パーセプションのコントロールがビジネス成果に直結する
近年、デジタルシフトが進む中で、消費者を取り巻く環境は大きく変化しています。特に、インターネットに関連するサービスは、利便性向上を目的に様々な情報のパーソナライズが当たり前になりました。その結果、消費者の情報収集の傾向として、自ら取りに行くのではなく、自身の元へ来たものの中から興味関心のある情報のみ受け取る“受動的な姿勢”が強まっています。興味のない情報はノイズとして認識され、相手にされません。
そのため、自社商品やサービスに対する興味関心を起こし、さらに選んでもらうことの難易度が高まっています。様々な手段でアプローチを仕掛けるも、なかなか成果に結びつかない……と苦戦しているマーケターが多い一方で、競争の激しい市場においても多くの消費者から選ばれる商品やサービスがあることもまた事実です。この成否を分ける決定打には、消費者の主観的な評価が大きく影響しています。
消費者の主観的な評価をマーケティングでは「パーセプション(認識)」といいます。良い印象を抱いてもらえれば、商品やサービスを選んでもらえる確率はぐっと高まります。つまり、消費者がどのように商品・サービスを認識するか=パーセプションをコントロールすることが、マーケティングにおいて非常に重要なテーマであると言えます。言い換えれば、マーケティングの役割とは、パーセプションを巡る戦いです。消費者一人ひとりにとって、意味のある認識に繋がらなければ、競争の激しい市場で勝利することはできません。ただ、消費者の主観的な評価をコントロールすると言っても、そのメカニズムを捉えるというのは、極めて難しいことだと思います。
しかし、消費者が商品やサービスを知覚するパターン、すなわち心が動くツボに原理原則があるとしたら、どうでしょう?
この連載では、パーセプションに関する研究結果から導き出した「心を動かす11の消費者インサイト」や、実際にそれを検証した結果を紹介し、より効果的なマーケティングコミュニケーションに繋がる視点や考え方を解説していきます。
感情的な繋がりが差別化の源泉
第1回目の本稿では、出発点として、パーセプションに着目する必要性を整理しておきましょう。
現在、競争優位を確立するにはコモディティ化への対応が避けられません。ご存じの方も多いかと思いますが、コモディティ化とは「革新的な商品やサービスであっても、時間の経過とともに、競合他社の参入や類似品が現れてくることで、品質や機能に本質的な違いがなくなる状態」のことを指します。多くの市場がコモディティ化して久しく、ほとんどの商品やサービスは、その品質自体に大きな差はないと指摘されています。つまり、機能や品質が似たり寄ったりなので、他社との差別化が難しいということです。
コモディティ化の最大の問題は、機能や品質で差を感じられないため、価格が主な比較基準となり、価格競争を余儀なくされること。コストをかけて優れた商品を作っても、利益に結び付きにくくなってしまいます。
こうした課題を受け、商品やサービスを使用した時の「感情」や「感覚」に注目する必要があるという考え方が2000年頃に登場しました。たとえば、B.Jパイン&J.Hギルモアの『The Experience Economy(邦訳:経験経済)1999年』や、B.H.シュミットの『Experiential Marketing(邦訳:経験価値マーケティング)1999年』などの書籍が挙げられます。
これらの書籍では、顧客に価値のある「経験」を提供することが差別性を高めるポイントであると述べられています。消費者の購買行動を「経験」として捉え、「購入前→購入時→購入直後→関係構築」というプロセスを通じて顧客が知覚する価値に着目するという考え方です。
そして、ここでは特に、感情的・心理的な価値を重視しています。簡単に言えば「モノを売るのではなく、コトを売る」の視点です。ただし、機能や品質を蔑ろにしてよいというわけではありません。先述の書籍の中でも、商品やサービスの優れた機能的特性が備わっていることの必要性は説かれています。機能的な価値があるのは当たり前で、それらを土台にして、さらに消費者一人ひとりにとって感情的な繋がりを築くことが大切だということです。