売れない原因は、本当にプロモーション活動か?
MarkeZine編集部(以下、MZ):本連載「僕たちのPMFの話をしようか」では、BtoB企業のマーケティング支援を行う才流の栗原さんと、BtoBスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタルファンドDNX Venturesの稲田さん、田中さんが、様々なBtoB企業のProduct Market Fit(以下、PMF)までの道程を取材していきます。栗原さんにはこれまでも様々なテーマでMarkeZineに登場いただいていましたが、今年のテーマをPMFと据えた理由をお聞かせください。
栗原:BtoBマーケティングに関わる中で、営業・マーケティング費用を投下しても思うように成果が出ず、成長が頭打ちになっているケースを多く見てきました。経営者やマーケティング担当者と話をすると、4P(Product、Price、Place、Promotion)のPromotionに原因があると考えていることが非常に多いのですが、実はProductが市場にフィットしていない、そもそも戦う市場を間違えている、という場合が往々にしてあります。マーケターが「自社の事業はPMFしているか?」という問いを持ち、PMFの過程にコミットするようにならなければ、本当の意味で事業成長に貢献するのは難しいのではないかと考えるようになりました。
田中:PMFは主にスタートアップが規模拡大を図る前の段階に関して言及されてきた概念ですが、マーケターの世界でもこのような考え方はあるのでしょうか。
栗原:これまでマーケターの頭の中では、スタートアップ業界では行われている【PSF(Problem Solution Fit)→PMF→GTM(Go To Market)→Growth】という事業成長のフェーズを因数分解することはあまりされてこなかったのではないかと思います。過去何度かPMFしてないプロダクトのマーケティング活動に関わったことがあるのですが、リード数・商談数を増やしても売れないんです。そのときにPMFという概念がないと、広告やLP改善に終始したり、営業トークの見直しやMA/SFAツールを導入するものの、結局は売上が伸びない、という状態に陥ってしまいます。
正しい市場探しが特に重要
MZ:確かにPMFという言葉はマーケティング業界ではあまり使われてこなかったと思います。どういった概念なのか教えてください。
稲田:PMFを最初に提唱したのは、米国の代表的なVC「Andreessen Horowitz」のファウンダーであるMarc Andreessen氏です。曖昧な概念でもあるのですが、本連載では彼の発言に沿って「マーケットニーズを満たすプロダクトで、正しい市場にいること」と定義したいと思います。
彼はブログ記事において、スタートアップにとって重要なものをProduct、Market、Teamの3つとしたとき、“Market”、つまり正しい市場を見つけることを特に重視すべきと説いています。マーケットにニーズがあれば、市場からの要請に応える形で良いプロダクトが勝手に出現していく。逆にどんなに良いチームができても、売り上げが立たなければメンバーは離れてしまいますし、どんなに良いプロダクトができても、正しい市場にいることができなければ、「存在しない需要」を追いかけ続けることになってしまう。これがPMFの発想です。
栗原:マーケターにとっては「プロモーション活動を行う前提条件として、PMFしているプロダクトが必要」という説明が伝わりやすいかもしれません。
稲田:そうですね。4PのうちPromotionだけにフォーカスしすぎず、全部をフラットに見る。4Pすべてを最適化していくというイメージが近いと思います。
田中:もう一つ、nice to haveではなくmust to haveを目指せ、という言い方がされますよね。「ないよりもあった方がいい」と「なかったら困る、なくなったら嫌だ」の差分は、想像以上に大きいものです。1,000人に好かれるプロダクトよりも、100人、10人に愛されるプロダクトになるように磨きこむ。そうすると、Promotionなしでも口コミで勝手に広がっていくようになります。
稲田:ちょうどClubhouseがPromotionを打たずに口コミで広がるということが発生しましたが、この顧客の熱狂で自然と拡がっていくことが、PMFの指標の一つです。
田中:そしてPMFを進めていく上では、プロダクトチーム、営業・カスタマーサクセス、マーケターの全員が「今はPMFのフェーズである」と意識することが本当に大切です。そうでなければ各部門で部分最適がかかり、“見せかけの成長”が作られることになりかねないからです。