいタイミングと時間が空いたタイミングが同じとは限りません。忙しい中で時間を作っていくと、苛立つ感情を抱える中で接客を受けることになります。それならば時間を短くしてオンラインで何回か見たり話をするほうがいい。DAMソリューションは、消費者、事業者の双方に喜ばれる解決策になると思います。
――最後に、エリアビジネスのマーケティング担当者に向けたメッセージをお願いします。
藤森:消費者にとって選びやすい、行きやすい、話しやすい、といった「体験」をDAMソリューションで実現していきたいと思っています。
情報があふれている昨今、企業がメッセージを伝えようとしてもなかなか受け取ってもらえません。また、メリットや特長だけを伝えれば買ってもらえるという時代ではありません。DAMソリューションを通じてデジタルを取り入れた販促活動を展開することで、ビジネス全体を変えていくことができると考えています。
近内:消費者の“ノーマル”が変化しているニューノーマル時代は、商品の買い方、選び方なども変わってきています。エリアビジネスに携わる方は、このような変化を今一度認識する必要があるのではないでしょうか。
とは言え、すべてがデジタルになるわけではなく、アナログも残ります。チラシが完全になくなるとは思えません。これからはアナログとデジタルをうまく融合させる必要があるので、我々もその点を模索していきたいと思っています。