杉山氏の考えに潜む、マーケター的思考とは
高橋:どんな商品・サービスでもそうですが「良いモノを作ったら売れる」というのは幻想なんです。それを顧客に知ってもらう仕掛け作り、買ってもらう仕掛け作りなどがあって初めてモノは売れるし、世の中に広まるんですよね。
作曲家もそれと同じで「良い曲を書いたら売れる」わけではない。今だったらYouTubeで発表するなどで視聴者に直接届ける方法もあるのかもしれませんが、杉山さんの場合、テレビ番組の音楽担当者の方に杉山さんが「良い曲を書ける」ことを知ってもらい、案件をもらえないと、作曲家杉山勝彦は現在存在していなかったわけです。曲が書けると言って自分を売り込んでいくしかないですよね。
普通の人なら見逃してしまうようなちょっとしたチャンスに対し、機敏に反応してチャンスを勝ち取っていく杉山さんはさすがとしか言いようがありません。

高橋飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイル株式会社を創業。
ナイルにて、累計1,500社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月10,000円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
高橋:ちなみにテーマ曲のコンペで採用されたとのことですが、その曲はどのようにして作られたんですか?
杉山:まずはNHKの教育番組を端から端まですべて見ました。でも、やっぱりプロが作っているから、音質やスキルでは勝てないな、と。そこで、曲が流れたときに一番目立つのはなんだろうと考えたんです。
そうして調べていったら、どの番組もインストゥルメンタル(歌のない楽器の音だけ)の曲ばかりだったんです。それで、歌曲がいきなり流れたらおもしろいかなと思って、番組のテーマや内容を全部言っちゃうような、番組に媚を売る歌詞を書いて歌を作りました(笑)。そうしたら、おもしろいという理由だけで採用されたんです。
高橋:考え方が完全にマーケターですね(笑)。まず、現状勝っているプレーヤーの分析を行い、その強みや自分が同じ軸で勝負して勝てるかを分析する。同列比較されては勝負できないと見るや、自分なりの独自のポジショニングを見つけて、そこで勝負する。
競合分析から自分の勝ち筋を決めるやり方まで、すべてが「コンペに採用されること」から逆算された、戦略的作曲プロセスになっていますね。
仕事の幅を広げたきっかけは?
高橋:NHKの後はどのように仕事を広げていったのでしょうか?やはり売り込みが功を奏した感じですか?
杉山:はい、機材を購入した後は、オリジナル曲を録音したCDを常に持ち歩いて、スカウトの方などが来たときに渡していましたね。NHKの教育番組の話は本当にラッキーだったのですが、そんなラッキーがずっと続くわけはないと思っていたし、ポップスがやりたいという気持ちもあって、チャンスを増やしたかったんです。
そして、大きなきっかけになったのは、卒業後にOBとして参加した大学の学園祭でした。僕がステージに立つのは2日目の予定だったのですが、初日にゴスペラーズの村上てつやさんと、ラッツ&スターの佐藤善雄さんが来られていたんです。僕としては、「今動かなかったら学生時代にこのサークルに入っていた意味がない」という気持ちで、後輩に無理を言って1曲だけ歌わせてもらいました。
そのかいあって、佐藤善雄さんから「今の曲を書いたのはお前か?」って声をかけていただき、事務所に曲を持っておいでと言ってもらえたんです。
高橋:またしてもチャンスを無駄にしない行動力が結果につながっていますね(笑)。
ここにマーケあり!
・杉山さんは、作曲家としてのデビュー当初から戦略的に作曲をされていたと感じます。「コンペで採用される」という目的から逆算して競合調査を行い、自分なりの独自のポジショニングを築くことで必然的に自分の曲が選ばれる仕掛け作りをしています。こうした考え方を持つことは、多くの人が持つ作曲家像からはかけ離れたものなのではないでしょうか。