「見つける」ためにまずやってみる。「突っ込む」時はスピードを買う
西井:なるほど。ではグロースを実践していきたいと思った時、「見つける」で最も重要なことは何でしょう?
樫田:「まずはやってみる」ことです。これがなかなか難しいという企業も珍しくないのですが、なにはともあれお客さんへ実際に価値を提供しようと試みてみなければ、価値があるかどうかをきちんと測ること、つまり「見つける」ことはできません。近い状況を再現して実行し丁寧に分析すると、LTVは見えてくる。仮に価値が出ないことが判明したとしても、「その領域を攻めない」という判断ができますから、「結果が予測できないから何もやらない」という判断はもったいないと思いますね。
西井:おっしゃること、わかります。リアルな物作りにも、たとえばクラウドファンディングで試作品を出し、ニーズ確認やコンセプトテストができる環境がある。「まずやってみる」は、デジタルサービスに限らず、物作りにおいても同様になっていくのではないかと思います。
西井敏恭氏
西井:一方で、「突っ込む」ことに対し、会社ごとに取れるリスクは異なりますよね。Growth Campでは、どうしていますか。
山代:これまでの知見を基に、「このフェーズだったら、この額のお金は投資しましょう」と、試算しています。会社として許容できるリスクレベルを見極めながら、スピードを買っていくイメージです。スピードを買って、スモールテストを行い、その結果を基に拡張していく。私たちは、そのスピードを加速するエンジンのような存在として関わっています。

グロースはビジネスを選ぶのか?
西井:続いて、グロースの考え方はどんなビジネスに適していると思いますか。たとえば、スタートアップだけなのか、あらゆるビジネスで再現できるのか。いかがでしょう?
樫田:グロースは、[WHY/WHEN/WHAT]の話のように、不確実性が比較的高いビジネスに向いていると考えています。グロースには、「見つけて突っ込む」のような考え方の部分と、「データで分析して、すぐに試していく」といった手法論の2つがありますが、不確実性が高いスタートアップには、その両方が必要。だから、スタートアップとグロースは相性が良いんじゃないかと。
山代:一方で、グロースの考え方自体はどの業界・ビジネスにも当てはめることはできるとも思いますね。同じスタートアップでも、アーリーステージでは「誰にどんなふうに使ってもらうか?(=ユースケース)」を追いますし、PMF(プロダクト マーケット フィット)を経て次のフェーズに進んだら、拡張するレバーを探さなければならない。つまり「見つける」対象が変化しただけで、どちらもグロースと捉えています。
グロースの考え方に必要なものは「スピード」です。「見つけて、突っ込む」サイクルを極限まで早めて回していきます。以前在籍していたP&Gは新商品の構想からローンチまで平均で1.5年以上はかけていました。そこには様々な理由もあり、正しいプロセスだと思いますが、「グロース」のコンセプトとは少し異なるのかもしれません。
カテゴリーの開拓・拡大にも有効
西井:グロースの概念は、スタートアップ以外にも応用できるのですね。市場を開拓する、拡大する目的としても活用できる。
山代:グロースは、シェアを奪い合うというよりは、カテゴリーそのものをどうやって大きくするか、というテーマに有用だと思っています。No.1になれそうなカテゴリーを定義して、自ブランドの浸透率をあげることで市場自体を拡大するイメージです。フリマアプリのメルカリ、ネット印刷のラクスル、施工管理のANDPADのように、市場自体を拡大しながら売上を伸ばしています。

西井:OisixのKit Oisixも、まさにグロースで市場開拓と市場拡大の両方を実践してきたと思いますね。5、6年前は今ほど売れていなかった商品でしたが、一部の熱量の高いファンを見つけ、PDCAを回していったら、市場がグロースしてきたという経緯があります。
山代:やはり、やってみないとわからないところがありますよね。ターゲットに近しい人に使ってもらって、ユースケースを見つけていく。ITやスタートアップはそれがしやすいし、そのような積み重ねが、グロースへつながっていきます。
西井:そうなんですよ。もしも、従来の「市場調査を行い、定量的なニーズがあり、このサービス性と企画性があったとき、このぐらい売れます」というマーケティングをやっていたら、Kit Oisixは誕生していなかったと思います。
