AIチャットボットの導入が進んだ背景にあるもの
チャットプラスは、2016年8月に設立したベンチャー企業。純国産のチャットツール、「ChatPlus」の開発から販売を行う。2021年現在1万2,000 ID を突破し、月間約100件ペースで ID が増えている。IT製品/SaaSのレビューサイト「ITreview」では日本のSaaS・ソフトウェアのトップ50に与えられる「Best Softwear in Japan」も受賞する、AI チャットボット市場を牽引する企業だ。
「実はチャットの歴史はここ10年間ほどなんです」と西田氏は切り出す。2011年、スマートフォンの普及で、世界的にはチャットブームが到来。だが、モバイル会社がスマートフォンアプリ開発に後ろ向きだった日本はこれに乗り遅れた。その間にもアメリカや中国では大手Intercom、LiveChat Software、Zendeskがチャットのサービスを開始。サイトで顧客と担当者がチャットするシステムが作られていった。その流れで有人チャットが中心の海外に対し、日本では無人チャットが60~70%を占める。
というのも、日本で本格的にチャットが普及するのは2016年8月以降。当時LINEやFacebookがMessaging APIを公開したことでブームが起こった。
世界から5年遅れてブームが来た日本。唯一良かった点は、その間にAIの開発が世界的に進んだことだ。海外でチャットがブームのころはAI がなく、有人オペレーターがキーボードから入力して会話していた。それが2016年にはAI、ディープラーニングなどが台頭し、Messaging APIで自動応答するチャットが普及した。2018年には、コンバージョン型のチャットボットも登場。対話入力で離脱が少なく、顧客との接点が増えて売上につながると好評だった。そして2020年、新型コロナウィルスの蔓延で、無人対応できるチャットボットはさらに浸透が進む。
チャットの導入で得られる3つのメリット
「チャットの導入には3つのメリットがある」という西田氏。1つは顧客満足度の向上だ。問い合わせの時間や場所を選ばず、気軽に訊けて話が早い。チャットプラスでチャットを導入した企業の顧客満足度は80~90%。コールセンターで比較するとわかりやすい。電話やメールでのコンタクトセンターの満足度は60%前後(出典:J.D.Power「2016年コールセンター満足度調査、 すぐに繋がる満足度上位企業」)。対してチャットでの受付の満足度は91%(チャットプラス利用者の顧客満足度調査)。数字的な裏付けが出ることもチャット導入企業の増加を後押ししている。
2つめは、問い合わせが増えること。Googleの調査によると、サイト訪問者は初めの10秒で40%が離脱し、次の20秒で50%が離脱する。そこで、訪問15秒後にチャットウィンドウを自動的に開いて話しかけを行うと、ページからの離脱を防いで滞留させ、そのまま問い合わせへと引き込める確率が上がる。チャットボットを使ってよくある質問をボタン形式で準備すると、キーを打たなくても訪問者が抱えている潜在的な質問ができるため、質問はさらに増える。実際、フリーワード入力では、約80%の訪問者が入力しない。
3つめは、コストが下げられること。1人で複数の顧客と話すことはできないが、チャット対応なら可能だ。たとえばテレビ通販を含むEC業界での受注の場合、オペレーターによる電話対応なら1日約40件、メールなら1日約100件、そこをチャットなら1日約200件が対応可能になる。1人で多くを担当できる分、人件費の削減につながるのだ。また企業の人事部などが利用し、障害者採用や内定者へのアプローチ、一次面接などの案内、社員登録なども自動で行えば、採用コストも下がる。
新型コロナウィルスによりAIチャットボットに起きた変化
これまでのチャットボットは、サイト訪問者に話しかけて資料請求を増やすなどを目的とし、マーケティング寄りで対外的なお客様応対が多かった。また、お客様のよくある質問に自動で回答してサポート窓口を簡略化、コスト削減するものも多かった。しかし最近では目的に変化が現れているという。
昨今の新型コロナウィルスの影響により、チャットボットの需要は増加。場所を問わず、音声や背景など周囲の環境に影響されないチャットはテレワークに適しているからだ。対応履歴も管理しやすい。これにより、チャットを使って窓口を増やす、自動化する、またチャットを使って有人で対応しようという需要も増えている。
現在、多くの企業で窓口対応が電話からチャットに移行している。「大手電話会社から自社コールセンターをなくしてAIで対応したいと相談がありました。象徴的な事例ですよね」と、西田氏。「おそらく今後、電話よりもチャットが普及する時代になってくると思います」と強調する。
最近はBtoBの営業でもチャットボットを使うことが浸透してきている。優秀な担当者にとってはチャットを使って顧客と話すほうが、より多くの人にリーチできる利点がある。テレワークの推進で、電話をかけても相手が在宅ワークでアポイントが取れない、キーマンに接触できないことも一因としてある。
一方、交通広告を打つにもテレワークで乗車人数が激減しているなど、新規でのマーケティング投資は減少傾向にある。そうした中、インバウンドでいま接しているお客様を大切にすることを重要視し、サイトにチャットを置き、アクセスしてくれた顧客とのコミュニケーションを深めているのだ。
AIの特長と限界、チャットボット導入を成功させる秘訣とは
自動化で業務効率が向上し、コストが下がるAIチャットボットだが、弱点もある。すべての質問に答えられるわけではなく、自動学習にも限界があるのだ。そのためすべての業務がAIに置き換わってしまうことは、まだしばらくないだろう。AIは自動で快適な状態を作れるわけではないため、人の手で自動化する領域を絞って調整していかなければならない。
CXの向上によるコンバージョンアップを目指して属性や行動パターンごとにペルソナを設定し、ペルソナごとにAIがクリエイティブを出し分けている企業もある。しかし「CXによるコンバージョンの向上には限界があることを理解しておいたほうがいいですね」と西田氏は語る。
ペルソナが増えすぎると、シナリオも増え、コストがかかりすぎるからだ。クリエイティブで人の心を動かすにしても限界があり、シナリオが長くなると離脱も増える。
「最初から全部やろうとせず、よくある質問に絞って作っていくことが成功するAIチャットボット導入の秘訣です」と西田氏は指摘。チャットやチャットボットを活用し、成果を上げている事例には、大きく分けて2つの特性がある。
1つ目は有人での対応ができる場合。チャットボットでよくある質問をさばき、人手で顧客の要望に応えるケースだ。攻めの姿勢でチャットを積極的に活用して解決し、PDCAを回している。2つ目は、自動で可能な限り回答し、問い合わせ数を減らすケース。人手がなく担当者がいない場合に、定型的な質問を可能な限りさばいていく。さらに共通して言えることは、無駄なコストをかけないこと。そして、スモールスタートで始めて、徐々に幅を広げていくことだ。
シナリオボット、フリーワードAI、有人チャットの3段構えでAIを鍛える
ChatPlusのフリーワードAIは、AIの専門技術者が不要。難しいスキルやプログラミング抜きで、誰でもメンテナンスできるように設計されている。
チャット開始時、「よくある質問」はシナリオボットが自動回答する。シナリオボットで答えられない、フリーワードに対しては、AIエンジンが最適な回答を返す。AIエンジンで解決できない場合は、オペレーターが対応する。履歴を確認し、AIエンジンやオペレーターが回答した内容は、メンテナンス用のシステムに蓄積され、シナリオボットの再学習に利用される。
新たなQAシナリオを作ったり、フリーワードにしたり、誤った回答をした項目を修正したりすることで、AIはさらに賢くなる。選択肢とフリーワードとオペレーターの対応という複数のチャネルを使うことで、それぞれが最適化されていくのだ。
これらの作業はAI技術者の領域で、AIスキルや多額のコストを必要とした。チャットプラスはAI会社や技術者が行っていた作業を見える化し、サポート担当者でも運用できるようにした。
チャットに寄せられる問い合わせのうち70~80%の質問はよくある質問。顧客の要望やコンバージョンにつながる質問は3つほどに絞ることができる。自動処理にすればコスト削減に。さらによいシナリオに導き、的確に素早く答えることで問い合わせが増える。西田氏は「オペレーターは他の業務に時間が取れるようになり、良いことばかり」と話す。
チャットボットへの質問はサービス改善策の宝庫
チャットプラスの開発ポリシーは、顧客の要望を聞き、実現し、フィードバックすること。開発者や研究者の仕様にとどめず、顧客にとって価値があるものを作ることだ。
チャットを導入し成功するまでにはいくつかのステップがあり、導入はその始まりに過ぎない。初めから100点を狙わずに、利用動向を見ながら修正するのが得策だ。最初はよくある質問などからスモールスタートし、徐々に幅を広げていくことで無駄なコストをかけずに済む。西田氏は改めて「小さいところからでも、まずは始めてみること」を勧め、強調した。
「チャットプラスには様々なシナリオやサンプル、成功ノウハウが揃っています。導入から運用、御社のビジネスの成功までを徹底サポートします」(西田氏)
チャットプラスの顧客満足度は95%以上を誇る。日々の気づきを積み重ね、顧客からの意見を自分たちのサービスに生かして改良を続けた結果だ。「質問がくるのは氷山の一角。実際に質問してくれるのは、疑問を持つ人の10分の1程度。ただそれを解決することで裏側にいる10倍の人に対してもサービス改善ができます」と西田氏。チャットの内容を将来へのヒントにしている。「チャットプラスの中には1万人のチャットボット運用担当者の想いが詰まっているんです」と熱を込めた。日々生まれる改善策は新機能の追加や広報などに反映しているという。
チャットボットはメール配信やマーケティングオートメーション、Web接客などの各種ツールとも相性が良い。様々な会社と連携してRPAも推進している。「他ツールとともに利用されている企業の皆様はそれぞれ、かなりマニアックな使い方をされているんですよ。これからも、個々の企業でなければできないことを作り込んでいくお手伝いをしたいですね」と西田氏は結んだ。