共同体に潜むリスクと、その回避に欠かせない目的の明確化
楠本:ありがとうございます。企業と顧客が「共同体」となり、お互いが支え合う関係を構築するために、企業側が意識すべきことはありますか。

大垣:一番重要なのは企業と顧客が関係する目的の明確化です。共同体に潜むリスクとして、他者の辛さをわからないだけでなく、わかろうとしない、ということがあります。顧客がどんな価値観を持っているか、何を辛いと感じるかをすべて理解するのは難しい。その中で企業ができるのは、目的を提示して顧客と一致させることだけなんですよ。
特に私は企業の定款に書いてある目的やWebサイトで公表している目的が重要だと思っています。どのような事業を何の目的で行っているのかを社員が理解し、顧客に対してもきちんと伝えていく。マーケティング部門であれば、目的に沿った広告やキャンペーンを行うべきです。
目的を果たすために真摯に企業活動に取り組むことが、共同体をより良いものにするんですが、実際には様々な誘惑があります。たとえば、一時的な売上を上げるために、目的に背いた施策を展開してしまうケース。これは顧客への裏切りになり、気づかれた場合炎上します。
その他にも、経営者がきちんと目的を理解していても、全社員が同じ目的を共有できていないことで起きる誘惑や、株主から儲けるために目的とは違うことをしろと言われる誘惑もあるでしょう。
そういった誘惑に負けないためにも、企業は定款の目的を定め、企業のWebサイトに事業目的などを明記すべきなのです。
プラットフォームビジネスは共同体の良い事例
楠本:「企業と顧客が関係する目的の明確化」とは、原点回帰せよというメッセージに近い気がします。「経済的に成長すること」だけが、暗黙的な「企業活動のゴール」とできない昨今では、改めてその様な「目的」に立ち返り、明文化することの必要性を感じます。
ちなみに、そのような「共同体メカニズム」という捉え方のもと、ビジネスができていると感じる企業やサービスはありますか。
大垣:たとえばAmazonは生産者と消費者をつなぎ、共同体として上手く運営できていると思います。Amazonは顧客第一と謳いながら、株主に対しては長期戦略で利益が生まれる説明をし、株主からの理解も得ています。
一方、約100年前の米国のある自動車メーカーは従業員の給与を上げ、工場建設を行うために株主への配当を行わないと判断し、株主から訴訟を起こされ敗訴しました。どちらも良いことをしようとしているにも関わらず、表現の違いでこのような結果になってしまうのです。
また、国内では食べチョクは共同体メカニズムが働いている良いサービスだと考えています。食べチョクも農家と消費者をつなぎ、Webサイトでも食べることが生産者の応援につながる点や生産者の売上貢献を果たしている点が書いてあり、真摯にビジネスを行っている印象があります。