KFCが目指すのは、エブリデイブランド
「オリジナルチキン」をはじめとしたこだわりのあるメニューで多くのファンに支持されている、日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下、KFC)。マーケティング部 CRM推進課 部長代行の濱嶋氏は、中期経営計画骨子を引用しながら現在注力するミッションについて語る。
「2020年に創立50周年を迎え、さらなる成長への推進を図る上で『お客様に信頼され、愛されるブランドへ』を目標に掲げています。『KFCをエブリデイブランドへ』が一つのキーワードです。また中期計画骨子における事業成長の基盤拡充については、第一に『DX推進・ITインフラの整備』を掲げております」(濱嶋氏)
濱嶋氏は、デジタルメディアのデザイナーとしてキャリアをスタートし、インターネット黎明期よりクリエイティブ/デジタルメディア開発領域において従事。デジタルエージェンシーであるアイ・エム・ジェイにてクリエイティブ部門を統括した後、複数のBtoC企業にてデジタルマーケティング部門長を経験した人物だ。2019年より日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社に参画し、アプリなどのオウンドメディア開発・運用、CDP・データ活用、CRM、SNSなど、デジタルマーケティングの幅広い領域を統括・推進している。
本セッションで取り上げるKFCにおけるデータドリブンマーケティング推進プロジェクトについては、二社のパートナーとの協働体制が敷かれている。コミュニケーション、マーケティング領域については博報堂、CDP導入、活用領域はインキュデータだ。
博報堂が支援するのはマーケティング領域におけるKFCブランドの「日常化戦略」だ。
「KFCは元々クリスマスなどの『ハレの日』の利用が非常に強力なブランドです。利用をさらに広げていく日常化戦略では『今日、ケンタッキーにしない?』といったフレーズを用いながら、様々な利用シーンをご提案するコミュニケーションをしています。2021年からは『ケンタッキーなら、サンドでしょ。』と昼の時間帯の利用を広げていく支援も行っています」(馬場氏)
今回のテーマとなっているデータドリブンマーケティングについても、顧客一人ひとりの日常利用をどのように提案するかという観点で、CDP構築や活用を支援しているという。
CRM戦略コンセプトにある三つの軸
データ活用のプロジェクトを進めているKFCだが、そもそもどのようなデジタルアセットを保有しているのだろうか? 濱嶋氏が紹介したオウンドメディアの概況は次の図の通りだ。
アプリの累計ダウンロード数は前年比350万増。LINE公式アカウントも友だちが2,000万を超えている。また濱嶋氏が昨今注力しているというTwitterではフォロワー数が200万を超えた。これは飲食業界のTwitter公式アカウントの中でも高い順位につけていると自負する。ネットオーダーについてはコロナ禍の需要も相まって顕著に伸びた。繁忙期のクリスマス時期でも2021年は前年同時期に比べネットオーダーの比率が大きく高まったという。
「お客様に対してアプローチできる経路として、様々なデジタルのタッチポイントがある」という濱嶋氏。モデレーターのインキュデータ田村氏が、このアセットを使って顧客との関係性をどのように向上させていくのかを尋ねると、CRM戦略のコンセプトを語った。
「CRM戦略のコンセプトには三つの軸があります。まずは、潜在顧客も含めた新規顧客獲得。前述のデジタルのタッチポイントをより広げ、会員化を進めたいと考えています。KFCの会員IDを持つお客様を増やす軸です。
二つ目が、獲得した新しいお客様の継続利用を促進し、同時に離脱を避けるという軸。ここで活用できるのが、IDに紐付いたデータの活用・蓄積=CRMです。
そして、三つ目の軸は前述の二つの軸を可能にする環境整備です。お客様に向けては、購買体験を継続的に高めていくため、機能追加、UX/UIの改善、新しい販売チャネル開拓、決済手段の強化、ロイヤリティプログラムの改善が必要だと考えています。社内に向けては、ワークフローを整えるために体制構築と採用強化、ツール化、パートナーへのアウトソーシングを行っていきます」(濱嶋氏)
データはありながらも施策の再現性が低い原因
「こうしたCRM戦略を実行するにあたっては、最初からうまく進めるのはなかなか難しいと感じる」と田村氏。それを受け、濱嶋氏はKFCで当初抱えていた課題に触れた。
一つは、社内でデータが散在していたことだ。2019年11月時点でも前述のデジタルアセットはあったものの、各サービスで取得するIDはバラバラな状態だった。利用されるサービスごとで別のIDが発行されている場合、一人の顧客が複数のサービスを利用していても社内としては別の顧客としてしか認識することができない。
分析においても、各部門が組織内で必要なデータのみしか分析しておらず、部門ごとに見ているデータ、見ていないデータが存在しており、データ同士の関連付けができていなかった。
「たとえば、新商品の施策の結果を経て、次の新商品の施策をどうするか戦略を練る際に、データのフル活用ができていませんでした。成功したとしても、再現性が低い状態が見てとれました」(濱嶋氏)
こうした背景があり実行されたのが、データを有機的につなげることを目的とした今回のプロジェクトだ。濱嶋氏は取り組みを大きく四つに分けて紹介する。
まず一つは、バラバラな各サービスの顧客IDの統合だ。二つ目は、データを集約、複合的に利用し、顧客理解の解像度を向上すること。顧客がどのような購買単価、購入頻度でサービスを利用しているのか、理解を深める狙いだ。三つ目は、データの可視化。多くのフランチャイズや、エグゼクティブに向け、それぞれに適したレポートを可能にする。そして四つ目に、データ起点でのマーケティング施策の実行と、実行した結果を検証するプロセスの確立だ。KFCでは課題の解決に向けてこの四つに取り組んできた。
データ活用の価値は「勝ちパターンの蓄積」にある
「そもそも、なぜそういったデータ活用が必要なのか」を田村氏が尋ねると、濱嶋氏はその理由を「仮説検証を通じた勝ちパターンの蓄積」だと答えた。
「従来では、新商品や定番商品のキャンペーンを行う際に、それまでに培った感覚、経験に基づく勘や、成功体験を軸に、同じような施策、方法を繰り返して成功体験を再現しようとするケースが結構ありました。しかし、原因が不明確なまま、結果が芳しくないことも当然あります。
そこで、感覚だけを理由とした施策ではなくて、KFCのIDベースで行動データもしくは施策の結果データの統合を行うことで、仮説検証を通じた勝ちパターンの蓄積をしたいと考えました」(濱嶋氏)
上記の実行の流れとして、まずデータを集めて分類し、潜在ニーズの発見や仮定の設定を行う。次に、店舗や期間を限定したテスト施策を実施。そして、そのテスト結果と商品特性やターゲットを基に売上などのKPIを設定し、本番の施策を実行する。施策後には蓄積したデータを基に効果検証、分析、可視化を行い、次の改善案の洗い出し、KPIに対する最終評価を決定。この結果をCDPに戻すことにより、データの精度を高める。
この勝ちパターンの蓄積によって、蓄積した勝ちパターンの中から、再現性が高いものを抽出し、さらに再現度を上げていくことができる。濱嶋氏はその実現のために、データ活用の必要性を社内に向けて説明していったという。
CDPはカスタマージャーニーすべてとつなげる
ここまでの紹介からも、KFCのプロジェクト内で大きな役割を担っているとわかるCDP。田村氏は次に「CDPの立ち位置」について深掘りした。濱嶋氏はKFCのカスタマージャーニーマップを基に説明する。
CDPの立ち位置は、上図のようにカスタマージャーニーの各フェーズそれぞれを支える基盤となっている。各フェーズにおいて実施した施策の結果を表すデータは必ずCDPに送られ、分析・分類される。さらに、その結果を基に施策を繰り返すという仕組みだ。
CDPの活用に必要なパートナーの支援
田村氏は、「カスタマージャーニー全体をデータで把握するための基盤として置くのは、CDPの使い方としてベスト」だと述べた上で、どのように構築して活用しているのかも聞いた。
KFCでは2021年2月のアプリリニューアルで、会員登録、ログインの機能を追加。各タッチポイントのデータ(図内左側)を、アプリを利用、会員登録をすることで付与されるKFC IDという顧客につき一つのIDと結合している。このIDをCDPに溜め、お客様の属性、購買単価、購買数、購入エリアといったデータを蓄積。データを抽出して顧客を分類し、目的別分析、機械学習を行う。それによってできたセグメントデータを各施策(図内右側)に活かし、施策の結果はCDPに戻り、さらに分析の精度を高める。
こうした大きなプロジェクトには、社内外の様々なステークホルダーの力が必要となる。KFCの場合、パートナーのどのような支援が役立ったと感じているのだろうか?
そもそもKFCと博報堂は、マス広告も含め、顧客とのコミュニケーション戦略全般で連携しており、その一環でCRM戦略についても2年ほど計画を進めてきたという。データ活用を進めていく上では、社内向けのわかりやすい説明が求められ、その点で強い支援が得られたと濱嶋氏は語る。
「社内には稟議を承認してもらうためのフローが当然あり、そこに寄せていくためには難しい言葉だけではなく、実際に何が必要でそれがどのようなものなのか、使うとどのようなメリットが得られるという“絵作り”が必要です。それに関しても博報堂さんに伴走いただきました」(濱嶋氏)
またCDPの導入に関しては、どのような形で構築していくか、どのデータをどのようにつなげていくかの検討、取り回しからインキュデータに対して支援を求めたという。
「KFCの中にあるデータのすべてをマーケティング本部で管理しているわけではありません。当然情報システム部や商品を取り扱う部門で持っているデータもあります。そのため、構築に際して連携すべきステークホルダーも社内外に様々な人がおり、それがハードルとなります。
今回の場合はインキュデータさんの支援により、全体設計から、関係部署や外部のベンダーに対しての提供してほしいデータやつなげ方についての指示、ディレクションをしてもらうことで、CDPの構築がやっと実現できました」(濱嶋氏)
テクノロジーの進化とリンクする体験の創出を
セッションでは最後に、KFCのプロジェクトにおける現在地と将来の構想が語られた。
「繰り返しとなりますが、エブリデイブランドがキーワードとして最上位にあります。日常的なブランドとして感じていただけるような購買体験をお客様に対して提供していきたい、それが取り組みのコンセプトです」(濱嶋氏)
CRM戦略としての具体的な取り組みは四点だ。
一つは、アプリを顧客とのタッチポイントの中心として据え、マストアイテム化すること。KFCのサービスを利用するすべてのプロセスで、その起点をアプリにしていくことでID収集を円滑にし、CRM強化を図る。
二つ目はネットオーダーの拡充。お店に並ばないで買う、自分の好きな時間に注文できるといったメリットを伝え、そのポテンシャルを活かすこと、そして会員データの収集が狙いだ。三つ目は、Cookieの規制強化などを踏まえ、自社データのフル活用。四つ目が、生活様式の変化と販売チャネルの進化への対応だ。
「タッチポイントは今あるものだけではなく、これからもテクノロジーの進化、メディアの進化によって増えていくと考えています。その進化に常にリンクしたサービスを実現していきたいと思っております。いずれにせよ、顧客時間の勝ちパターン、再現性を確立するのが将来構想です」(濱嶋氏)
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