コンテンツマーケティングを施策するには
コンテンツマーケティングとは、ブランド認知度の強化、マーケティングキャンペーンの反応率やコンバージョン率の向上、またはテクノロジーや方法論、商品の認知度アップのために無料で情報を提供することだ。そして、今日マーケティング業界を席巻しているマーケティング手法である。
ほかに最近流行りのマーケティング手法を挙げると、オンライン動画、SNS、QRコード、SEO、ライブオンラインチャット、インフォグラフィックスなどがある。
「コンテンツマーケティング」という用語が造語されたのは、1996年にアメリカ新聞編集者協会主催でジョン・F・オフェダルが取り仕切ったジャーナリスト協議会でのことだったと思われる。つまり、もう20年以上前から使われている用語なのである。
実際には、そのずっと前からコンテンツマーケティングの手法は使われてきた。この用語は古くからある手法にただ新しい名前をつけたというだけのことなのだ。私自身、コンテンツマーケティングを40年近く実践してきたが、キャリアが私より長いマーケターもいる。
初めてコンテンツマーケティング・キャンペーンを経験したのは1980年。当時、私は工業製品メーカーのコーク・エンジニアリングで広報部長を務めていた。
この会社が扱う製品の中に、「トレイ」というものがあった。表面に覆いつきの開口部がある金属製の円盤で、原油を精製して灯油やガソリン、ヒーティングオイル、ジェット機燃料などの石油製品を製造するために、蒸留塔の内部に使われる。
クライアントが使う蒸留塔に合わせたトレイの仕様を特定するのは非常に高い技術を要する。そのため、製油所のエンジニアたちに正しいやり方を指示する必要があった。
そこで、コーク・エンジニアリングは「トレイ・マニュアル」という設計手引書を作成した。1部で数ドルの印刷製本代がかかった。表紙は厚紙で、さまざまなトレイの仕様を説明した青写真式の図面が畳み込まれてらせん綴じになっていた。このトレイ・マニュアルは私が入社したときにはすでに使われていた。
トレイ・マニュアルは大好評で、資料請求の件数が一番多かった。まず、潜在顧客の役に立つ貴重な技術マニュアルを無料で提供することで広告の問い合わせ件数が伸びた。次に、潜在顧客はマニュアルを参考にトレイの仕様を突き止める。それはうちの会社の設計アドバイスのおかげなので、当然トレイは競合ではなくうちに注文してくれた。最後に、このマニュアルは精製蒸留塔の権威としてコーク・エンジニアリングの地位を確立するのに役立った。
当時、うちの会社ではこれを「コンテンツマーケティング」ではなく「情報の無料提供」と呼んでいた。手法は同じである。ただ名前が違っただけだ。
コンテンツマーケティングは1世紀以上も前から実践されている。クロード・ホプキンス(1866~1932年)は、印刷物の広告の効果を確かめるために手がけた広告の多くで情報冊子の無料オファーを使っている。
当時は、こういう無料コンテンツはただ「無料冊子」と呼ばれていた。20世紀後半になると、「撒き餌」と呼ばれるようになる。冊子などの無料情報で潜在顧客を釣り上げ、リードを獲得するからである。
今日では、「無料コンテンツ」は「リード・マグネット」と呼ばれることが多い。貴重な情報をタダで提供するという魅力的なオファーは、磁石のように潜在顧客を広告に引き寄せて、ホワイトペーパーなどの無料コンテンツの資料請求という行動を引き出すのである。
コンテンツマーケティングの実効性についてはさまざまな見解や実験がこれまで発表されてきた。しかし、私個人の体験は以下の2点に簡潔にまとめられる。
第1に、無料コンテンツなしでB2BかB2Cのマーケティングキャンペーンを実施したことなど記憶にない。B2Bでは、リード・マグネットが潜在顧客から反応を引き出す主なオファーとなることも多い。B2Cでは、無料コンテンツは製品の購入特典として提供するレポートなどである。
第2に、B2Bではリード獲得のためのキャンペーンでリード・マグネットを使用する場合と、同じキャンペーンでも使用しない場合とでは、問い合わせの件数は平均して2倍かそれ以上に増えることが多い。
さらに、2016年10月3日にフィアスCMOが実施した世論調査によると、有料広告よりもブランドコンテンツ広告の方が消費者にブランドを選ばせる効果が9%高い、と4000人を超える『フォーブス』誌読者が回答している。
古き良きB2Bマーケティングの時代には、製品についての宣伝文句が詰まった「4色刷りの無料資料」が主なオファーだった。当時はそれで効果があった。今では、仕事上役に立つ無料の情報をちらつかせた方が潜在顧客から反応を引き出せるのだ。
コンテンツ作成でよくある7つの失敗
1. 文章が下手
コンテンツ作成は多くの会社において下っ端がやる仕事とみなされている。
ソフトウェア・エンジニアリングなど、高度に技術的なスキルが必要であればあるほどできる人の数は少ない。しかしライティングはソフトスキルで、アン・ハンドリーの著作『Everybody Writes』のタイトル通り、「誰でも書ける」からだ。でも本当にそうだろうか? 書けるとしても、どれくらい上手に?
2018年に他界した著書多数のハーラン・エリスンは、かつて私にこう述べたことがある。
「自分はファンジオよりも凄腕のドライバーだと『人は』思いがちなものだし、運転しているときは自分以外の運転手はみんな下手だと思うものだ。ドンファンのように女性にモテて、女性を喜ばせることができると思っている。それに、文章が上手だとも思っている。キングよりも、ディケンズよりも、ホメロスよりも。実際は、運転するのも女性にモテるのも文章を書くのもこの世で何より難しく、どれか1つでも見事にやりこなせる人はごくわずかで、3つともやりこなせる人などほとんどいないのに」
2. リサーチが適当
グーグルで調べて作ったごた混ぜのようなコンテンツが増えてきている。ライターは下調べ としてテーマを検索して見つけた記事を数本読むだけだ。それらを接ぎ合わせて記事を書くが、 そうして作った記事には独自性も知見も知恵も、新しい考えも見識もない。
3. 楽をしている
コンテンツには4つのレベルがある。低い方から高い方へ並べると、「なぜ」「何を」「どうやって」「やっておきました」の4つである。
初級のコンテンツは、「なぜそうすべきか」を伝える(例「自社のコールセンターを持つべきわけ」)。
記事は説得力があり、重要な決定を下すのに役立つかもしれない。しかし、イエス・ノーの決断を下す後押しをしてくれる以外には何もしてくれない。
次のレベルのコンテンツは、読者に「何を」すればいいか教える(例「自社でコールセンターの計画と運営を行う7つのステップ」)。ステップごとの行動計画になっている。ただ、各ステップをどのように実行すればいいかはこれだとまったく分からない。
さらに上のレベルのコンテンツだと、「どうやって」すればいいかを教える。ステップごとの説明というよりもアドバイスであることの方が多いが。それでも、実行できるステップやアイデアが得られるので、コールセンターの立ち上げという具体的な結果に結びつく。
最高レベルのコンテンツは、読者のために「やっておきました」というコンテンツだ。例えば、テレマーケティングでは事前に脚本を書いておくべきだと主張するのなら、読者が自分の仕事に合わせてカスタマイズできるモデルやサンプルを提供するのである。読む方は時間と労力の節約になる。
あまりに多くのコンテンツライターが楽をして、「何をすればいいか」「なぜそうすべきか」だけを取り上げている。優れたコンテンツは「どうやってそうすればいいか」を教えて、可能であれば読者の作業を一部やってあげるのだ。
4. 専門家にインタビューや事実確認をしていない
技術的な内容だったり、会社独自の方法やシステムだったりすると、表面的な知識は持っているライターが多い。しかし詳細な記事を書くためには、しばしば深い知識が必要になる。その分野の専門家なら、少なくともどうにか理解可能で正確な説明を授けてくれるはずだ。
5. ライターがテーマを理解していない
そのテーマについて大学で学んだ、あるいは仕事上専門としてきたライターをチームに入れておけば、専門知識が役に立つ。
例えば、私は大学で化学工学を学んだが、その知識は化学産業について記事を書くときに役立っている。クライアントの製品について詳しいわけではない。だが、開発者のインタビューではすぐに打ち解けてもらえる。私も彼らと同じく化学工学畑で、専門用語が分かるからだ。
6. 情報源を明示しない
アメリカ企業の35%が自社のコールセンターを所有していると書くのなら、その統計の情報源を読者は知りたく思うものだ。ネット上で見つけたのなら完全なURLを提示する。本文中でもいいし、脚注に入れてもいい。
業界紙でも、業界団体の会合で発表された技術論文でも、クライアントのウェブサイトでも、クライアントの専門家とのインタビューでも、情報源はかならず明示すること。
インタビューで情報をもらったときには、正確を期すためにネット上でその情報源を調べた方がいいだろう。
7. 主観的な意見でしかない
もちろん、自分の意見を書いてもいい。しかし、優れた意見というのは証拠に基づき、統計やグラフ、例、論理的な説明、事実が伴うものである。マーケターはただ主張すればいいわけではなく、その意見の正しさを証明しなければならない。そうでなければ読者を納得させることはできない。