たどり着いた答えは「全社改革のためのプラットフォーム」
答えとなったのが、中期経営計画の戦略の一つに挙げられていた「メンバーへのKINDNESS」というフレーズだ。プレスリリースを確認すると、戦略が目指すものとして「多様性を受け入れる環境整備」「価値観・目的を共有するコミュニケーションへの投資」という項目が並ぶ。
「店舗への送客やPVだけを狙うなら、当初のペルソナやトーンで良いでしょう。しかし、売上を1億円アップさせたとしても弊社にとってのインパクトは薄い。もっと大きな視野を持つ必要があります。カインズが変わろうとするなかで生まれるメディアなので、全方位的にいろいろなことを試す場にしたかった。最終的には『全社改革』が目的となりました。もちろん、それを言い訳に売上貢献から目をそらすのは言語道断です」(清水さん)
オープン予定日が迫るなか、幾度となくペルソナやカテゴリを見直した。立ち位置を見失ってしまいそうになる作業だが、全社改革という目的はぶれなかった。立ち上げメンバーは清水さんを含め、3人。少人数ながらもなんとかオープンにこぎつけ、多様性を生み出すプラットフォームが完成した。

合言葉は、メシの横にムシ!?
多種多様なコンテンツが生まれる背景は何か。清水さんは、運営における合言葉「メシの横にムシ」を大切にしていること、そして「ライター、制作会社もカスタマーである」という姿勢を貫いていることの2点を挙げる。
同メディアでは、食事に関する記事の隣に虫に関する記事が並ぶこともある。「ホームセンターのユーザーを考えると、『洗剤を買った後にペットフードを買って、竹竿も買う』と一見すると一貫性のない買い物の仕方になる。ついで買いがホームセンターの魅力でもあるので、メディアの方向性もそれが良いと思った」と、合言葉に込められた思いについて説明する。
コンテンツの企画は、社内メンバーの発案だけでなく、外部のライターの持ち込みによるものも多い。ライター自身の熱量が感じられ、企画がホームセンターに少しでも触れていれば、基本的に執筆を依頼することになっている。
メディアではタレントを取り上げている記事もあるが、一見するとホームセンターと関連がないように思える。たとえば、バラエティー番組で人気を博し、現在は農家に転身しているというパークマンサーさんを取り上げた記事。農具について「カインズではないホームセンターで買っている」の一文があることで、関連性が認められたという。ライターの属性や書きぶりもさまざまで、文体も個人のブログのようなものから論文調のものまでと幅広い。「クオリティーや世界観を押し付けない」。メディア運営において大切にしている姿勢だ。

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ホームセンターが運営するメディアだからこそ、さまざまなコンテンツが生まれやすい環境にあるといえるだろう。しかし、コンテンツの種類が豊富であれば、統一感が失われるリスクも生じる。短期間で多くの読者を獲得できたのは、メディアの目的を定め、ぶれない運営を心がけているからだろう。清水さんは同社全体の課題を分析したうえで、「カインズやワークマンを含むベイシアグループの基盤である企業理念『For the Customers』を吸収・咀嚼し、それを自ら体現するメディア設計にした」と振り返る。