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有園が訊く!

「マス広告を知らない世代」が増加する今、メディア環境とデータ活用を取り巻く次の一手【勝野×有園対談】


 デジタル上でのコミュニケーションは、企業のマーケティングやブランディングを明らかに変革し、速度と深度を増している。有園雄一氏が業界のキーパーソンや注目企業を訪ね、デジタルが可能にする近未来のマーケティングやブランディングについてディスカッションする本連載。今回は、博報堂DYメディアパートナーズでネット広告の黎明期からデジタル事業に携わってきた勝野正博氏がゲスト。今、ネットやデータの活用が広告やマーケティング領域から社会的・政治的イシューにもなっていくなか、どのようなマインドセットを持つべきかを議論した。

業界の常識が通用しなくなった2015年

有園:今回は、博報堂DYメディアパートナーズの勝野さんを訪ねています。長くラジオ広告の担当をされたのち、2003年ごろから博報堂DYグループ内でのデジタル事業の確立に携わられ、2015年からはJIAAの専務理事も務めておられました。メディア論を専門に、学術領域での研究や指導もされています。

 私とはオーバーチュア在籍時の2003年ごろ、ネット広告の黎明期に仕事をご一緒させていただいていました。

勝野:今ではコンプライアンス的に難しいと思いますが、僕と同じフロアに常駐してもらって、いろいろと教えてもらいました。

有園:こちらこそです(笑)。今回は、昨今のメディア環境変化を踏まえて、総合広告会社としてデジタルの変遷をどう捉え、今後をどうお考えかをお聞きします。

 2つ、博報堂DYグループが発表している数字を用意してきました。ひとつは2015年に生活総研が指摘した「2023年に50歳以上人口が50%を超える」こと(※博報堂生活総合研究所 BIG PRESENTATION 2015「デュアル・マス」)。2つ目は、メディア環境研究所の「メディア定点調査2018」で、初めてネットの接触時間が4マスの接触時間を超えたことです。

 2つの層が確立していく2023年は、生活者のメディア接触の観点でひとつの節目になると思いますが、ネットの黎明期からこれまでに節目になったと思われる年はいつでしょうか?

勝野:2015年だと思いますね。生活者のネット広告やネットコンテンツへの態度や意識が、大きく変わった年です。

 広告業界で運用型広告が一般化し、片や生活者にはスマホが普及するなか、広告枠が爆発的に増えました。新しい広告フォーマットの導入とともに、クリックを誘発させるような広告も出てきてしまった。結果的に「広告うざい」と思われ出した時に、アドブロックツールやアプリが登場しました。当初は業界側は強気でしたが、1年足らずで「広告がユーザー体験を阻害しているなら是正すべき」と論調が変わりました。IAB()でこの問題が議論されたのも、2014~2015年ごろだったと思います。

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上級研究員 勝野正博氏
(2021年4月取材時)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上級研究員 勝野正博氏
2021年5月末同社退職。2021年6月より、目白大学メディア学部准教授に着任。
※緊急事態宣言解除中に撮影され、撮影時のみマスクを外しています

※IAB(Interactive Advertising Bureau):米のネット広告業界団体。JIAAと提携している

データは、広告やマーケを超えて政治的なイシューに

有園:なるほど。それまでは業界が技術主導でどんどん広告枠や配信手法を開拓していったところ、完全にネットがレイトマジョリティも含めた生活者のインフラになったから、受け止められ方が変わってきたわけですね。確かに実感します。

勝野:広告業界は他の産業と比較して、様々なコミュニケーションの場面においてインターネットやデータの活用が、いち早く進んでいたと思います。それこそ2003年ごろからすごいスピードで広告技術が発達して、新たな広告手法が導入されました。

 「枠から人へ」といわれたように、ターゲティング技術を駆使した結果、生活者のメディア体験においては送り手との間に感覚のギャップが生じていきました。アドブロックが一部ユーザーの支持を集めたことで、業界として認識のズレに気づいたのです。そこで改めて、ユーザー体験を重視しているか、ということが問われるようになりました。

 実際、そこから相次いで、インターネット広告の信頼が問われる事件が起きていきます。広告会社による運用型広告費の水増し請求や、医療キュレーションサイトに掲載された記事の信ぴょう性の問題は大きく報道されました。そして、今やデータの利活用については、広告やマーケティングの領域を大きく超えて、国家安全保障上の問題ですよね。

 ただ、こうして課題が噴出していくことは、どんな領域でも“技術が一般化”していく過程で起こり得ることだろうと思っています。インターネット黎明期はユーザーもイノベーターやアーリーアダプターな人達でした。開発者も一般的なユーザーの感覚や既にあった広告業界の常識をイメージできていなかった。初期の検索連動型広告は、広告であるという表示がなく検索結果との識別がつかないことで、問題になったこともありますね。

有園:そうでしたね。

勝野:マスメディア中心だった広告業界からすると、異色のプレーヤーが爆発的に増えたことも、従来型の広告に慣れていた生活者とのギャップの要因です。マスメディアが社会に定着する中で培ってきた広告出稿に関するレギュレーションや、広告審査における暗黙知などが新たなプレーヤーに共有されないままに、市場が急成長していきました。そのために、マスメディアへの出稿だったらありえなかったことが、インターネット広告の出稿では起きたというケースもあったと思います。

 一方、インターネットの浸透は不可逆なものでしたから、レガシーといわれたメディア企業や広告会社では、マスからインターネットへの移行過程で多くの試行錯誤があり、今や笑い話のような失敗もたくさんありました。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/06 15:20 https://markezine.jp/article/detail/36359

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