未来の赤字を生み出す「付け焼き刃」的な施策
フードデリバリー事業に限らず、2020年の第三四半期末における各企業からの事業発表では一様に「ウイルスの蔓延により都市はロックダウンされ、既存の○○形態にかわってオンライン上の事業が伸びている。そこに注力する」といった、お決まりの文章が並ぶ。
事業を見る目として、これらの「枕詞」の使い方には細心の注意が必要だ。不振の言い訳にしか聞こえかねない事業は論外として、この機に成長した事業にも「付け焼き刃」が潜んでいる。
フードデリバリー事業は付け焼き刃の筆頭かもしれない。同様に流通企業における「ダークストア化」、レストラン業における「ゴーストキッチン化(和製英語ではゴーストレストラン化)」が典型的だ。日本でもファミリーレストランが既存店舗を改装し、宅配専用店舗を新たに開発する動きもあった。これらは目先の売上増加を求めた投資であり、未来資産を生む目的がなく、赤字を拡大させる。
その一方で、AmazonやNetflix、Zoomなどは、2020年より以前から着々と計画していた「その事業の向こう側」をこの時期に花咲かせる。中でも米国のAmazonは2020年11月ついに、オンラインでの処方箋宅配を正式にスタートした。Amazonは拡大させたデリバリー事業の黒字化源泉として、利益率が高い自社のプライベートレーベルを増やしていた。ここに高価格で長期サブスクリプションをする処方薬が加わると、まさに「鬼に金棒」であり、筆者が予言していた「紙芝居事業の飴玉」の成立である。
デリバリー事業が抱えるジレンマ
さて、話をフードデリバリー分野に戻そう。「DoorDash」を始めとする現在のフードデリバリーの事業モデルは、回収したキャッシュの支払先がレストラン主と宅配者の「2方向」に発生し、手元に残る資金は強烈な薄利のモデルである。「DoorDash」を例にすれば、100円の売上で2方向支払い後の粗利が11円、販促費等を引いた営業利益はマイナス2円の状況だ。生き残るためには「自力多売」だけでは追いつかず、水平拡張のためのM&Aが高速で発生する。日本でも「提携」「買収」が一気に広がるはずだ。
既存のレストランやスーパーから見れば、これらのデリバリー・プラットフォームを活用すれば、プラスαの売上増加に貢献できるツールに見える。その一方で、レストランやスーパーが本来育てるべき顧客資産を希薄化させる危険性に気づく。
「旧店舗型のビジネス」に共通する価値の源泉とは何か。それはたとえば「お店の人が馴染み」「好みの食材の品揃えが良いので買える」「いつものアレ、と言うだけでプロの調理方法で料理を出してくれる」など、の顧客の気分を理解し、顔なじみになるといった無形資産だ。
どの事業にも共通の「顧客の心を持つこと」は多種多様で難しい。店舗事業は食事やモノを個数売ることがKPIなのではなく、リモートが進む時代にはより「顧客の心の基盤を自社で持つ」という多様な資産を自社で積み上げることが勝負になる。
ところがレストランやスーパー等の店舗事業主による、新興デリバリー・プラットホームへの軽薄な依存は、単なる売上目当ての補填行為であって、顧客資産の積み上げをサボっているにすぎない。「作る」ことや「集客」することで一網打尽に儲けていただけの店舗事業主は、「配達する」「玄関が見える」という資産についての意識もノウハウも少ない。この盲点が、現在のデリバリー産業の利益源泉として食われているジレンマがある。
にもかかわらず「デリバリー専業」企業側は、これらの顧客資産に対して、いまだ垂直的な「飴玉」アプローチはできていない。それ故に自社特有の価値が作れていないので薄利多売に陥る。
まさにここに店舗事業側にもデリバリー事業側にもチャンスがある。この磯野家に出入りする「サブちゃん」のような独自の関係資産づくりが、「デリバリー2.0」へのステップだ。