コンテンツの狙いは最初に足を運んでもらう動機づくり
徳力:おっしゃる通りだと思うのですが、コンテンツに寄ると企業内であまり喜ばれないことも多いように思うのですが、いかがでしたか。

吉田:飲食なのにインセンティブに飲食以外のコンテンツを使うから、ということですよね。私はお店に足を運んでいただく最初の動機は、食べ物以外の理由であってもいいのではないかと考えていました。まずはお店に「○○しに行こう」と来ていただき、そこで食べた経験が「思っていたよりおいしい!」となって2回目、3回目に繋がっていけばいいと考えたのです。
またお客様心理として、友達の評判は信用しても公式アカウントの言うことはそこそこに受けとめるということがありますよね。公式アカウントで「バーミヤンのラーメンはおいしいですよ」といくら言っても「あ、そうですか」くらいですが、第三者のつぶやきで「このラーメンは絶対食べて……!」と話題になれば、行かなければならないような気になるものです。多くの人に話題にしてもらい、目につきやすくするためにも、コンテンツを使って話題を増やし、インプレッションを増やす努力はやる価値があります。
ですから、よくまわりの説得には「Twitterアカウントは“封筒”のようなもの。届けるためには“中味”が必要」と言っていました。SNSでお客様を呼ぶコンテンツを作って話題を作り、そして実来店を作りましょう、と。
「自由度のあるSNS運用」を実現するための“ルール”を作る
徳力:吉田さんについて印象深いのは、Twitterで話題になった「外食戦隊ニクレンジャー」が2018年のWOMJアワード(WOMマーケティング協議会)を取った際の授賞式ですね。あの時語られたこぼれ話の印象がとても強くて。あれは、いろいろな意味でよくやったな、凄いなあ! と。会社にはコラボする件は言ってなかったんですよね。

「外食戦隊ニクレンジャー」とは
「肉関連の企業で『ニクレンジャー』を結成しませんか?」という吉野家公式アカウントの呼びかけに、競合5社がTwitter上で次々と乗っかり生まれた戦隊ヒーロー。そのスピード感から大きな話題となった。
吉田:事後承諾でしたね(笑)。最初に成功するとわかっていれば、許可を取りに行っていましたけど、そこまでは考えていませんでしたから。思った以上の大きな反響があり、翌日のワイドショーに出ると決まったときは翌朝急いで出社し、上司に口頭で報告しました。
徳力:驚かれたでしょう。
吉田:メールで伝えるのでなく直接言うのがいいかなと思って朝伝えたら「なんだ、はやく言ってよ」ってなりましたよね。
徳力:ニクレンジャーも許容されるくらい、自由にできたのはなぜですか。
吉田:Twitterを始めるまえに企業アカウントを見てまわっていて、参考になるアカウントはある程度自由度が高い、と思っていました。しかし始める前から「好き勝手やりたいです」では許可が下りませんよね。そこで最初にやったのは、Twitterの企画ではなくて、細かいルール作りでした。
徳力:それは、ガイドラインや運用ポリシーのようなものですか。
吉田:そうです。「こういうルールで運用します。こういうことはいたしません」と明示して、全体の枠を出し、承認をもらいました。その代わり「その中での運用であれば、飛び跳ねたものがあったりしても任せていただく」ということで。
徳力:最初に承認を得る方法としては、抜群のやり方ですね。元々デジタル施策を会社に説明する方法は身につけてらっしゃったんですか。
吉田:それによってある程度の規模の予算は確保しなければ、SNSは続けられないと思っていましたから、社内資産としてこれくらいを見込める活動ですよ、という数字を出す必要があると思ったのです。