世間と逆流に見える販路展開を進める理由
一般的なメーカーの場合、販路の展開は、オフラインの直営店舗や公式オンラインストアのD2Cから開始し、ベースを作ってからモールや家電量販店、小売店へと展開する流れが多数を占める。
しかしアンカー・ジャパンの場合は、2013年の日本法人立ち上げ以来、Amazon、楽天などのECプラットフォームでの販売をメインとし、Anker Japan公式オンラインストアや直営店展開がその5年後とユニークだ。
自社ECや直営店を始めた理由は2つある。1つ目は、より深いマーケティング戦略が実行できることだ。「お客様のニーズを把握し、他販路のヒントになる知見を収集したかった」と猿渡氏は語る。ECプラットフォームの良さは既に集客がある点だが、CRMの観点ではできることが限定される。お客様のニーズを探るなら直接的にコミュニケーションできる公式サイトがやはり強い。
しかし、「スタートアップ企業がいきなり公式オンラインストアで販売をしても、ブランド認知が低いので集客が難しい」と猿渡氏は考察する。認知度はもちろんのことブランドに対する信用度が足りないのだ。だからこそ2015年にはKDDIとアライアンスを組み、5ポートのUSB急速充電器を共同開発し、auショップなどで発売。知名度と信用度のある他企業とのアライアンス事業を、早い段階から戦略的に実施していた。
理由の2つ目は、顧客のニーズ充足だった。「購入前に実物を手にとって試したい」「店舗でスタッフに相談して購入したい」との声に応えた形だ。ECプラットフォームでは、SEOで上位にあり、レビューが良い製品であれば購入される。しかし徐々に顧客範囲を広げ、充電規格やスペック情報に詳しくない幅広い層に対して販売していくには、やはり実物を手に取りながら説明するのがわかりやすい。そうした相談に対してもトレーニングを受けたスタッフが説明することで、より高い顧客満足を提供できる。
直営店Anker Storeと柔軟な店舗形態のAnker Store Select
アンカー・ジャパンは、2018年6月に初の常設店舗Anker Storeをオープン。現在は全国に10店舗を展開している。さらに2020年の6月には新業態のAnker Store Selectオープンした。両者の違いはどこにあるのだろうか。
Anker Storeは主要都市部を中心に展開し、運営は自社で実施。販売製品数が豊富で100製品以上を取り扱う。実機の展示も多く、専任スタッフも常駐しているので、説明を聞きながら実際に手にとって試せる。
一方Anker Store Selectは、主要都市部に限らず郊外にも積極的に展開している。運営はモバイルキャリアなどの企業と共同とする場合や、量販店舗内におけるショップインショップなど、柔軟な店舗形態を採用している。広さは比較的コンパクト。限られた店舗面積でも注目製品の実機が設置され、実際に手に取って製品を試すことができる。しかしAnker Storeより販売製品数は少なく、専任のスタッフはいない。お試しよりは販売に特化した店舗づくりである。
Anker Storeがすべて自社運営で顧客の声の収集や、多くの製品を体験できる場としての役割を果たすのに対し、Anker Store Selectは限られたスペースでの出店や、都市部だけでなく郊外にも進出できる点がメリットだ。共同運営会社にとっても、ショップ面積が有効に活用でき売上アップも見込める。「アライアンスパートナーは今後も増やしていく方針」と猿渡氏は語る。