立ち上げから約1年で月間400万PV以上を記録
カインズが運営する「となりのカインズさん」には、ホームセンターらしいお役立ちコンテンツがアップされている。
たとえば「飯盒で上手にご飯を炊くコツ」「【ベランダガーデニング】マンションで出来るおすすめポイント」など、すぐに役立つ内容が多い。一方で、「ホットサンドメーカーに肉をぶち込むだけ。“絶望的に頭の悪い”家飲みレシピを教えよう」「信長もビックリ! ホームセンターの野望2020」など、目を引く見出しも並ぶ。
「信長もビックリ!―」は、ホームセンター業界について解説する内容で、同社以外のホームセンターも複数取り上げている。他社を取り上げるコンテンツを掲載するのは、同社として前例のないことだという。ほかにも、オリジナルのキャラクターによるアニメも公開されており、コンテンツの種類や世界観は多様だ。
同メディアは2020年6月に立ち上がった。成果が出るまで時間がかかるといわれるオウンドメディアだが、運営開始から5ヵ月で月間100万PVを達成。約1年が経過した現在では、月間400万PV以上となっている。
同メディア創刊編集長を務める清水俊隆さんは、運営方針について「どうせなら楽しくやりたいという思いはもちろんある。社内には『多様な考え方を認め合おう』という雰囲気も出てきており、怒られるのは覚悟であえてずれたことをやっている」と説明する。
清水さんが同社に入社したのは、メディア立ち上げの約半年前。古美術商を経て、建設現場の施工管理技士向け求人サイトや建設メディア「施工の神様」の立ち上げ・運営を担うなど、清水さん自身も多様な経歴の持ち主だ。「どちらかと言えば内向きの業界」(清水さん)で事業成長をリードしてきた清水さんは、「第3創業期」として社内改革に取り組む同社にとり、まさにうってつけの人物だった。
今オウンドメディアを立ち上げる目的は何か?
1989年に創業した同社は、2007年に「第2の創業」としてオリジナルブランドを軸とするSPA(製造小売業)宣言を打ち出した。ホームセンターのあり方について模索を続け、2019年を「第3創業期」に設定。2021年度までの中期経営計画「PROJECT KINDNESS(プロジェクト カインドネス)」を発表し、同計画を達成するための取り組みの一つとして、「デジタル戦略」を策定した。戦略ではオウンドメディアの立ち上げ・成功がミッションとして掲げられ、清水さんに声がかかることとなる。
「相当ストレスフルな作業だった」。清水さんは立ち上げまでの日々を振り返り、苦笑する。当初はユーザー分析の結果から、ペルソナを主婦としていた。メディアで扱おうとした話題も生活用品が中心。トーンについても、落ち着いた雰囲気が想定された。ユーザーの立場からメディアを設計しており、方法としては一見間違っていないように思える。しかし、清水さんのなかでは疑問が募っていった。「同様のメディアは既にあり、そこで商品も紹介してもらっている。カインズが新たにオウンドメディアを立ち上げる目的とは何か」。店舗への送客やPVに囚われず、考え直すこととなった。