進む規制、国内企業の対応進捗は?
MarkeZine編集部(以下、MZ):4月から施行される改正個人情報保護法の規制に加え、2023年にはGoogle Chromeも3rdパーティクッキー を廃止することを表明するなど、これまで当たり前だったビッグデータ利活用の見直しが進んでいます。その中でDACは、どのように企業のデータ活用の戦略を支援しているでしょうか? ご担当の業務内容やミッションを踏まえてお聞かせください。
岩井:私は2010年代の後半から一貫してオーディエンスデータのマーケティング活用支援を行ってきました。ここ2年ほどは、改正個人情報保護法だけでなく、欧州のGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)などグローバルな動きも含めて「プライバシー保護に配慮した上でどのようにデータマーケティングを行うのか」「法改正の内容はどのようなものなのか」というお問い合わせが増えてきました。それに伴い、現在は3rdパーティクッキー規制に関するご相談を伺いながら、お客さまのニーズに合わせ、ユーザーデータの活用から必要となるプライバシーケアに至るまで、トータルにご支援することが私のミッションです。
上野:私は2020年からデータクリーンルームやポストクッキー対応を中心に、事業会社様にコンサルテーションを行っています。どうしてもデータプライバシーへの対応や情報提供が絡んでくることもあり、岩井が担当しているデータレギュレーションにジョインしました。現在はポストクッキーを含めた事業会社様のデータ利活用、特に法律対応についてのコンサルテーションを提供しています。
MZ:直近だと4月の改正個人情報保護法への対応が急務ですが、事業会社の対応状況はどこまで進んでいると捉えていますか?
上野:率直にいうと、情報収集段階の企業が最も多いと感じています。海外拠点がある企業は、既にある程度対応しているケースもあるのですが、国内だけでビジネスを展開する企業の場合は、そもそも「改正個人情報保護法とは何か」から始まり、ケース別の同意取得の要否、 CMP(Consent Management Platform:同意管理プラットフォーム)の概要や必要性を学んでから、自社にあるデータや活用シーンの整理に入っていくパターンが多いです。
岩井:実は、どのようなデータを活用しているかといった棚卸しをすると、改正個人情報保護法への追加対応が現段階で必要な企業は意外と少ないです。データ活用の多くはリターゲティングやコンバージョン(CV)計測に留まり、社内のCRMデータベースにある個人情報とクッキーデータのような個人関連情報を連携して活用している企業は限られています。この場合、「個人情報とクッキーを紐付けて活用することに同意します」というお客さまからの同意取得は不要なので、「何もしなくて大丈夫なので安心しました」で終わってしまう企業も珍しくありません。
対策は「今」と「今後」で考える
MZ:「急いで対応しなくて大丈夫」という企業が多いのは驚きました。
岩井:一方で、当社のDMP「AudienceOne(オーディエンスワン)」を活用し、データマーケティングを高度化している企業の場合、消費者への同意取得が必要なケースも多いです。その場合は、同意取得をどのように実現していくか具体論に入っていきます。ですから「何もしなくていい」企業と、「やらなくてはならない」企業の二極化が進んでいる状態といえるでしょう。
MZ:時流を考えると、即時の対応が不要でも将来的に何らかの対策が必要になる可能性もあると思います。その点はいかがお考えですか?
上野:コンサルテーションの現場では現状把握のために棚卸をします。そして「今何をすべきか」「今後何をすべきか」という軸で考えていきます。今必要な対策を考えた上で「今後何をすべきか」の整理に入るのです。
どのような『今後』が考えられるかというと、たとえばポストクッキー対応ですね。具体的にはクッキーに依存しないデータクリーンルームの導入や、FacebookのコンバージョンAPIなどがありますが、まだすべての企業が使える状態ではないですし、導入に時間もかかります。とはいえ、クッキーが使えなくなるのならば、計測回りに関しては無視できません。
このように直近では影響がなくとも、支障が出る可能性があるものについては、今後どのような対策が必要なのか、技術動向などを見ながらタイムラインを作っておかなくてはなりません。
岩井:もう1つ、同意取得に関して補足すると、世界的な流れで見ても避けられないと思います。消費者に「あなたの情報を利活用して、企業とのより良い関係構築を目指す」ことを納得していただき、より深い関係を築いていく。この潮流を考えると、今すぐ改正個人情報保護法への対応が不要でも、結局長いスパンで見ると検討していく必要性があることは、ぜひ受け止めていただきたいと思います。
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1stパーティデータ活用、まずは何から?
MZ:3rdパーティデータの利用が規制されると、自社で収集した顧客データ(1stパーティデータ)や、インセンティブを受け取ることを条件に顧客自身が自分のデータを提供するゼロパーティデータの重要性が高まるといわれています。この因果関係について詳しく教えてください。
岩井:振り返ると、インターネット広告/デジタルマーケティング領域におけるデータ活用が進んだのは2010年代でした。ここでのデータ活用のほとんどが、3rdパーティデータの活用だったと思います。わかりやすくいうと、DMP事業者が提供しているデータ、あるいはGoogleやFacebookなどのプラットフォーマーが広告配信に使っているユーザー特性データなどが該当します。
この3rdパーティデータを生成する主要テクノロジーが3rdパーティクッキーです。ここが法的、技術的に規制されはじめた。それが今直面しているターニングポイントです。
これまで多くの企業が無意識に3rdパーティデータを利用し、広告配信の最適化等を行ってきましたが、これからは簡単に使えなくなります。すると重要になるのが、企業と消費者の関係性の中で取得される1stパーティデータ、ゼロパーティデータです。
3rdパーティデータと、1stパーティ/ゼロパーティデータの明確な違いは、企業と消費者が直接接点を持ち、消費者自身が自分のデータを収集・活用されることについて納得しているかどうかにあります。3rdパーティデータの活用が難しくなりつつある現在、相対的に1stパーティ/ゼロパーティデータの重要性が高くなっています。
しかし、ここで問題が1つ起こります。それは、直接消費者と対峙する業界、たとえば小売などであれば既に1stパーティデータをある程度蓄積していますが、メーカーのように購買プロセスを他業種に任せている企業は、新たに1stパーティ/ゼロパーティデータを集めなくてはなりません。このように、1stパーティデータの収集にまだ手を付けられていない企業や、始めてはいるけれど法的処理や消費者への説明が未対応だったり、活用の高度化が進んでいなかったりする企業はかなり多いと思います。
MZ:これから1stパーティデータの収集に当たる企業、その取り組みがまだ進んでいない企業は何をすれば良いのでしょうか。
岩井:まずは1stパーティデータ収集プロセスの全体設計から始めることをおすすめします。新たな顧客接点を作ってデータを収集するのか、それとも現在の枠組みの中で収集していくのか。どのようにデータ取得の同意を取り、活用についてどのように説明していくのか、しっかり考えなくてはなりません。その理想論を踏まえた上で、短期間でゴール設定するには、優先度の高いところからスモールスタートで進めることが現実的だと思います。
たとえば改正個人情報保護法のケースでいうと、すべての顧客接点でデータ取得に同意を得ることが法的に必要なわけではありません。まずは優先的に同意取得を取らなければならない部分を見きわめた上で、小さく始めていくのがいいと思います。
企業からすると、どれくらいの方が同意してくれるのか、どのように同意をお願いすればいいのかわかりません。別の言い方をすると、「どういうメリットを提供すれば消費者から同意を得られるのか」もわからない状態です。同意取得はトライアンドエラーを繰り返す必要があります。
上野:コンサルテーションの現場では、ポストクッキーの対応・同意依頼のUIの見せ方・法改正を見据えての対応の3つの軸でお話しすることが多いですね。ポストクッキーと法改正は混同される方も多いので、まずそこを整理する勉強会を開催することも多いです。その上で状況を把握し、対策を考えていきます。
ポイントは、全社的に取り組むことです。まず広報部や宣伝部の方とお話しすることが多いのですが、本件に関しては法務部や、IT/データを管理している情報システム部門、そしてマーケティング部門をはじめとしたデータを活用するすべての事業部、これらの方にステークホルダーとして入っていただくことをお願いしています。特に大企業になればなるほど、グループ間のデータの受け渡しなど様々な事柄が絡んでいるので、関係部署の協力が必要です。
岩井:とはいえ、いきなり大きな規模で実施するのが難しい場合もあります。まずはマーケティング部門などに範囲を絞ってテストをし、成功事例を作ってから全社ごとに持っていく方法もあります。
今後の3rdパーティデータ活用はどうなる?
MZ:一方で、3rdパーティデータの活用には企業も投資をしてきましたし、知見も蓄積されてきたと思います。完全に使用できなくなるのでしょうか?
岩井:逆説的な話になりますが、1stパーティデータの収集・活用が進むにつれ、3rdパーティデータと組み合わせた高度なデータマーケティングのニーズが高まると考えています。
これまで1stパーティデータの収集をやってこなかった企業がCRMでデータを収集するようになり、活用が進むと「もっとやってみたい」というニーズが生まれてくると思います。顧客のことをもっと知りたい、それに合ったコミュニケーションを進めたいとなると、3rdパーティデータが再び重要になってくるのだと思います。
「AudienceOne」は2013年から提供している3rdパーティデータのDMPですが、企業のCRMデータを掛け合わせることで、CRMの高度化、消費者像・顧客像の解像度を上げることに貢献してきました。1stパーティデータの活用が進むほど、3rdパーティデータの重要性が実はこれまで以上に高まってくるでしょう。その時にこそ、私たちが現在ご支援している必要な同意取得の手続きも含め、3rdパーティデータを組み合わせたデータ活用の支援もワンストップで展開できると考えています。
プライバシー対策後のデータ活用が持つ可能性
MZ:3rdパーティデータを掛け合わせることで、企業はどのようなことが可能になるのでしょうか。
岩井:概念的な説明になりますが、1stパーティデータはユーザーがきちんと識別できている状態です。それに対し3rdパーティデータは、ユーザーデータの大きな集まりなので、輪郭は見えないけれど傾向がわかる状態です。この2つを組み合わせることで、ユーザーの輪郭に加え、そのユーザーの傾向が見えてきます。
たとえばクレジットカード会社に申し込みをする時、関心事に「旅行」と書いて申し込みをした人がいるとします。するとカード会社では「旅行先でカードを使ってもらうと、還元ポイントを高くする」といったキャンペーン時に、真っ先にこの人に知らせようとするでしょう。
しかし、興味関心は移り変わります。この人も単なる観光ではなく、お気に入りのスポーツチームの観戦を兼ねる旅をするようになったとします。インターネット上での購買や閲覧行動もそのスポーツに関するものが増えてきて、明らかに行動が変わってきました。しかし、自社データだけでは、この変化を見落とす可能性もあります。この人に旅行キャンペーンばかり送るとノイズになりかねませんよね。かといって、「あなたの興味関心は何ですか?」と聞き続けることも現実的ではありません。
ここで役立つのが3rdパーティデータです。DMP事業者の場合、ユーザーの現在の行動データを基にしているので、興味関心の推移を捉えることができます。先程の例も1stパーティデータを掛け合わせることで、スポーツ鑑賞特典やスポーツグッズの購入還元ポイントなど、その状況に合わせて最適なオファーを出せるようになるでしょう。
MZ:なるほど。このような活用をしていくためには、消費者の同意が必須ですね。
上野:そうですね。その実現のために、まずは社内のすべてのステークホルダーの方と共に、今後に向けての対応を整理し、消費者のメリットも踏まえながら同意に基づいたデータ収集、活用までを一貫して支援したいと考えています。
すべての企業が等しくユーザーデータを活用できるように
MZ:3rdパーティデータ取り扱いの規制が強まる中、今後DACでは事業会社に対しどのような価値提供を目指していくのでしょうか。
岩井:2010年代は当たり前のように使っていたユーザーデータですが、2020年に入り、ようやくその活用ルール、つまり作法が整ってきたと捉えています。そして、この同意取得の流れに関して反対する事業会社もほとんどいないと考えています。
一方で、「対応がわからない、コストがかかる、面倒くさい」ために、データ活用そのものを止めてしまう企業が出てくることが懸念されます。しかしながら、企業競争の土壌にデータ活用は欠かせません。もしデータ活用を諦めてしまうと、商品力や販売力より前の段階で競争力に差が出ることになりかねません。これは避けるべき事態です。
データ活用に後ろ向きになる理由が「わからない、コストがかかる、面倒」の3つならば、私たちはそれらを解消し、企業が等しくユーザーデータを活用して競争力を高め、消費者の良い関係を築いていくことを支援していきたいと考えています。
データ活用に関する適法性のチェックや対応から、消費者との適切なデータ接点の設計、そして3rdパーティデータの活用による高度化まで、DACでは一貫したご支援が可能です。また、スモールスタートに適したソリューションもご用意があります。どこから手を付けるべきか等のご相談もお受けできます。データ活用についてお悩みのある企業は、ぜひ一度お問い合わせいただきたいです。
上野:もちろん「獲得広告をせずに、ブランディング広告に切り替える 」という選択肢もあると思います。しかしそうなると、今まで運用広告経由で得ていた収益がゼロになってしまいます。これまでの収益を失うか、それとも取り組むかを天秤にかけてご検討いただきたいですね。そして取り組むと決められた際は、私たちDACも伴走して最後までご支援できればと思います。
MZ:ありがとうございました。
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