『Hanako』が愛され続ける理由
中川:今回はマガジンハウスで30年以上の歴史を持つ雑誌『Hanako』の編集長を務める田島さんに、『Hanako』が長く愛されるための秘訣、またHanakoプロデュースで商品開発を行う際に意識していることをお伺いしたいと思います。
まず、『Hanako』の創刊は1988年と、30年以上の歴史を誇りますが、それだけ長く続いているのはなぜだと思いますか。
田島:これだけ長く続いているのは、変わらず同じものを出し続けているわけではなく、時代に合わせてブランドの方向性をてらいなく変えてきたからだと考えています。長年雑誌を刊行していると、どの雑誌も時代に置いて行かれそうになる瞬間が必ずあります。ですが、私を含めた歴代の編集長が、時代に並走するための地殻変動を起こしてきたのです。そのアジャストがうまくできている雑誌が、今の時代にも生き残っているのだと思います。
また、実はマガジンハウスの中の雑誌では『Hanako』は若いほうなんです。『anan』は1970年創刊で2020年に創刊50周年を迎えました。同じく『BRUTUS』(1980年創刊)は40周年。『POPEYE』(1976年創刊)も今年で45周年と、長く続く雑誌がマガジンハウスには他にも存在します。これらの雑誌も同様に、雑誌名は一緒でも生まれ変わり続けてきたことで、長い歴史を刻み続けてきました。
中川:地殻変動を起こして雑誌の方向性を時代に合わせてきたとのことですが、具体的にはどのようなアプローチを行ってきたのでしょうか。
田島:私の場合は、雑誌の人格を規定し、そこに沿った、かつ時代にも合っているコンテンツを提供すること。読む人のペルソナを規定することよりも、『Hanako』という雑誌がどのような人に見えるか=人格を規定することが重要だと考えています。
もちろん「20代後半から30代くらいの自立した働く女性」というコアターゲットの設定はあります。ただこのターゲットを細かくペルソナとして洗い出すよりも、コアターゲットの方々が『Hanako』に抱く人格の印象を想像するほうが重要だと考えています。
時代に合わせて雑誌の人格をどう変えていった?
中川:現在は『Hanako』をどういう人格で定義しているのでしょうか。
田島:ひとことで言えば、女子会で幹事を任される人、でしょうか(笑)。先ほどお伝えしたコアターゲットの人たちが「こういう人が友達でいてくれたら頼もしいなあ」と思う存在でいられることを常に意識しています。
チャーミングでパワフル、そして最近のフードやスイーツ、旅行のトレンドにも詳しいから、とにかくみんなに頼られる。でもときどき真面目にSDGsのことだったり働き方のことについて相談にも乗ってくれる。このような人格の“ハナコさん”を編集部員に共有して、そのイメージのもとで『Hanako』を作り上げています。
中川:女友達に欲しいタイプというのは創刊時から変わっていないんでしょうか。
田島:どうでしょう。でも創刊間もないバブル期に「年間3回は旅行に行くのが当たり前」と提案していた時代でも、単なる浪費ではなく様々な経験をすることが大切だと、新しい引き出しを見つけることの大切さを提案していたと思います。
中川:しかしながら、この人格を時代に合わせるというのは意外と難しいと考えています。世の中の商品・サービスを見ていても、世の中から少しずつずれていって、ある時売れなくなっていたケースもあります。田島さんは世の中とのズレをどのように認識しているんでしょうか。
田島:『Hanako』に対する世の中の反響を注意深く見るしかないですね。編集長として、常に世の中とのズレがないかを考えて毎号作っています。どうしても世の中とのズレが大きく広がっていくようであれば、大幅なリニューアルを検討するでしょうね。
中川:世の中の反響というのは、やはり雑誌の部数などになるんでしょうか。