新たな知見を求め、人材紹介事業からモバイルアプリの領域へ
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、お2人が現職で担っているミッションと、これまでのご経歴についてお教えください。
藤原:Gunosyで、KDDI様との協業事業であるニュースアプリ「auサービスToday」と「ニュースパス」の事業責任者を務めています。
藤原:前職は、医療・介護系の人材事業を展開する会社にいました。Webの集客担当としてSEOやSEM、メルマガのCRM設計などを担当する中、予算や投資効率まで把握するくらいの精度でマーケティングを行っていました。
ただ、プロダクトの設計やユーザー接点を含めたブランディングに集客担当者の立場では関与しにくいという側面がありました。そこで、「モバイルアプリのマーケティングなら、プロダクトの開発から投資、収益の連動性を一気通貫で見られるのでは」と考え、今までとは異なる知見を得るためにGunosyへ転職しました。
大西:私は2021年8月にジョインしたトリビューで、美容医療の口コミ・予約アプリのマーケティング責任者として組織の立ち上げを任されています。戦略の策定から実行までをリードしていくのが今後のミッションです。グルーポン、ナイキ、LINE、メルカリを経て、現職のトリビューは5社目にあたります。
投資から回収までのタイムスパンが長いニュースアプリ
大西:マーケターとしてのキャリアは1社目のグルーポンからスタートしました。そこでデジタルマーケティングのほか、プロダクトマネージャー(PM/PdM)を経験できたことがキャリアの資産になっています。
2社目のナイキではブランドマーケティングの部門でマスとデジタルのプロモーションを、3社目のLINEではマーケティング責任者として、自身が受け持つプロダクトの戦略設計から実行までを担当し、前職のメルカリでは新規ユーザー獲得の施策を講じるアクイジションチームに所属していました。
グルーポンから異業種のナイキに移った際は、重視する指標に大きなギャップを感じました。グルーポンではアプリのインストール数やCPAを追っていたのに対し、ナイキでは「ナイキの理念やメッセージをどう伝えるか」「ナイキを選んでもらえる状況をいかに作るか」という部分を大事にしていましたね。
指標が異なるにも関わらず、最終的にはどちらも売り上げにつながっていくところが面白いと感じました。
MZ:お2人が手掛けるアプリのマーケティングにおいて、他ジャンルのアプリにはない特徴と固有の課題感をお教えください。
藤原:まず、ニュースアプリの特徴として「投資から回収までのタイムスパンの長さ」が挙げられます。広告のマネタイズスキームでアプリを運営した場合、ユーザー獲得から投資回収までに数か月~数年かかるため、中間評価の指標が正しく機能しているかどうかが重要となる。つまり、単に広告の運用効率を改善するのではなく、ユーザー属性と収益の関連性を一定間隔で確認しながら、都度投資効率の再評価を行うような運用が求められるのです。
また、auサービスTodayとニュースパスはauブランドとしてリリースしているアプリなので、一部の端末では購入時点でインストールされているなど、通常のアプリ集客と異なる特徴があります。ユーザーにはスマホ初心者が多く、低いハードルで気軽に使ってもらうための工夫が必要だったり、そもそもアプリを初回起動してもらうためのステップを設ける必要があったりと、通常のアプリマーケティングとは異なるKPI設計が必要となります。
CtoCアプリのマーケティングには「2軸の訴求」が求められる
大西:メルカリ時代の話になりますが、CtoCアプリならではの課題感として、購入者と出品者、モチベーションの異なる二者に対しての訴求が挙げられます。
購入者向けに商品を増やす戦略はもちろん、個人のクリエイターや農家の方といった、新しい属性の出品者が利用しやすい環境作りなど、双方に継続して利用してもらえるようなサービス設計が必要なのです。
2軸でアプローチするという意味では、現職で携わる美容医療の口コミ・予約アプリ「トリビュー」も同様と言えます。会員によって投稿される施術の経過画像と体験談を基に、ユーザーが自分に合った施術方法やクリニック、ドクターを検索できるサービスなのですが、「施術別にクリニックの選択肢がどれだけあるか」「クリニックがユーザーから選ばれるために、口コミや高評価をどれだけ獲得できるか」などを施策に落とし込むのが今後の課題です。
MZ:課題解決へ取り組むにあたり、これまでのキャリアから得た経験や知見がどのように役立っていると思われますか。
藤原:前職において、プロセス管理や投資対効果の分析を精緻に行っていた知見は、現職での課題解決に結びついていると思います。また、営業や事業管理などマーケティング領域以外の仕事を経験したことも大きかったですね。
たとえば営業の場合、テレアポや紹介など、複数の獲得チャネルからクロージングに向かうファネル構造を作ることができます。その構造から、各チャネルの投資対効果や営業リソースの投下について考えるのですが、これはマーケティングにおけるチャネル毎の予算ポートフォリオの考え方や、投資判断の進め方と非常によく似ています。
このように、前職ではファネル構造を理解し、「どの部分に着目すれば事業成果につながるか」という思考が養えたと思います。ROASを単純に捉えるのではなく、IRR(内部収益率)を指標として加え、投資回収のタイミングも考慮して投資対効果を議論できるようになりました
複数の事業において異なるフェーズを経験
大西:藤原さんのお話と重なりますが、「ファネル構造別にKPIのツリーを描く」という思考は、私も現職の課題解決に役立っていると感じます。
LINEでは、フェーズの異なる複数の事業に携わりました。「LINEバイト」は競合他社が先行する状況での後発でしたし、「LINEマンガ」は類似アプリが乱立する中、自社サービスの立ち位置の確立が必要でした。サービスとして既に成熟していた「LINEスタンプ」では、ユーザーの裾野を広げる戦略が求められる。複数の事業において異なるフェーズを経験したことが、自身のキャリアに最も活かされている部分だと感じます。
MZ:複数の業務や事業を経験されたことが、お2人の現職におけるご活躍につながっているのですね。Liftoffでは、大西さんや藤原さんのようにモバイル領域で活躍されているマーケターのコミュニティとして「Mobile Heroes」を運営されていると伺いました。天野さんから、このコミュニティの目的と具体的な活動内容について紹介いただけますか。
天野:Mobile Heroesは、アプリ業界でマーケティングに携わる方々のためのコミュニティです。主にブログを通じたナレッジの共有や、定期的なMeetupの開催によるネットワークの創出など、アプリ業界のさらなる発展を目指して活動を行っています。2015年に米国でスタートし、日本での活動にも力を入れているところです。
優秀なマーケターは視野が広く感度が高い
MZ:大西さん、藤原さんにお聞きします。Mobile Heroesへの参加のきっかけや、コミュニティへの期待感などがあればお教えください。
藤原:Liftoffさんとは、元々広告出稿で2年以上のお付き合いがあり、Mobile Heroesの活動がグローバルで活発なことは存じ上げていました。日本国内で本格的に活動されるとのことで、今回お誘いを受け、参加するに至りました。
藤原:コロナ禍で社外のつながりを作るのが難しい今、こうしてコミュニティが広がっていくのは率直にありがたいですね。マーケターとして同じ軸を持つ者同士の集まりですから、業務的な話だけではなく、キャリアの観点で話のできる方とつながりを持てる点が魅力です。
大西:私の場合は、メルカリ在籍時の間接的なつながりが参加のきっかけです。また、LINE在籍時代にお仕事をご一緒した方が既にMobile Heroesで取り上げられていたため、その点でもご縁を感じています。業界を跨いだマーケターの横のつながりが良い刺激になるのでは、という期待感を持っています。
MZ:天野さんにお聞きします。Mobile Heroesでは、Liftoffのクライアントであるか否かを問わず、“優秀なマーケター”をMobile Heroesの参加メンバー「モバイルヒーロー」として選出されていると伺いました。コミュニティの運営を通じて気づいた、優秀なアプリマーケターに共通する特徴があればお教えください。
天野:アプリマーケティングの深掘りはもちろん、デジタルマーケティングやマスマーケティングなど、自身の業務のスコープに入っていない領域まで意識しているモバイルヒーローは多いです。他にも、「サービスや事業への理解が深い」「自社だけでなく他社の動向や関連する業界のトレンドにアンテナを立てている」という共通点を持っています。
私自身は、仕事において「木も森も見る人」になることをモットーとしていますが、同じ志向を持つマーケターとは話していて面白いですし、とても勉強になります。
理想のマーケター像から必要なスキルセットを逆算する
MZ:最後に、大西さんと藤原さんから、駆け出しのマーケターや、ネクストキャリアとしてマーケターを検討している読者の背中を押すようなメッセージをお願いします。
藤原:目の前のKPIを追うだけでなく、事業のプロセスや構造を定量的に捉え、マーケティングの手段を選択する眼を養ってほしいですね。マーケターの肩書きにとらわれず、積極的に活動の場を広げていくスタンスが大事だと思います。
大西:自分がどんなマーケターになりたいか、一度俯瞰して考えてみると良いかもしれません。理想像をベンチマークとし、必要なスキルセットを逆算して身に着けていくというキャリアの磨き方もあると思います。
藤原:大西さんも私も、事業会社のマーケターとしてキャリアを重ねている人間ですが、一方で、広告代理店を経由してキャリアを積む方も多くいらっしゃいます。マーケターには、事業に対して視野を広げるフェーズと、マーケターとしての理想の中で専門性を磨くフェーズがあり、どちらを取るべきかの判断がキャリアを形成する上では重要です。
事業会社・広告代理店というカテゴリーや、事業フェーズの観点で、自分が得たい知見や果たしたい役割を選択できると良いのではないでしょうか。