メディア消費&購買行動に「新たな傾向」が
Facebook Japanとニールセン・メディア・ジャパン合同会社が共同で開催したウェビナーでは、「消費者⾏動の変化とプランニングへの反映」「ニューノーマルにおけるメディア活用」の2つをテーマに、Facebook Japanの倉迫有沙氏と、ニールセン・メディア・ジャパン合同会社の逢坂嘉世氏が解説した。
はじめに逢坂氏が、コロナ禍における消費者行動について説明した。まず注目すべき変化が、メディア消費の増加だ。年代別・メディア別に見ると、35歳未満、35歳から49歳のセグメントでは、特に男性のテレビ総利用時間が増加。その反面、デジタルの総利用時間は減少していた。また、50歳以上は、ソーシャルメディアの利用が増加していた。
続いて購買行動においては、ECが急速に一般化し、日常的な購買手段になったことがうかがえる。逢坂氏はその上で、あるインサイトに注目すべきだという。
ニールセンの調査によると、国内のEC購入金額は新型コロナウイルスの感染拡大後に上昇し、利用ユーザー数も増加。一方で、ECサイト内の滞在時間は減少している。逢坂氏は「消費者は、購入サイトへアクセスする前から何を買うかを決めており、必要な物以外は買わないという行動をとっている」と説明した。
またコロナ禍で“やむなく”ECを利用する層も少なくない。日本を含むAPACの調査では、「オンライン購入をしたが、やはり店舗での購入が望ましい」との回答が、食品・飲料と家庭用品のカテゴリーで特に多く見られていた。
一時的な広告控えが、収益のプラスになるとは限らない
広告費への投資はどうだろうか。APAC全体の2020年におけるマーケティング予算は、オフライン・オンライン媒体ともに削減傾向にある。だが逢坂氏は、2006年から2019年のブランディングトレンドに注目する。この間、リーマンショックをはじめとする様々な出来事が起こり、その度に人々の消費行動は変化してきたが、継続的に広告を続けたブランドは売上回復が早かったという。
「継続的な広告出稿は、ブランディングだけでなく、中長期的な売上にも貢献します。広告には残存効果があり、広告をストップすると、これまで構築されてきた広告残存効果(アド・ストック)がゼロに戻ってしまうのです。たとえ広告を再開しても、以前の残存効果のレベルに達するまでは時間がかかり、結果的に、売上に影響が出てしまいます」(逢坂氏)
ニールセンの分析によれば、広告を1四半期止めた場合、その期間の収益2%に影響があり、1年では11%もの減収につながる結果が出ている。一時的な広告控えが、収益のプラスになるとは限らないのだ。
ここまでの結果を踏まえ、データから見えた生活者の新しい行動パターンについて、逢坂氏は次のようにまとめた。
「生活者のメディア接触の変化を考慮した統合的なマーケティング活動が求められています。ECの一般化を考慮し、オンラインを前提としたサービス改善に努めながら、ブランディングの早期回復と中長期的な利益を見据えて継続的に広告を出稿していくことがポイントです」(逢坂氏)
効率よく統合マーケティングを行うための分析手法とは?
続いて倉迫氏が、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)による、メディアプランニングの最適化について解説した。
統計モデルを用いた計測方法であるMMMは、テレビ・チラシ・雑誌などのオフラインメディアだけでなく、オンラインメディアについても同一の指標で判断する。ROI評価を施策に活かすことで、統合マーケティングで成果を挙げることができる。
続いて倉迫氏は、現在なぜMMMに注目が集まっているのかを説明。接触メディアや購買フロー、手段が複雑化し、どの施策がコンバージョンへ貢献したかが、追いづらくなっている。また、データポイントも複雑化し、さらにGDPRやITPなどのプライバシー規制が強化され、顧客ごとの計測が難しい。これらの課題を、MMMはクリアするのだ。
「MMMは、個人レベルのデータではなく、オフラインを含め全メディアの出稿量/施策の露出量データを基に分析します。ビューやクリックなどの指標ではなく、完全なる出稿量で分析するため、メディアを公平に評価できるのです」(倉迫氏)
MMMでは、様々な示唆が得られる。たとえば、最適なクリエイティブフォーマットやキャンペーン配信の方法。テレビとInstagramの相乗効果や、オフライン施策のオンライン売上への貢献度も追うことができ、ラストクリックに偏らない評価が可能だ。また、外部要因も数値化して分析するため、「コロナ禍で本当に売上に変化があったのか?」といった疑問も解消できる。
倉迫氏は、過去のMMM実施例としてネスレのフィードバックを紹介。「メディアごとにROIを可視化でき、売上の寄与が横並びに評価できた。メディアごとの最適な出稿ボリュームもわかり、次のメディアプランニングに活かせる」(ネスレ日本・村岡慎太郎⽒)と、満足度は高いという。
デジタル広告は予算が不足気味。追加投資でROI改善の可能性も
続いて、逢坂氏が再び登場。MMMのメタ分析として、ニールセンが提供する世界最大のマーケティングROIリポジトリ「ニールセン・コンパス」を利用した分析結果を報告した。
この分析は、不透明な時代におけるメディアの選定基準をテーマに、「効果を効率的かつ持続的に向上できるメディア/プラットフォームはどこか」「予算を投資することで伸びが期待できるのはどこか」の2点を明らかにすることを目指したものだ。
まず逢坂氏は、次のグラフを提示。それぞれのパーセンテージはMMM事例の中で、各媒体のROI(費用対効果)が1円以上だった割合を表す。たとえばテレビの場合、過去に行ったMMM事例のうち24%が、ROI1円以上だったことを意味する。
媒体ごとに比較すると、デジタルプラットフォームは安定的にROIが1円を上回っていることがわかる。さらにROI指数を見ると、Facebookなどのデジタルプラットフォームは平均的に高い傾向があり、広告費を投資した場合、安定して高いROIが期待できることがうかがえる。
続いて、次のグラフが提示された。
グラフのY軸とX軸の間に描かれた飽和カーブからは、媒体ごとの出稿量の適正範囲をチェックできる。適正範囲とは、その媒体が一番効率よく売上に貢献できる広告出稿量の範囲を意味し、ニールセン・コンパスによると、日本では45%のテレビの広告キャンペーンが適正範囲以上の出稿量となり、Facebook/Instagramの62%の広告キャンペーンが、適正範囲未満の結果が出ている。つまり、デジタル広告にはまだまだ投資を増やす余地がある。
「デジタルキャンペーンの多くは、出稿量が適正範囲を下回っており、投資を強化することで、ROIを向上できる余地があると考えられます」と、逢坂氏は分析結果をまとめた。
花王はMMMで動画広告の伸びしろを見つけ、売上UPに
ここまでの話を総括すると、他媒体に比べてROIの中央値が高く、比較的安定して1円以上を維持するデジタルメディアは、まだまだ投資の伸びしろがあり、不透明な時代のメディアプランニングに重要な役割を果たす選択肢の1つである。
あわせて、ブランドのデジタルへのメディア予算配分率とトータルメディア(全プラットフォーム統合)ROI指数の関連性を見ると、「デジタル広告の投資の割合が高いブランドほど、トータルメディアROIが高いことがわかる」と逢坂氏は指摘。
では、デジタルキャンペーンを拡大するなら、どのように活用することが最適か。逢坂氏は、MMMの分析結果から、「Facebook施策の継続活用がFacebookのROIの向上につながり、売上に貢献している」と言及。実際にFacebookのROI中央値の違いを見ると、Facebook施策の実施週数が26週未満と26週以上では、結果に31%もの差が出ている。
また、以前MMMを実施した花王からは、「検証によって、動画広告より静止画広告に成果があるという結果と、飽和カーブに基づいた適正なレンジがわかり、動画広告の伸びしろを発見した」とフィードバックが寄せられている。前述したとおり、MMMでは違う施策間の相乗効果を可視化できる。花王の調査では、静止画広告とInstagram動画と同時に配信したときの売上リフトは7.07%に達したという結果が出ているそうだ。
媒体の強みを活かすには、適正範囲の出稿量が必要
ここまで、企業が抱える消費行動の変化と広告費の課題に対し、ROIベースの評価ができるMMMの利点が挙げられた。また、各媒体にはROIを最大化する適正な出稿額の範囲があり、媒体間での相乗効果も見込めることも示された。では、なぜFacebook/InstagramのROIは高いのだろうか。倉迫氏がその問いに答えた。
Facebook社が提供する広告プラットフォームのROIが高い理由は、、次の2つ。1つ目は、Facebook/Instagramのターゲティング精度が優れている点。テレビのオンターゲット率が33%に対して、Facebook/Instagramは85%と、届けたいセグメントに対してのアプローチが正しく行えるため、効率が良い。
そして2つ目が、フリークエンシーの上限設定だ。ターゲティング精度が高い分、1人に対しての露出量をコントロールできるため、より効率的にムダのない配信ができるのだ。
これらFacebook/Instagramの強みを最大限に引き出すには、適正範囲の出稿量が重要になる。これは、出稿額の増加だけに留まらない。配信枠を増やし、その枠に適したクリエイティブを設計することも求められる。特に動画は、モバイルファーストのクリエイティブが不可欠だ。さらに、広告主が持つ各種顧客データをFacebookの広告運用に活用することで、より本来のKPIに近い設計の広告配信が実現する。
また、Instagramではブランドだけでなく、一般利用者やインフルエンサーも有力な発信元となる。 倉迫氏は、「第三者配信のインフルエンサーマーケティングを起用したブランドコンテンツ広告がおすすめ」と話す。ジェラートファクトリーの事例を挙げ、「ROASが20%改善、1件当たりの購入獲得単価も29%改善された」とその効果を明かした。
「消費者行動の変化が起きている中でも、継続的な広告出稿は将来の売上向上につながります。マーケティング予算が削減される中、ROIベースで評価できるMMM計測を継続的に行い、効率性の高まるメディアプランニングへつなげることが大切です。その上で、Facebook/Instagramは非常に貢献できるメディアです。引き続き、お客様のROIを高めるご支援を強化していきます」(倉迫氏)
倉迫氏は「Facebook/Instagramを最大限活用するため、適正範囲の出稿量とキャンペーン期間をぜひ検討してほしいです」とまとめ、ウェビナーを締めくくった。
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