DX成功の重要人物「テクニカルディレクター」とは?
MZ:熊谷さんが担っている「テクニカルディレクター」には、どのような役割があるのですか?
熊谷:DXのビジョンやゴールを定義し、その要件を満たすツールやソリューションを揃えたらそれで万事解決かというと、そうではありません。ツールやソリューションを取り入れた時のUI/UXなども考えなければいけませんし、コピーワークや発信方法などのコミュニケーションも重要です。要するに、テクノロジーとクリエイティブの領域を絡めて考えないと、ちぐはぐな変革になってしまう。
ですが、デザイナーがエンジニアのテクニカルな話をすべて理解するのは難しく、逆もまた然りです。そこで、テクニカルディレクターがプロジェクトチーム内でハブとなり、デジタルとクリエイティブを繋ぐ共通言語を作ったり、各領域からの意見を翻訳して伝えたりする役割を担います。
MZ:デジタルの専門知識を持ち、クリエイティブにも理解があり、各領域のメンバーを繋ぐコミュニケーション能力もある……。相当なスペックが求められると思いますが、テクニカルディレクターは、どういったバックグランドを持っている方が多いのでしょうか?
熊谷:デジタルテクノロジーへの理解は、テクニカルディレクターが共通して持っているベースの部分ですが、それ以外のバックグラウンドは人によって異なり、多岐にわたっている印象ですね。たとえば、僕はWebプロデューサーとしてキャリアをスタートしています。デジタルだけでなく、リアルも絡めた様々なプロモーションを担当する中で、いろいろな領域の知識や知見を得て、自分の得意領域を広げてきました。テクニカルディレクターにはそれぞれに色があって、XR領域が得意、AIが得意など、得意領域も様々です。
ただ、「何を実装するか」だけでなく、目的・ゴールにきちんと突き合わせて考えていけるコミュニケーション力は大切ですね。柔軟な判断が求められることも度々あります。
また、僕の周りにいる人がたまたまそうなのかもしれませんが、難しかったり、ややこしかったり、課題の多いプロジェクトほど燃えるメンバーが多いです。難題にもポジティブに、やりがいがあると捉えて食らいついていく。そんなアグレッシブさが、テクニカルディレクターに必要な資質かもしれません。
As is/To beを捉えると、DXのビジョンが見えてくる
MZ:具体的なプロジェクトプロセスをお伺いします。たとえば、「次世代店舗を作る」というプロジェクトがあったら、どんな流れで進めていくのでしょうか?
熊谷:まずは、「生活者にとってどのような価値をもたらすのか」という店舗のコンセプトを明確にします。具体的には、「As is/To be」を捉えることが多いです。ここでは、As isを「買いたいものを自分で見つける店舗」、To beを「買いたいものと自然と出合える店舗」としましょう。As is/To beを捉えると、DXによってどのような顧客体験を創造していくのかというビジョンが定まります。
これを定義できたら、次はシナリオを具体化していきます。たとえば、店舗を訪れたお客様がモノを作っている生産者や商品を仕入れるキュレーター、すでにその商品を購入した人などと店舗で対話できたり。その日のお客様の状況、時期、天候などからレコメンドして、商品との出合いを演出したり。それらを後日ECで買えるようにしたり。こういった体験のシナリオをコンセプトから下ろして考えていきます。
具体的なシナリオまで決まったら、実装です。実装のフェーズでも、「これでビジョンを実現する店舗ができるだろうか?」と何度も問い直し、PDCAを回しながら進めていくことが大切です。
MZ:今のお話にあったコンセプトやシナリオを作るのは、テクニカルディレクターの役割になるのでしょうか?
熊谷:起点となるアイデアやヒントを出していくことは多いです。ただ、すべてをテクニカルディレクターがリードしていくわけではありません。先ほど申し上げたPRプランナーをはじめ、ビジュアルコミュニケーションに関わるデザイナー、アートディレクターとチームを組み、一緒に進めていきます。