若年層の価値観に対応するためリブランディングを検討
20年以上続くブランドであるFASIO。大幅なリブランディングは簡単にできることではない。プロジェクトリーダーを務めた伊藤理恵氏は「FASIOは若年層の価値観の変化に対応せざるを得ない状況だった」と語った。
韓国コスメや中国コスメが台頭し、ドラッグストアや雑貨店での売り場も外資系のコスメが進出するなど、競合の勢いが増すと同時に、FASIOの直近の売上は伸び悩んでいた。
また化粧に対する価値観も大きく変化してきている。以前はマナーや画一的な美に縛られていたところから、本来の自分を大切にし、もとの良さを活かす考えが一般化してきたという。
「自分のまつげや肌を、ある意味では犠牲にしてでも美しく見せなければいけない、盛らなければいけないというよりは、自分自身に心地よくなじむかどうかを重視する考えが強くなっています。このような変化に、FASIOとしても対応しなければいけないと考えました」(伊藤氏)
仮説の説得力を強めるために、顧客の声に耳を傾ける
伊藤氏はリブランディングを実施するにあたり、3つのステップを踏んだと語った。
ステップ1は現状把握だ。FASIOはドラッグストア・GMS市場の低価格帯で戦ってきたブランド。年齢で区切ったターゲティングはせず、コアバリューには「きれい、ずっと、つづく」を掲げてきた。そして、シンプル・スマート・カジュアル・洗練としたイメージという情緒価値、徹底的なラスティング(落ちにくい)処方という機能価値を強みに展開していた。
こうしたことを整理し、伊藤氏は自身が感じる課題点を書き出した。マルチチャネル、オムニチャネルが普及し始めた今は、もはやGMSやドラッグストアという市場だけで戦う枠組み自体が古いのではないか。落ちにくさを謳うコスメは増えており、ラスティング処方だけでは機能的な価値は感じてもらえないのではないか。魅力に欠ける、一貫性がないといったイメージを持たれているのではないか、など整理した内容と現状の乖離を仮説立てていった。
ただ、これらはあくまで主観であり、裏付けがない。「当然、社内の関係者を納得させることはできなかった」と伊藤氏は語った。そこで、定性調査や定量調査を用いて顧客の声を収集した。
「売上は伸び悩んではいたものの、FASIOは弊社内で売上トップレベルを誇るメイクブランド。なので、今のお客さまの声をおざなりにすることはできません。調査ではこれから獲得したい若年層だけでなく、これまで購入いただいた方々の声も拾えるよう設計しました」(伊藤氏)
実際に調査を開始すると、20代のFASIO非購入者からは「母親のブランド」「どんな顔になるかわからない」「落ちないのは当たり前」、20代購入者からは「レジに行くまでのテンションが下がる」など、“落ちない”という価値がコモデティ化し、FASIOのコアバリューがもはや強みになっていない現状が浮き彫りになるような意見が多数上がってきたのだ。
「この調査を実施して思ったのは、お客さまの生々しい声をそのまま社内にも伝えることが非常に大事だということです。ブランドに思い入れをもっている、ある意味では固定観念があることも、長い間在籍していると起こりがちです。そのような人たちを動かすには、お客さまの実際の声を、忖度なしに伝えるのが一番効果的なのだと思います」(伊藤氏)