メーカーにおける「データ活用」課題
日本を代表する食品メーカーとして、創業100年超の歴史を誇る味の素。うま味調味料「味の素」にはじまり、冷凍食品、インスタントスープ、サプリメントなど多様な製品群を世界35の国と地域で展開している。
そんな味の素で、金子氏が所属する「生活者解析・事業創造部」は、生活者の行動・意識データの集積と解析を行い、グループ横断で既存事業の高度化・効率化を推進する部門である。
現在はマーケティングデータを全社的に共有・活用できる基盤づくりや生活者とのコミュニケーション設計も担当している。
同社では、これまでデータに関する大きな課題を抱えていた。従来、コミュニケーションについては、テレビCMやインターネット広告など各種メディアを通じて生活者と直接接点を持ってきた。その一方で、販売は量販店を通じて行ってきたため、精緻でリアルな購買データをマーケティング活動に利用するのは非常に困難だったのだ。
金子氏はこれまで抱えていたデータ収集の課題について次のように話す。
「各ブランド担当者は、それぞれが複数の外部ツールを利用してデータを収集・管理、独自に分析していました。その結果、使うデータソースやその見方が担当者・ブランドごとでバラバラになっていました。データ分析に時間も手間もかかりすぎており、しかも各広告キャンペーンが本当に購買に寄与しているのか分析できずにいたのです」(金子氏)
全社横断のデータを1つのダッシュボードツールで一元化
そこで金子氏率いる生活者解析・事業創造部が中心となり、マーケティングデータ活用の基盤を整え、生活者コミュニケーションの最大化に取り組むことになった。
そのために金子氏らが提案したのが、次のようなサイクルだ。
(1)現状把握:ダッシュボードツールを整備し、テレビCM、デジタルキャンペーン、店頭、購買までのマーケティングデータを集約・可視化
(2)レビュー:統計解析にてROIを把握
(3)プランニング:(1)(2)の結果やシミュレーションをもとに最適なメディアプランを企画
(4)実行
この「(1)現状把握」のために金子氏が選んだソリューションが、マーケティングインテリジェンスの「Datorama(デートラマ)」だ。様々なダッシュボードツールを検討したところ、データ連携や加工のしやすさ、UI、海外展開という4つの観点で「Datorama」が最適だと考えたという。
特に検討項目として上がったのは以下のポイントだ。
・10ソース×15項目以上のデータを収集できること
・そのデータをブランドごとに週次で集計できること
・その一方で、分析には別のツールを使うのでリッチなUIは必要ないこと
・ゆくゆくは日本で成功したモデルをグローバルでも応用できること
その点「Datorama」は、同社のニーズにぴたりとマッチしていたのだそうだ。
「マーケティングに特化したデータ加工のテンプレートが用意されている点は中でも魅力的でした。データモデルの専門的な知識や構築経験がなくても、テンプレートがあるためすぐにデータを集約・加工できます。また、導入事例が豊富な点も決め手となりました。導入を検討していたタイミングで、日頃から情報交換させていただいている他メーカーでも『Datorama』を導入中であることが判明。話を伺ったところ、『味の素さんに合うと思いますよ』と言っていただいたことも後押しとなりました」(金子氏)
テストブランドを設定し2段階のフェーズで導入
データソース各社の協力を得ながら、想定した基盤を作り上げることが出来るのかが不明であったこと、構築費用もそれなりに大きかったことから、導入プロジェクトは全体を2段階のフェーズに分け、1年かけて慎重に実施したという。
最初の半年をフェーズ1として、テストケースの2ブランドを選択。必要なデータを収集できるか、「Datorama」をどう活用できるか、本当に構想を具現化できるのか徹底的に検証し、トータルコストを算出した上で、正式導入を決定した。
その後の半年はフェーズ2として、主要10ブランドでの活用スタートへ向けて準備を進めた。この際、データソース各社との調整を重ねてUIを含めた仕様の詳細を検討。実際に各ブランド担当者が利用する際の運用体制を、急ピッチで整えていった。
ところが当初は社内でも「Datorama」の導入に、疑問を抱く声も少なからず上がったという。というのも、「データを可視化する」というコンセプトには賛成できるが、本当に効果が出るのか確証が持てないという意見が噴出したからだ。
まずはメディアプランの最適化に活用
そこで金子氏は方針を転換することに。「Datorama」導入効果を直接的に見るのではなく、データ解析によってメディアプランをアロケーションし、広告の投資コストを抑制したり売上を拡大化することを全面に押し出し、「コストや時間・労力を抑えて円滑に解析を進めるためには、データ収集基盤である『Datorama』の仕組みが必要である」そう社内に説いて回ったという。
こうした入念な準備と検証の末、2021年4月に「Datorama」の導入をスタート。ようやく運用のフェーズへこぎつけたと金子氏は振り返る。
「データソース各社には大きなご協力をいただき、『Datorama』と連携するために柔軟な対応をしていただきました。また、できるだけ現場のみなさんに使っていただくため画面構成は極力シンプルにすることを心がけました。マーケターは1つの画面で市場、店頭、広告施策、気温などの複合的な8つのソースから集めたデータをひと目で確認できるようになりました」(金子氏)
同社は、10以上のソースから収集したデータを「Datorama」で一元管理し、直近の販売動向の把握だけでなく、テレビCMを放映したときに店頭の売り上げと連動しているのか、店頭での活動やブランド想起に影響するのかなどを素早く把握できるようになったという。
1ヵ月かかっていたデータ取得作業が1時間未満に
導入して約2ヵ月経った現在、それまで1ヵ月かかっていたデータ取得にかかる作業が1クリックでダウンロードできるようになり、全体で1時間もかからず作業が済むようになった。
分析については「Datorama」から抽出したエクセルのデータをもとに、広告出稿データや実購買データなど、多岐にわたる要因の因果関係や影響度を明らかにしている。
「こうした分析が実現し、コミュニケーション施策や店頭活動の貢献度合いについて、変化をグラフで可視化できるようになりました。コミュニケーション施策や店頭活動のROIを算出し施策間の効果を横並びで評価したり、ブランドごとの比較をしながら次期プランニングに活用できるようになったことがデータを集約・可視化し、解析することの大きな価値だと思っています」(金子氏)
以前は感覚値の議論に終始しがちであったマーケターと営業メンバーとの連携においても、マーケティングデータやROIを可視化することで、有益な議論ができるようになったと金子氏は感じている。
それ以上の具体的な成果については、より「Datorama」の運用が進んだ後明らかになってくるだろう。
また金子氏は、導入プロセスにおいては、データソース各社やセールスフォース・ドットコムのサポートが不可欠であったと力を込めた。
「使用可能なデータや、データの加工方法、画面の仕様がたびたび変更になっても、その都度、柔軟に対応していただきました。特にデータ加工の仕様を決める際は、セールスフォース・ドットコムの方々からきめ細かくサポートをしていただいたため、当社の求めるデータにフィットしたアウトプットが出せるようになりました」(金子氏)
グローバルでのデータ統合を見据える
将来的にグローバル展開を見据えたときも、セールスフォース・ドットコムのサポートを受けられることは大きな安心材料になっているという。また、「Datorama」には複数ライセンスをグローバルで共用できる仕組みが確立されていることも、データ分析基盤構築プロジェクトを全世界へ拡張していく布石になっている。
今後の展望として、データ収集の自動化をより追求し社内ユーザーの意見を反映したUIのブラッシュアップ、利用用途の拡大や物流・生産などより多様なデータと連携してブランド管理へ活かすことも視野に入れる。
日本で成功モデルを構築し、グローバルでのデータ収集・解析の最適化へ向けて、味の素の挑戦は続いていく。