クチコミはマーケティングの常套手段だが…
前回の原稿が公開されてすぐ、11月3日に放送されたNHKの『ニュースウォッチ9』で女子大生ブロガーが企業から金銭をもらって推薦記事を書いているという報道がありました。その行為は明らかに行き過ぎていると感じる部分がありましたが、バッシング目的で編集したのではと思わせるNHKにも違和感を覚えました。
このような「ステルス・マーケティング」と呼ばれる、いわゆる「やらせ」や「仕込み」によるWOM(Word Of Mouth:クチコミ)の意図的な発生は、これまでも行われています。たとえば、表参道のおしゃれなカフェに広告代理店がお客さんを仕込んで、あるサービスや商品について会話させて周囲の人に認知させる、といった手法です。筆者も実際にそのような提案を受けたことがあります。
アメリカでは一時期、ステルス・マーケティングは「最先端のマーケティング手法」として絶賛されていました。しかし、このような手法でまともなコミュニケーションが築けるわけもなく、今では「禁じ手」となっています。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は実際にPGMを意識したコミュニケーション・プランニングを実践している、化粧品メーカー「花王」の例を紹介します。ここに、ホリスティック・マーケティングのすばらしい実例を見ることができます。
「AUBE」のコミュニケーション・プランニング
筆者は、11月1日に開催された「NET Marketing Forum2006」というイベントで、花王のWeb作成部長 石井龍夫氏のプレゼンテーションを拝聴しました。その内容は、まさにホリスティック・マーケティングであり、PGMを意識したすばらしいものだったので、さっそく取材を申し込み、ご本人から直接話をうかがうことができました。(文中の太字は石井さんの言葉です)
石井さんがプロモーションを手がけた「AUBE」は、若い女性を中心に、幅広い顧客が存在する化粧品のシリーズ。Webはもちろん、雑誌からテレビCMまで大規模なプロモーション・プランが必要になります。まず、それぞれのメディアをどのように使い分けているのかについて聞いてみました。
「CMを流すと検索の反応があることはわかっています。重要なのは、WOMやSEO/SEMなどすべての手段を講じて、お客様にサイトにたどり着いていただける導線を用意することだと考えています」
このことは、データでも明らかです。たとえば新聞記事に社名だけが出て、商品名が出なかった場合、はっきりと社名の検索数に変化が現れます。そこに、コンシューマの検索への反応、つまり「AISASの法則」でいうところの「Interest」→「Search」の流れを見ることができます。
興味深かったのは、その先の話です。
「お客様が検索エンジンで入力するのは商品名とは限りません。だからこそ事前にきちんと考えて準備しなければならないのです」
これは自分がテレビCMを見たときの状況を考えれば簡単なことです。商品やメーカーの名前をきちんと覚えていることは、意外と少なくありませんか? こうしたことを事前に予測していれば、SEMでキーワードを購入する場合にも適切な判断ができます。その商品のカテゴリーやCMに登場するタレント・設定・背景なども含め、視聴者の記憶に残るものは「何か」。これをきちんと把握して、興味を持っていただいた方(見込み顧客)をきちんと自社サイトに誘導することが重要なのです。
石井さんによると、「AUBE」のプロモーションでは、テレビCMを最初に使わずにネットでのプロモーションを先に持ってきたそうです。具体的には以下のような流れになっています。
なぜ、テレビCMを後に持ってきたのか、ここには明確なねらいがあります。それについては最後にまとめるとして、まずはこのプロセスを順に見ていきましょう。