認知や好感度よりもNPIが「相関が高い」結果に
押久保:結果、NPIおよびu-NPIが他の指標よりもマーケットシェアに相関があったのですよね。これをどう捉えられましたか?
竹中:元々我々の肌感を科学的に検証することが起点だったこともありますが、結果は驚くほど仮説通りでした。NPIが1位なのはもちろん、認知、好感度が次にくるだろうという順位まで当たっていました。

竹中:また、予想以上にマーケターの方々から「やっぱり」という反応がありました。「認知や好感度が上がっても、必ずしも売上が上がるわけではないと思っていた」という感想です。
押久保:認知や好感度を拠り所にできない、かといって他の指標もない、とモヤモヤしていた人がある程度いたわけですね。
この結果では、従来のKPIも大きく外れていないけれど、新しいKPIとしてNPIのほうがより事業成長に寄与する点がポイントだと思います。ただ、新しい指標を組織に根付かせていくのは、かなり労力が必要ですよね。何か有効な策はありますか?
竹中:マインドの部分では、チームや組織内で「顧客を具体的な個人としてビジュアルで思い描くこと」をお勧めします。10万人なら10万人の、どんな顔でどんな性格の人がいるのかを想像するだけで、数字に対する姿勢が変わると思います。
具体的なアクションとしては、既存の指標と平行してNPIを測り始めて、売上などと突き合わせてみることがひとつ。その際の注意点としてはNPIを正しく計測するということです。NPIを導き出すには、売上を作りだす顧客の購買・利用行動を適切に反映した調査設計が必要です。
もうひとつは、実際にNPIのある人とない人、つまり9segsでいう「積極」の人と「消極」の人にインタビューすることです。定性的な心理面のニュアンスがつかめてくると思います。現場の方がNPIの重要性を理解され、経営層になかなか届きにくい場合、経営層にそのインタビューを見てもらうのも一手です。
売上や利益の背景に顧客一人ひとりの意志決定がある
長:我々も9segsの導入支援をする中で、特に顧客へのインタビュー時に、クライアントの意識が変わるケースを多く見てきました。顧客が話す様子を別室やオンライン上で、皆で見ていると、「こう考えているからこういう反応をしているのかも」と、急にクライアントの方から声が上がることがあります。顧客を、単なる数字から「人間」として見るプロセスに変換されるんです。
押久保:その変換が大事ですね。マーケターは数字を常に見る仕事なので、売上の背景に一人ひとりの意思決定があることを忘れがちだと思います。
竹中:そうですね。逆に数字と一人ひとりの定性的な理解がつながると、仮説が当たるようになります。たとえば「認知はしているが購入意向がない人」を具体的に描けると、自ずとメッセージやアプローチの案が浮かびますよね。9segsで施策の検証もできるので、マーケターとしての醍醐味を味わえると思います。
押久保:最後に、今後の展開をうかがえますか?
竹中:研究自体はまだ第一歩で、結論の断定には至っていません。再度調査し、時系列で観測した上での因果推論や先行指標としての価値も検証したいです。また、耐久消費財や小売、アプリなど他のカテゴリーも調査中なので、それらも公開できればと思います。
長:M-Forceとしては引き続き、顧客起点の考え方と9segsを用いた経営の仕組みを提供し、事業成長を支援していきます。より多様なカテゴリーや規模の企業で役立つ、普遍的なモデルを確立したいですね。努力が結果に結びつかないのは、やはり切ない。ダイレクトに経営に響く指標を活用することで、現場の労力と経営の投資が最大の成果に結びつくはずです。