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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(PR)

石川森生氏に聞く、デジアナ融合推進のポイント/データと紙がつながる時代のDMの新しい価値(1)

 顧客を軸としたデジタルとアナログの融合は、マーケティングにおける大きなテーマの一つとなっているが、自社にとって最適な組み合わせ方を発見するのは容易ではない。そんな中、DINOS CORPORATION(前ディノス・セシール)では、50年にわたり培ってきたカタログやハガキといった紙メディアとデジタル技術を連携した取り組みを進め、成果をあげている。本記事では「第33回全日本DM大賞(2019年)」でグランプリを受賞したパーソナライズDM施策を例に、CECOを務める石川森生氏に聞いた。

「紙をWebに置き換える」という考え方はしていなかった

第1弾「カート落ちDM」とは

 ECサイトで商品をカートに入れたものの買わずに離脱してしまった顧客に対し、デジタルソリューションを活用して「カート落ちから最短24時間以内」にDMを印刷・発送。購入意欲が高いタイミングを逃さないことで、DMを送らなかった顧客群と比べてコンバージョン率を20%アップさせた。

第2弾「小冊子DM」とは

 ECサイトでファッションアイテムを購入したユーザーに対し、購入商品を着用する時期に合わせて、Instagramから抽出した購入商品の類似アイテムによる旬のコーディネート情報、その着こなしを実現する自社商品の提案を、顧客別の内容に構成して小冊子として届ける。カタログに対するロイヤリティが上がりづらいWebの顧客層のレスポンスを約10%アップさせた。(出典:第33回全日本DM大賞Webサイト)

(左)第1弾「カート落ちDM」(右)第2弾「小冊子DM」
(左)第1弾「カート落ちDM」(右)第2弾「小冊子DM」

MarkeZine編集部(以下、MZ):御社は歴史あるカタログ通販企業であり、「紙」と「デジタル」を融合した取り組みを行う先進企業としても知られています。中でも第33回全日本DM大賞でグランプリを受賞した「カート落ちDM」と「小冊子DM」は、業界へのインパクトも大きいものでした。そこで本インタビューでは、石川さんがどのような考えのもと、デジタルマーケティングコミュニケーションを設計していらっしゃるのか、これから紙のDMを取り入れていきたいマーケターはどのような点に留意すればいいのかを、教えていただければ幸いです。

 はじめにこの2つの施策を着想したきっかけから、お話しいただけますか?

株式会社DINOS CORPORATION CECO(Chief e-Commerce Officer) 石川森生氏
株式会社DINOS CORPORATION CECO(Chief e-Commerce Officer) 石川森生氏

石川:私がディノス・セシール(現DINOS CORPORATION)に入社したのは2016年2月なのですが、3月には既に施策の構想を練っていました。それまでEC専業でキャリアを積んできた中で、リアルがデジタルに完全に置き換わることはないだろうと感じていたからです。

 EC市場は伸びているものの、国内BtoCのEC化率は現在に至っても10%に届かない程度(出典:経済産業省 電子商取引に関する市場調査)。いずれはWebでの取引がリアルをしのぐ世界がくると読んでいた時期もありましたが、過半数を超えることはないと確信したのが、2013年頃でした。入社した2016年頃、カタログ業界のトレンドは、固定費としてかかる紙代を圧縮してWebに持っていくというものだったのですが、その結果「カタログを削減したら、売上も利益も削られてしまった」と各社が苦しんでいる状況でした。

 私にも「紙を削った分を補填できるよう、Webを強化してほしい」というオファーがありましたが、リアルとデジタルをつないでこそ、当社の価値が発揮されると考えており、紙をなくすという想定はしていませんでした。

テクノロジーを使い、紙の短所を克服することを目指す

MZ:トレンドとは一線を画し、「紙をどのように使うか」を考え続けていたのですね。

石川:はい。入社してまず、当社のDMに関する過去の施策やカタログのレスポンスの数字などを確認することから始めましたが、ふたを開けてみると、セグメンテーション技術の高さに衝撃を受けました。セグメンテーションはWebの専売特許だと思っていたのですが、紙のほうが数段レベルが上だったのです。今思えば、1通あたりの配信コストがメールと比べて高いため、その分セグメンテーション能力が発達しているのは当たり前なのですが、外から見ていた時はそれがわかりませんでした。

 ただそのことを差し引いても説明できないぐらい、紙は高いレスポンスや購入率を出しており、Webですべてを置き換えるのは難しいと判断しました。とは言え、お客様の生活にデジタルが浸透しつつある状況を踏まえると、紙のカタログやDMがこの先右肩上がりで伸びていく絵を描くのは、あまりに楽観的です。結論として、テクノロジーを使って紙のネガティブな部分を改善し、価値を向上していく考えに至りました

MZ:どんな点を改善しようとしたのでしょうか?

石川:(1)リードタイムが長すぎる、(2)コンテンツをパーソナライズできないという点です。DMが時間を投下する対象として見られにくくなっているのは、お客様にとって必要のないタイミングに届き、かつ関心がないコンテンツが印刷されていることが大きいと分析していたので、逆にリアルタイムにパーソナライズされた内容を届けることができたら、想像以上のレスポンスが得られるだろうと思いました。

 それですぐに印刷会社さんに構想を話してみたのですが、技術とオペレーションの壁に阻まれ、すぐに実施できる環境は整っていませんでした。私もCECOとしてすべきことをたくさん抱えている状態だったので、まずはEC本部という組織を新設し、社内の調整と業界側の調整を並行して行うことにして、2018年に入った頃から、本格的にDM活用の準備を開始しました。これが「カート落ちDM」「小冊子DM」が生まれた背景です。

それぞれの施策から得られた学びは?

MZ:実際にDM施策を実行されると、レスポンスやCVRが大幅に改善されたそうですが、これは予想通りの結果でしたか?

石川:いえ、特に「カート落ちDM」のシナリオに関しては、技術的な検証と印刷会社側のオペレーションの検証を兼ねていたため、最初はKPIを追うこともしていませんでした。しかし結果としてメールよりもCVRが20%も高かった。クリエイティブを改善すれば、さらに大きな成果となる可能性もあると思います。

MZ:第2弾として取り組まれた「小冊子DM」に関してはいかがでしょう?

石川:「小冊子DM」については、ハガキだけとなるとビジネスに対するインパクトが限定的ですので、カタログにも同様のスキームが適用されるのかを、早めに試したいという思いがありました。

 もう一つ、自分の中でECにおけるCRMには課題があると感じていました。本来は、顧客との関係を維持したりロイヤリティ向上を図るための手法だと思うのですが、ECサイトでのCRMは、ユーザーが購入する前までに集中しています。たとえば、おすすめの商品をレコメンドしたり、離脱した人にメールでクーポンを送ったりしますよね。でも、購入した途端に何もやらなくなる。顧客との関係性を築くという要素が、Webはリアルと比べて抜け落ちていることに課題を感じていました

 そこで「小冊子DM」では、購入された商品の着こなしを提案するということをやりました。カタログでファッションアイテムを購入する場合、「夏にダウンジャケットを買う」というように購入と着用のタイミングにズレが生じるので、商品を実際に使うタイミングで提案をしたのです。

 結果としては、いつもはカタログを送っていないWeb顧客のレスポンスが約10%アップしました。カタログに対するロイヤリティが上がりづらい顧客層から反応があったのは、嬉しい誤算でしたね。

MZ:Webの顧客層に対して有効な紙のコミュニケーションが発見できたのは、御社にとって大きな収穫だったのではないでしょうか?

石川:そうですね。Webから入っていただいたお客さまにカタログを送った時のレスポンスは、紙が入り口だった方とは違うため、今までと同じことをやっても維持すら難しい。そんな背景がある中で、小冊子DMのようにWeb顧客が反応する紙の形が何となく掴めたことで、突破口が見えてきたように感じます。

現在も試行錯誤を継続中

MZ:御社がパーソナライズDMへの取り組みを開始されてから数年が経ちますが、当時と今とで何か変化や発展したこと、新たに取り組み始めたことがあれば教えてください。

石川:まず組織の形が大きく変わりました。当時は単純にWebチーム、紙チームと分かれていましたが、現在はチャネルを横断することを前提とした組織の形にシフトしつつあります。

 取り組みに関して言うと、現在はひたすらいろいろなシナリオを試しているところです。Webだと何も考えずに自動化して投げればいいシナリオも、紙となるとコスト回収が難しくて実現できないことが多々あります。勘は徐々に当たるようになってきたものの、やってみないとわからなかったりするので、テストはずっと繰り返しています。

 他には出荷倉庫に1枚ずつ異なる文字や画像を印刷できるデジタルプリンターを設置しました。そこで同梱物のパーソナライズ化ができないかと検証しているところです。たとえばその時購入した商品に関連するコンテンツがまとまった配布物や、商品だけでなく我々が持っているナレッジやサービスを一緒に詰めることができれば、当社でお買い上げいただく付加価値になるかもしれないと考えています。

石川氏が考える、アナログ×デジタルを進める人材と組織の作り方

MZ:お話を聞いて、改めてデジタルとアナログが融合することの有用性を感じました。以前と比べると技術的に進歩したことでできることも増えたと思うのですが、一方でシナリオやコミュニケーション設計が難しいために、テクノロジーを使いこなせないとの話も聞きます。これについてどうお考えでしょうか。

石川:その問題を解決するには、タスクを分解するしかないと思っています。「全部を理解している人がいないから動かせない」という相談を受けることが度々ありますが、商材への知識があり、かつ紙にもテクノロジーに明るい人材というのはほぼ存在しません。でもその中の1領域に長けた人なら、見つかりやすくなります。

 重要なのは、やりたいと思った人が、そうした各領域のキーマンを巻き込んでプロジェクト化できるかどうかだと思います。かつ会社としては、社員がそのプロジェクトに気持ちよくリソースを割けるような体制を整えることですね。有志で集まって、「通常業務もあるけれど残業してでも頑張りましょう!」では、なかなか動きません。簡単なことではありませんが、「あなたはこのプロジェクトにアサインされたので、今の業務の何%のリソースを割いてください」と、組み込む体制を作るといいでしょう。

MZ:コロナ禍以降、DM活用に力を入れるようになった企業も出てきているといいます。最後に、そのような新しく取り組み始めた企業に対してのアドバイスをお願いします。

石川:「紙とWebは別物だ」という認識を持つのがポイントだと思います。デジタルというと、古い何かを置き換えていくイメージをお持ちの方が多いのですが、そうではなく、メディアの特性に応じて、何をどう伝えるべきかを設計しなおすことが大切です。

 要するに、紙だから、デジタルだからこそ表現できるものが何なのかという考え方をしたほうがいい。たとえば、スペースの限られた紙に商品のディテールまで載せるのはおそらくあまり意味がなく、スペック情報のようなものはWebに逃がしていくといいと思うのです。逆に紙では、情緒的な話を全面に出すのがいいかもしれませんね。

 プロセスとしては、まずは紙とWebでどういう情報を伝えるのか、コンテンツの整理をすることがとても大事かと思います。それをテクノロジーの力で上手いことシームレスにつなげられれば、相互に補完し合う関係になるはずです。それができれば、技術的な部分は後から何とでもなるものですよ。

MZ:さまざまな角度からデジタル×アナログのヒントをいただきました。本日はありがとうございました。

動画で学ぶ「デジタル×DM」

 本記事で紹介したDINOS CORPORATION「カート落ちDM」やその他の先進事例を紹介。シナリオ設計、“紙”を活かしたクリエイティブ、施策の効果などを解説しています。DM施策の検討にお役立てください!

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/03/31 09:27 https://markezine.jp/article/detail/38452