社会課題の解決がビジネスの主戦場に
Markezine読者の皆さんはおそらく社会人、それもマーケティング関係の方が多いと思います。マーケティングといえば激務になりがちではありますが、もしご興味があれば、たまにはボランティア活動なんていかがでしょうか?
リクルートワークス研究所が2018年に行った調査(PDF)によると、キャリアや人生について「前向きに取り組んでいける」「自分で切り拓いていける」「明るいと思う」という回答をスコア化した「キャリア展望」という指標について、最もスコアが低いのは「同じ部署の同僚」にコミュニティが閉じている人であり、そして逆に最もスコアが高いのは、社外で「ボランティア・NPO」に携わっている人である、という調査結果を発表しています。
その理由について、上記のレポートでは「ボランティアという、多様な価値観やバックグラウンドを持つ人たちと関係性を作り、物事を進めていくという体験が自己効力感を高めることにつながっている」のではないかと分析しています。
会社というものは基本的に個人の想いよりは組織の論理が優先され、縦の関係と過去のしがらみの中で物事が決まっていきますが、何よりも個々の「想い」を優先し、その「想い」の実現のために「仲間」を作っていくというソーシャルセクターの活動に触れることで、企業人としての視野も広がることは容易に想像できます。
社員ボランティアについては欧米での事例が多く、比較して日本ではまだ遅れているという声もありますが、東京都のレポート(PDF)には、日本での事例がいくつか紹介されています。
近年、ESG投資(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceという視点で企業の活動を評価し投資すること)に注目が集まっていますが、投資家向けのレポートで、ボランティアに参加した社員数や、社員のボランティア時間数などを開示する企業も増えています。
とはいえ、ボランティアを周囲に強制される、あるいは断りにくい雰囲気を感じて渋々参加するような際にはむしろネガティブな結果を生むという研究もあります。あくまで「自主的に」参加することが非常に大事なのですが、多くの企業が積極的にボランティアを推奨するのはイメージ戦略もありつつ、社員の視野を広げ、精神的な充足感をもたらすことへの期待があると思われます。
では、社員側、ビジネスパーソン個人から見るとどうでしょうか。ただでさえ忙しい中、わざわざボランティアなんてやる意味があるのか……そんなことはキャリアがひと段落したら考えればいい、と思われる方も多いと思います。
しかし今はCSVの時代。社会課題の解決がビジネスの主戦場になりつつあります。その課題の最前線にいるのが、NPOなどのソーシャルセクターです。企業にいると「本業で社会課題解決」という言葉は、とても甘美に聞こえます。しかし実際には、まだまだビジネスの論理では解決できない課題が山積みになっています。

企業と比較して圧倒的に少ないリソースで、そんな複雑かつ大きな課題に向かう経験は、もとの所属企業に戻ったときにも力を発揮する可能性が大きいです。
近年は選択肢として、単純な労働力の提供というボランティアではなく、個人のスキルを活かした「プロボノ」と呼ばれるボランティア形態が非常に注目されています。
こども食堂で自社製品を活用しながら開発を行うという今回のストーリーのように、所属企業の製品やノウハウを生かした社会貢献にチャレンジする手もあります。そしてビジネスで培ったスキルを活かし、社会課題と向き合うことでさらに力をつけられるならば、きっと本業にも良いフィードバックをもたらすことでしょう。
ソーシャルセクターは企業人の専門スキルを活用でき、参画するビジネスパーソンはモチベーションと経験を得て、企業は社会貢献を行いつつ新しいビジネス領域を探索できる。そんな可能性を秘めているのが「プロボノ」という選択肢なのです。
個人スキルの棚卸しとしても、いい機会なのではないでしょうか。