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「新規は獲れるが…」獲得広告を長年続けてきたコスメECがコンテクスチュアル広告を取り入れた理由

 手堅く新規顧客を獲得できるダイレクト広告は、多くの企業、とりわけEC事業者にとっては欠かせない施策だ。しかし、Cookie規制を受けて別の手段を考える必要が出てきているほか、「広告に追いかけられているようで気分が悪い」と逆ブランディングにつながってしまっているケースも散見される。米国発の化粧品ブランド「b.glen(ビーグレン)」も獲得重視の広告施策を長年続けてきたが、中長期的なブランド価値向上を考えて、コンテクスチュアル広告を活用したブランディングにも取り組み始めた。本稿では、Cookie代替手法として注目を集めるコンテクスチュアル広告の本質的な価値について、ビーグレンの事例をもとに考察する。

肌悩みを解決する“方法”を提供 米国発の「ビーグレン」

MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに自己紹介をお願いします。

(左)GumGumJapan(中央)株式会社アマナ デジタルコミュニケーションプランナー 清水悠生氏(右)ビバリーグレンラボラトリーズ株式会社 取締役 副社長 賀川麻衣氏

(左)株式会社アマナ Advanced Marketing Manager Digital Communication Planner 清水悠生氏

(右)ビバリーグレンラボラトリーズ株式会社 取締役 副社長 賀川麻衣氏

松本:GumGumJapanでセールスの責任者を務めています。2017年のGumGumJapan立ち上げ時より、一貫して日本の市場拡大をミッションに取り組んできました。

清水:アマナでデジタルコミュニケーションプランナーをしております。アマナは企業の「Co-Creation Partner」となることを目指し、課題の抽出からコンセプト・企画の構築、クリエーション、マーケティング、アウトプットまでをワンストップで提供しています。今回のb.glen(以下、ビーグレン)様のキャンペーンでも最初の全体設計から広告クリエイティブの制作、運用までをサポートさせていただきました。

賀川:ビバリーグレンラボラトリーズの日本法人で取締役 副社長を務めています。ビバリーグレンラボラトリーズは、アメリカ・カリフォルニア州に本社を置く化粧品会社で、現在世界6ヵ国で事業を展開しています。私は元々アメリカ本社のほうで働いていたのですが、2014年の日本上陸のタイミングで日本法人に入り、今は複数の事業でマーケティング全体を見ております。

MZ:今回、GumGumを導入してブランディングキャンペーンを展開された「ビーグレン」は、どういったブランドなのですか?

賀川:ビーグレンは、ただスキンケア商品を販売するブランドではありません。一人ひとりのお客様に向き合って、肌悩みを解決する“方法”をご提供することをミッションにしています。たとえば、お客様一人ひとりにコンシェルジュがついて、肌相談から肌状態の分析、その時々に合ったスキンケア方法のご提案までを行う定額制のサービス「IBIM」を提供しており、徹底したパーソナライズでお客様の肌悩みに向き合っています。もちろん、商品単品の販売も行っています。

新規顧客は獲れるが……獲得広告の限界と課題

MZ:ビーグレンは、これまで様々なデジタルマーケティング施策を展開されてきたと聞いています。実は私もビーグレンの広告には何度か当たったことがあります。

賀川:ビーグレンの製品やサービスはコンプレックス系の商材になるので、広告の費用対効果を考えると、肌悩みを現に抱えている顕在層に向けた獲得系の広告がまずは取り組むべきメインの施策でした。それを長年やってきたので、何かしら肌に悩みのある日本人女性には1度は広告で接触している、と言っても過言ではないかもしれません。

MZ:そうした中で、今回コンテクスチュアル広告を導入された背景にはどんな課題があったのでしょうか?

賀川:獲得系の広告で新しいお客様を獲得できることは、これまでやってきて、よくわかりました。たしかにビーグレンの製品を試していただくチャンスは創出できるのですが、どうしても一過性のお客様が多く、本当にビーグレンの製品を必要としているお客様を対象としにくいことに課題を感じていました。

清水:獲得系の施策の特徴として、ブランドが意図していない顧客層まで獲れてしまうということがあります。これは、短期的な売り上げを目指した最適化の結果、機能・価格などを前面に押し出す訴求から購入に繋げる導線になっているからで、ブランドの本質的な部分に共感して購入に至ったわけではないというのが、賀川さんがおっしゃった課題感に繋がっているのだと思います。

賀川:そうですね。どうしてもスペック寄りの「How」の訴求になってしまい、私たちがどういった思いでビーグレンを提供しているのかという「Why」の部分を伝えられていませんでした。これからも同じような広告活動をしていくのではなく、私たちの思いを伝えながらも、今までと違う場所でビーグレンを知ってもらい、お客様の間口を拡大していきたいと考え、GumGumのコンテクスチュアル広告を導入しました。

コンテクスチュアル広告のトップランナーGumGumの特長

MZ:ここで、GumGumのコンテクスチュアル広告のソリューションについて、ご紹介いただけますか?

松本:GumGumは、2007年にアメリカ・サンタモニカでスタートした企業です。AIを活用した画像認識技術を用いて、「広告」「デンタル(医療)」「スポーツ」の3つの領域で事業を展開しています。このうち広告の分野で提供しているのが、ユーザーが見ているコンテンツの内容を解析し、その文脈・モーメントに沿った広告を表示するコンテクスチュアル広告というソリューションです。

 今でこそ近しいアプローチをするベンダーが増えていますが、テキストだけでなく画像も含めて解析するというのは、我々が2007年から開拓し続けてきた領域です。

MZ:蓄積してきた知見やノウハウの量と質が違うんですね。テキスト情報だけを解析する場合と、画像も解析する場合では、どういった違いがあるのでしょうか?

GumGumJapan Head of Sales 松本亮氏
GumGumJapan Head of Sales 松本亮氏

松本:大きく異なってくるのは、ブランドセーフティです。現在ネット上にあがっている記事のうち、8~9割に画像が含まれていると言われています。広告を掲載するにあたって、テキストには問題がなくても、実は画像に好ましくないところがあったというケースは多々あります。また、画像はテキストより視認性の高いコンテンツですので、画像も解析できるか否かはブランドセーフティの観点で非常に重要です。

ブランド理解を第一にキャンペーンを設計

MZ:では、GumGumを活用して展開したキャンペーンの概要を教えて下さい。

清水:施策はいくつかのフェーズに分かれており、施策全体としてはコアターゲットである40代女性のエイジング層、特に未開拓層へのブランド認知拡大を最大の目的としました。まずフェーズ1では、ブランドアイデンティティやブランドの価値、優位性への理解を促進することを目的とし、以降のフェーズでそれに共感して下さった方にトライアル購入を促し、リピート顧客に繋げる、という流れを取りました。また、いくつかの指標をもとにそれぞれのフェーズの状態を可視化する試みも行いました。

【1】ターゲットユーザーがビーグレンを知っている状態にする(認知度)

【2】ビーグレンのブランド価値や体験価値を理解している状態にする(興味・好意度)

【3】理解を深めた上でトライアル購入をする(利用意向・VCV)

 エイジング層を捉えるターゲット設定は、3つ用意しました。まず1つ目は「肌悩み顕在層」。商品使用のモチベーションが明確で、商品の購入に最も近いユーザー、もちろんビーグレン様がこれまでも対象としてきたターゲットです。2つ目は、「トレンド敏感層」。ビーグレン様のサービス「IBIM」が先進的なものなので、アーリーアダプターと呼ばれるような情報感度の高い方と相性が良いと考え、新規開拓の目的も含めて設定しました。

 3つ目は、「プレミアム女性誌閲覧層」。GumGumの特長として、プレミアムなメディアとパートナーシップを組んでいる点があります。このメディアの女性読者をターゲットにすることで、より顧客の間口を広げたいという狙いがありました。

松本:GumGumでは、プレミアムパブリッシャーと呼ばれる媒体社様とセレクティブなパートナーシップを結んでいます。コンテクスチュアル広告は、ブランディングを目的とする広告活動として用いられることが多いので、広告の出し先は非常に重要です。

 また、今回のキャンペーンでは広告クリエイティブもアマナさんが徹底的にこだわって作って下さいました。ブランドのストーリーに共感してもらうためには、やはり入り口であるクリエイティブが重要であることを感じています。

清水:クリエイティブでは、広告を見たユーザーにブランドを好意的に捉えてもらえるかどうか、知覚品質の向上に繋がるかどうか、という点にこだわりました。そのためには、ユーザーに購入を求めるデザインではなく、ブランドを好意的に思ってもらえるメッセージ性の高い、かつ印象的なクリエイティブにする必要があります。ビーグレン様を含め何度も議論を重ねて、クリエーションを行いました。

すべてのターゲットでブランドリフトが大幅にアップ

MZ:キャンペーンの成果について教えて下さい。

清水:3つのターゲットのいずれにおいても、ブランド認知・好意度・利用意向が大幅に上がり、大きな成果が得られました。施策前よりビーグレンの認知度が高い「肌悩み顕在層」は、ビーグレンの新たな側面を知り、好意・興味・利用意向が上昇。そのほかのターゲットも全ての指標で上昇が見られ、新たなターゲットを導くことができました。

 さらに注目したのは、自然検索のリフト値が約1.8倍に上昇したことです。広告に接触してビーグレンを認知し、興味を持って検索したユーザーが多数いたのでしょう。こうした態度変容は獲得系の広告では起きにくかったところです。しっかりビーグレンに興味を持ってくれたというのは、一つ収穫だったと思っています。

ブランドリフト調査「あなたはスキンケアのサブスクに興味がありますか?」の問いに対する結果
ブランドリフト調査:「あなたはスキンケアのサブスクに興味がありますか?」の問いに対する結果

MZ:今回のキャンペーンでは、購買・獲得への効果をどのように考えていましたか?

清水:目標としてトライアル・本購入の引き上げはもちろん目指していましたが、今回の施策は商品の購入を直接的に促すダイレクトマーケティングではなく、ビーグレンが考えるターゲットに理解を促し、共感してくれた人を購入に導くブランディングの一環です。

 ユーザーが商品を購入する上で必ず通過する比較検討のタイミングで、ビーグレンを想起させ選ばれる確率を上げることこそが重要で、そのためには好意形成と知覚品質の向上をしていく必要があります。ですので、フェーズを区切って、フェーズごとに目的と施策を展開する形を取りました。

「目の前の利益」だけでなく「先のブランド価値」を見据えて

MZ:コンテクスチュアル広告は、Cookie代替の手段として注目されているところもあります。そんな中で、ダイレクトマーケティングに力を入れてきたビーグレンの今回のキャンペーンは示唆に富む事例であると思います。

松本:実のところ、Cookie規制を受けて、特に今年の後半は多くの企業様からGumGumにお問い合わせをいただいています。コンテンツの文脈をターゲティングすることで、ユーザーの関心を捉えるコンテクスチュアル広告が、Cookieに頼らない有効な手段のひとつであることは間違いありません。

 しかし、これまでやってきた既存のメディアストラテジーをコンテクスチュアル広告に置き換えることはできません。Cookie規制の代替手法という観点ではなく、ユーザーと良質な接点を創出して、その結果ブランディングや購入意向の上昇に繋がるそんな環境を構築できることがコンテクスチュアル広告を取り入れるメリットであると考えています。

賀川:そうですね。直近ですぐに利益を作れる広告も必要ですが、それに加えてブランディング施策をやっているブランドとそうでないブランドとでは、長い目で見た時に売り上げに大きな違いが出てくると思います。この2年、コロナ禍の状況もあり、企業としてどこに投資をするべきか考えることが多くありました。「こんな時だからこそ」と、ブランディングに力を入れられたことはとても良かったと思っています。

清水:やはり中長期的に見ることが大事ですよね。コンテクスチュアル広告がダイレクト広告の代替施策になるかというと、そうではないと考えています。Cookieを介したシステマチックな広告は、ユーザーとのコミュニケーションをある程度省略しても短期的に成果を出せるメリットがあると思います。一方、私たちの施策は認知・好意形成のためのコミュニケーションから展開しているので、ある程度の時間を要します。

 しかし、本来コミュニケーションというのは、複雑で時間がかかるものではないでしょうかCookie規制によるダイレクト広告の代替が何かと問われれば、その答えは、コミュニケーション全体を見渡して立体的に考え実行することが全てではないかと思います。

 また、ブランディング施策においても効果を数値化する必要はあります。ですので、今後も数値としてわかる形でPDCAを回していき、できるだけスマートに目標を目指していきます。

賀川:今回のキャンペーンのような施策を続けていくことで、ビーグレンのブランドを一回りも二回りも大きくすることができると考えています。投資を始めたからには、ブランドの財産になっているという感触をしっかり味わうまで継続し、ブランドの価値を伝えていきたいです。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2022/01/24 11:00 https://markezine.jp/article/detail/37918