SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

「withファン」レポート

「概算でいいから納得感のあるロジックを作る」自由度の高いSNS運用を実現する、“概算力”とルール作り

概算力で来店効果を試算する

徳力:社内に対してSNSの価値や効果をどう伝えるのかは、ファンマーケティングをやっている我々としては、つねに課題としてあります。

 お話を伺っていると、すかいらーくの社風として特段、新しいものやSNSに積極的に取り組みたいという姿勢があったわけではなく、進める上で、吉田さんが社内の信頼関係を築くための説得材料を要所要所で置いていた、ということがわかります。そのようなことが、冒頭で出た効果試算の話に繋がっていくのかなと思いますが。

吉田:自社SNSは社内資産として価値がありますと言っても、どのくらいに試算をするかは難しいですよね。けれど、既存のものをつかって評価を作る必要があると思いました。そうしないと、マスメディアを運用しているチームでは効果が出ているのにSNSの効果はわからない、となるとSNSのチームにいる社員の評価や存続に関わりますよね。

徳力:そこで編み出されたのが、SNSで納得感のある効果試算を出す「概算力」というもの。

吉田:概算でいいから納得感のあるロジックを作ってみよう、ということです。これは飲食店でのSNSの来店効果を計るロジックで、次のような式で運用しました。

来客数見込み=インプレッション数×来店率×純増率

 このとき、基本となる考えは何人に情報を届けたら(インプレッション数)、そのうち何パーセントの方がお店に来る(来店率)のか、ということです。

 まず来店率については、すかいらーくでは某デジタル広告プラットフォームの位置情報が使える広告を出した際に2週間以内にお店に来てGPSで10分以上そこにいれば来店と見なすというデータを使いました。広告とソーシャルメディアのつぶやきは同じではありませんが、スマートフォン上での画面の占有率は同じくらいなので、まあ大きな違いはないかという考えで。

 インプレッション数はつぶやきが閲覧された数になりますが、これについては、投稿の内容をジャンル分けとしておき、「今日もいい天気ですね」といったTwitterでのルーチンのコミュニケーションは来店効果から除きましょうとか、内容ごとに波をつけて来店率をかけています。

 次に純増率には、すべてを純増したと考えていいかを考慮して調整するためのものです。たとえばフォロワーさんは元々おそらく頻繁に来店している人も多いので、半分くらいに数える必要があるかもしれませんし、あるいはテレビとソーシャルメディアなど、別の媒体で同時に広告があたっている場合は調整値が必要になる、ということでここに入れました。

徳力:インプレッションとデジタル広告を参考にした来店数だと数字が高すぎるかもしれないところを補正するような調整をかけて、概算値の導き方を生み出したのですね。

吉田:そうですね。来店が位置情報で取れなくても、たとえばメーカーで直営ECサイトがあれば、何人がサイトを見に来て、そのうち何人が買ったかといったものを<率>に転用してもいいのではないかと思います。あるいはテレビに出たときに話題になってどれだけ売れた、とか、注文数や在庫に波が出たことがあればそういうものを参考にできると思います。

方程式の変数をKPIにする

徳力:本当の数はわからないところがSNSの効果の難しいところですが、実数でなくても理解は得られるのでしょうか?

吉田:そうですね。こういった式でいうと、ある程度理解していただけます。「これだけのお客様を呼ぶのに、これだけのインプレッション数が必要です。このうち3分の1はオーガニックで呼ぶとして、他にはお金が必要です」という話をすれば、予算を申請しやすくなります。この際、お客様が呼び込めれば、投資する金額に対する回収はこうこうなのでROIはいくらです、ということも添えています。

徳力:会社に施策にあわせて概算式を作るというのが重要なところですね。あわせて、納得感を得るには、信頼関係も必要かもしれませんが。

 今はみんな、デジタルの効果測定にすごく困っています。かたやECはコンバージョンが取れますからコンバージョンに寄りすぎているけれど、リアルなブランディングビジネスをしてきた方々からすると、売り場で本当に売れたのか、という手応えがないというか。テレビ広告だと数字がスパイク的に伸びるので実感できるけれど、デジタルマーケはそうはならないですからね。ほんとうにデジタルのおかげなの? という不安感を持ってしまうようです。吉田さんは今、コンサル先でも何らかの方程式を導入しているのですよね

吉田:はい。何かしらの指標は社内にあるはずで、代わりになるプロモーションの数字などを探します。また、社内で気に入られているメディアとか広告媒体で使っている数字を使うと、やっぱり気に入られやすいということが実感としてありますね(笑)。

徳力:わかるな〜(笑)。そういえば、無印良品ではチラシと比較していました。そもそもアナログの効果測定だって、仮説で数式を作り出してきていたわけですからね。

吉田:大事なところなだと思っているのが、この作った式の変数をKPIにする、というところです。

 先ほどの式ならば、インプレッション数がKPIです。SNSのKPIがインプレッションって単純に聞こえるかもしれませんが、決めたKPIは建前上はしっかりと追いかけて達成する、目標は愚直にクリアにしていくということは心がけました。

 たとえば悪天候が続いて売上達成が厳しい時などに「来月はちょっとSNSの予算はお休みしますか?」となってしまいかねないと思うんです。社内レポートを出し続けることでフリークエンシーを上げてちゃんと達成してます、という報告を絶やさないことも大事。それは自分たちの生産性を高めるためにも大切だと思います。

 最後に、そうやって続けるうち、KPIを動かせる投稿の型のようなものが見えてきます。見えてきたらそこは定型にして使っていくことで、運用者がゼロから考える労力も抑えることができます。

徳力:最初は概算力式を仮説としてKPIにもちいて、だけどそのあと本当に効果のあることを回しながら磨いていくという感じですね。

 ちなみに、僕がコロナの影響で残念だなと思ったのは、効果がよくわからないところからプロジェクトや取り組みが停止されている様子をまのあたりにしたことですね。ファンマーケティングは速攻止められたというところもあります。

 もしも、コロナ前からこういうふうに数字を用いていれば、コロナの時も「これは続けて大丈夫」となったものもあるかもしれません。やはり常に回りや経営層を納得させられる材料は必要なので、ぜひ、みなさんも今回の効果測定方法を参考にして自社の式を作り、KPIを作っていって欲しいと思います。

次のページ
こんな時はどうする?効果測定の式を組み立てるためのQ&A

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
「withファン」レポート連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

吉田 朗子(ヨシダ サエコ)

アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 マーケティング部

広告代理店とカナダでのワーキングホリデーを経て、2018年アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)入社。AMNでは、マーケティング部に所属しながら”寄り添う企業として”をスローガンにしウェビナー、イベントなどを開催中。個人では保護犬のボランティアなどを行いながらより良い未来を模索している。

アンバサダープログラム事業部:https://agilemedia.jp/ambassador-program

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

宮崎 綾子(ミヤザキ アヤコ)

編集者。編集プロダクション勤務を経て2009年に独立、“ひとり編プロ”アマルゴンを運営。PC・スマホ・ウェブ関連の技術&カルチャー書籍編集制作を中心に、PRコンテンツ企画など幅広く関わる。電子書籍の導入期にはImpress QuickBooksシリーズに参画。実績は https://amargon.net

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

田口 和裕(タグチ カズヒロ)

タイ在住のフリーライター。ウェブサイト制作会社から2003年に独立。雑誌、書籍、ウェブサイトなどを中心に、ソーシャルメディア、クラウドサービス、スマートフォンなどのコンシューマー向け記事や、企業向けアプリケーションの導入事例といったエンタープライズ系記事など、IT全般を対象に幅広く執筆。著書に『できるfit メルカリ&LINE&Instagram&Facebook&Twitter 基本+活用ワザ』(インプレス・共著)、『ゼロからはじめるテレワーク実践ガイド ツールとアイデアで実現する「どこでも仕事」...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/11/09 08:00 https://markezine.jp/article/detail/34726

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング