「オンライン」が「オフライン」を包含する時代に
徳力:本日はパルコデジタルマーケティングの唐笠さんをゲストにお招きしました。よろしくお願いします。
唐笠:ショッピングセンターPARCOのWebサイトやEC、アプリ、店頭のデジタルサービスなど、デジタル分野を担当している唐笠です。社名からPARCOの運営だけを行っていると思われることもあるのですが、パルコデジタルマーケティングでは、PARCO以外のショッピングセンターや百貨店、小売・外食企業のデジタルマーケティング、デジタルシフトのお手伝いも数多く行っています。
徳力:それでは、早速本題のOMOについて伺っていきたいと思います。OMOは2019年頃から盛んに言われていますが、それまでは「オムニチャネル」がトレンドでしたよね。
唐笠:オムニチャネルは、オフラインを軸にオンラインをアドオンするというアプローチが主でしたが、それがだんだんと古い考え方と捉えられるようになりました。なぜなら、現代の消費者は常時ネット接続しており、オフラインにいるときもネットに繋がっているからです。
そこで出てきたのがOMOという概念です。OMOはOnline Merges with Offlineの略称で、オフラインがオンラインに包含され、“オンラインと紐づかない意味でのオフライン”がなくなるという考え方です。藤井保文さんの著書『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)では、こうした世の中を「アフターデジタル」と表現しています。
唐笠:では、ネットに常時接続している消費者に対し、事業者はどう繋がっていけばいいのか。どういう情報を提供し、価値を提供するべきなのか。これが、現在事業者が抱えている課題です。
ざっくりですが、以上がOMOについての簡単な説明です。OMOについてちゃんと勉強したい方は、『アフターデジタル』を読むことをお勧めします(笑)。
スマホアプリを中心に据えたPARCOのOMO
徳力:消費者が変わっていくなかで、PARCOではどんな課題を抱えていたのでしょうか?
唐笠:PARCOに限らず、ショッピングセンターやリテールは、こうした消費者の変化にあわせて、進化が求められてきました。20年ほど前に比べ、家計におけるファッション・アパレルへの支出はかなり低くなってしまいましたし、ECでなんでも買えて翌日には届く時代、店舗へ足を運んで接客を受けて買うという価値・意味も変わってきたからです。ネット×スマホでお客様の買い物技術は著しく向上し、販売側より情報をもっていたりする場合も多い。店舗でもECでもなく、メルカリやラクマといったフリマアプリで売り買いするのも普通です。
そうした「いつでも、どこからでも買える」時代に、お客様に選んでもらいつづけるために何をすべきか。これが一番の課題でした。
またPARCOのようなショッピングセンター業態は、お客様を属性やターゲット層といった「集合体」でとらえ、それにマッチするテナントさんを誘致し、館をプロデュースするというアプローチで長い間やってきました。
それに加え、今後はデジタルを活用することで「お客様それぞれ(=個客)」の興味・関心や嗜好を理解した上で、個客に対し「商品・サービス単位での提案と、シーンに合わせたコミュニケーションができるようにしたい」と考えていました。
そして、そのためにはオンライン・オフラインにおける様々なデータを蓄積し、個客を理解する必要がありました。
徳力:そこで生まれたのがスマホアプリ「POCKET PARCO」ということですね。
唐笠:その通りです。「POCKET PARCO」は2014年末にリリースし、翌2015年に全店展開しました。その後も機能追加などのアップデートを行っています。下図は2014年リリース当初の仕様・機能です。
唐笠:まず“来店前”の部分、PARCOではテナントのショップスタッフさんがブログで情報発信できるプラットフォーム(ショップブログ)を用意していて、これがスマホアプリ内のメインコンテンツのひとつとなっています。アプリユーザーそれぞれのブログ記事の閲覧やクリップ(いいね)など、興味・関心や嗜好が収集可能になりました。
次に“来店後”のオフラインでは、スマホアプリでチェックインしてもらうことで来店情報を記録。また、事前にスマホアプリにクレジットカード情報を紐付けてもらうことで、どのショップでいくらお買い上げいただいたか、購買情報を紐付けられるようになりました。
実は、アプリを作るまでは、こうした購買情報がほとんど取れていなかったんです。