「因果推論」で正しく効果を測る
マーケティングにおいて、「施策の効果を測る」ことは重要なプロセスの一つです。広告やキャンペーンなどのマーケティング施策の効果を測り、得られた示唆を次のアクションにつなげることは、さらに高い成果を生み出すためには必要不可欠と言えます。
しかし、「正しく施策の効果を測る方法」がマーケティング業務の中に浸透しているとは言い切れません。「因果推論」と呼ばれる統計学の一分野の研究によれば、分析方法によっては、得られた「効果」は正しくない可能性があると指摘されています。
仮に正しくない「効果」に基づいて意思決定を行えば、期待する成果が見込めない可能性があります。正しく効果を測るための「方法論」についても注意を払い、適切な方法を用いることができれば、こうしたリスクを減らすことができます。
マーケティングの結果で得られるデータは要注意
はじめに、よくある効果測定の具体例をイメージしていきましょう。
A社はブランド認知の獲得を目的としたテレビCMを出稿。そのCMの効果を測るために、出稿後、CM接触者とCM非接触者のそれぞれに、アンケートでブランド認知を聴取し、2グループの認知率の差を計算する。
こうしたケースはマーケターにとって馴染みのある話かと思います。ところが、ここで単純な差のみ計算してしまうと、正しい効果を測ることができない可能性があります。
因果推論をもとに考えると、この単純な認知率の差を正しい「広告効果」と考えてよいのは、広告の接触者・非接触者の割り振りがランダムに行われていた場合のみ、とされています。つまり、分析対象者をランダムに2つのグループに分け、片方のグループにはテレビCMに接触させ、もう片方のグループには接触をさせないという操作ができた場合です。こうした手続きは「ランダム化比較試験(Randomized Control Trial:RCT)」と呼ばれます。RCTは医学の分野で、薬やワクチンの治験においてよく用いられており、ものごとの「効果」を測るうえで極めて厳密な方法です。
しかし、マーケティングの結果として得られるデータの多くは、RCTで得られるデータとは異なり、広告の接触者・非接触者をランダムに割り当てたものではありません。割り当てを行わず、単に誰が広告接触者・非接触者なのかを観察しただけのデータは「観察データ」と呼ばれます。観察データでは2つのグループの認知率の差を計算しても、本当の効果とはならない可能性が高いとされています。