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習慣としてのビッグデータ分析 「キラーデータ」の抽出技法と感覚の磨き方

 2021年3月に発売された博報堂生活総合研究所の『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(宣伝会議)がAmazonランキングで部門1位を獲得するなど話題を集めている。「デジノグラフィ」とは、デジタル空間上のビッグデータをエスノグラフィ(文化人類学や社会学で用いられる、フィールドワークによる行動観察)の視点で分析し、生活者の見えざる価値観や欲求を発見するデータ分析の新手法だ。同書の刊行を記念して、日本マーケティング学会主催のオンラインサロンで著者の一人である博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏と、日本マーケティング学会会長でもある武蔵野大学の古川一郎教授、一橋大学大学院の上原渉准教授による鼎談が実現。ビッグデータ新時代にふさわしい熱のある議論が交わされた。

「ソレデ?の壁」を超えるための比較する視点

古川:今回の新刊、大変興味深く読みました。ビッグデータというと、これまではどうやってビジネスの「効率性」や「最適化」を高めるか、という側面では盛んに議論されてきましたが、この本で掘り下げているのは、新しいアイデアを生み出すためにどう使うかという「インサイト」の部分ですよね。

 ちょっとしたおもしろい発見から何か深掘りできないか、ビッグデータからインサイトを獲得できるんじゃないか、という点は特におもしろいなと感じました。

左から酒井崇匡氏、古川一郎教授、上原渉准教授
左から酒井崇匡氏、古川一郎教授、上原渉准教授

酒井:ありがとうございます。『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』では「おもしろい」を超えて議論や意思決定に対して強いインパクトをもたらすデータを「キラーデータ」と呼び、その抽出技法を5つ紹介しています。

 というのも、データを観察して予想外のおもしろいデータを発見できたとしても、「確かにおもしろい。でも、だからなんなの?」という「ソレデ?の壁」が立ち塞がることがよくあるからです。その壁を越えて「キラーデータ」として流通させるためにはどうすればいいか、という点は特に古川先生、上原先生にもご意見を伺いたい部分です。

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上原:「ソレデ?の壁」という話は、私が学生の指導をする際にもよく考えるテーマです。たとえば、本の中では「SNSで顔を隠す人が多い国は?」という話題で、日本・中国・タイ、それぞれの調査結果を比較しています。「日本はこうです」「中国では……」だけだと、「そうかもしれないね」で終わってしまいます。比較することでこそ、その文化の違いも見えてくるわけです。

酒井:日本と中国の若者の投稿画像は、タイに比べて顔を隠した写真比率が高いという共通の傾向がありました。その背景を定性的に探っていくと、「他者の役に立つ情報を強調したい日本の若者」と、「顔以外の自信のある部分を目立たせたい中国の若者」というまったく別の意識が隠れていることもわかりました。

上原:学生たちにもこの「比較する視点を持てるかどうかが大事」という話はよくしています。様々なデータを比較することがきっかけになってどんどんインサイトが湧いてくる、調査の糸口が見つかるのがデジノグラフィの利点なのではと思って読み進めました。

古川:「違和感発想法」という話も本で出てきますが、比較することで「え?」という気づきをいかに発見できるか、ということですよね。私も授業で「銀座 カフェ」と「バンコク カフェ」の検索結果を比べたことがありますが、出てくる写真が違ったことを覚えています。

 たとえば、タイの人はきれいなカフェに行っても自分の写真を撮ることが多いのに、日本の場合、その店で提供される料理の写真を撮ることが多い。先ほども「日本人は役に立つ情報を強調したい」と酒井さんから紹介があったように、「この店に行くとこんな料理が食べられる」という“情報”を伝えたがる側面は確かに興味深いですね。

上原:これは学生に限った話ではありません。ビッグデータを“自分たちのビジネスにだけ”使おうとすると、よく知っている話に帰結しがちです。他社や自分の業界の“外”に目を広げる使い方をすると、自分のビジネスの異質性に気づけるのではないでしょうか。

 たとえば、東京だけでなく大阪や北海道でも調べてみるといった「横の比較」や、「過去との比較」という縦軸でも考えてみる。毎日一生懸命同じ業務と向き合っていると見過ごしがちですが、何ごとも実は緩やかに変化しています。「なぜ変化したんだろう?」という疑問から着想を得るためにも、この本で紹介している「キラーデータの抽出技法」は役に立つのではないでしょうか。

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この記事の著者

酒井 崇匡(サカイ タカマサ)

博報堂生活総合研究所 上席研究員
 2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして諸分野のブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。12年より博報堂生活総合研究所に所属。デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。行動や生声あるいは...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2021/04/23 08:00 https://markezine.jp/article/detail/36106

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