「より基本的なものを、シンプルなものを」消費の縮小傾向に注目
次にコロナ後のビジネス特性と消費者の変化について、コトラー氏が予想している複数の可能性が提示された。
コロナ後のビジネス特性
・企業はよりきめ細かく消費者データを集め、機械学習によってマーケティング施策を打ち出せるようになる
・スタートアップ企業が生まれやすくなり、D2C(Direct to Consumer)モデルが店舗ビジネス、ブランドビジネスを切り崩す
・消費者がコンピューターを使ってプロデューサーになれる黄金時代を迎え、店舗やブランドを仲介せずに直販できるようになる
・店舗よりもオンラインでの購入が増え、購入、配達、支払いすべてがオンラインで完結する
・いわゆるプラットフォーマーなどによる新たなマーケティング手法が加わる
・ターゲティング、ソーシャルメディアによるマーケティングが売り上げを増加させる
・企業はいっそうブランドアクティビズムに敏感になり、社会的課題を無視するのではなく自社の姿勢を明らかにするようになる
・企業の広告やプロモーションはインハウスで行われるようになり、代理店に外注することは減る
コロナ後の消費者の変化
・企業の製品、規約、ランキングなど、インターネット上にあるあらゆる情報を買う前に調べるようになる
・より健康、安全に配慮した消費にシフトする
・消費者は、理想的な善い企業像を明確に描き、消費行動を通じて選ぶ
・アドブロッカー利用、迷惑電話拒否などが広告に影響をもたらす
・消費者のテレビへの関心はさらに低下し、今観たものさえも思い出せなくなる
・多くの消費者は、より少ない選択肢とより低いコストを求めるようになる
コトラー氏は、「全員とは言わない、主流派とは言えないかもしれないが」と前置きし、「たとえば何種類もの制汗剤など、僅かあるいは表面的な違いしかない多品種の商品で埋め尽くされた広大な店舗はいらなくなる」「もっと基本的なものに絞り込んでよりコストが低い店舗が好まれるようになる」「多くの人が消費を減らしてもっとシンプルに生活するのを好むようになる」といった縮小傾向に注目すべきだと述べた。
パーパスの重要性にも言及
次にコトラー氏は、ビジネスにおけるより根本的な変化として、企業は経営の目的(パーパス)を明示するようになると指摘。かつて企業は、人間の欲求は無限であり、資源も無限で国家は揺るがない、そして絶え間ない消費は犠牲を伴わない、継続すべきものであるという視点に立っていた。
しかし現在は、地球上の資源には限りがあると理解され、人々の欲求には規律が求められるようになっている。コトラー氏は、「政府は二酸化炭素排出制限のために、経済成長を抑制して地球温暖化対策を強化する」「企業はこれまでの直線的な経営の考え方、売る・買う・捨てるから、再利用に基づく循環型のサーキュラー経営に移る」と述べる。そして「ミレニアル、とくにZ世代は価値観が違う。新しい世代の従業員は仕事と家庭のバランスや、社会的課題への意識が違うことを認識しなければならない」と警告。「消費者と従業員は、コロナと気候変動の問題に悩み、より貯蓄して消費を減らそうとしているのだ」と説諭した。
こうした中、マーケターが考えるべき点とは。売り上げがどれだけ店舗からオンラインに移行するか。社会的課題とどう向き合うか。デジタル上の新ブランド立ち上げは、これまでよりハードルが上がるのか下がるのか。オンライン購入では価格がより重要視されるのか、反対に優先順位が下がるのか。企業のオンラインプラットフォームならびに全社的な投資対効果をどう測るのか。といった、今日の延長となる懸念事項が浮かび上がる。