WHO/WHATの組み合わせは1つだけではない
田部:WHO/WHATを見極めることの重要性は、広告制作においてもより強く意識されるべきだと思います。この問題に関して、特にテレビCMのようなブランディングの現場では、「WHO/WHATはブレない1つを決めたら変えるべきではない」と思っている方も多いように見えますが、そうではなく、WHO/WHATは複数存在し、しかも変わっていくものですよね。
西口:だいたいの既存商品の場合、ロイヤルユーザーを見ると、WHO/WHATの関係は複数成立しています。ですから「ブランドのメッセージは1つだ」「ブランドに一貫性がないといけない」と極端に考えて、すべての顧客に向かって同じことをすればいいと考えるのはおすすめしません。サイズ感が異なるWHO/WHATが並列的に存在するので、基本的には全部に対応すればいいと思います。ただし、投資の順番や時系列は考えないといけません。
そして田部さんがおっしゃるように、見逃しがちなのは顧客が常に変化していくことです。たとえばスマートニュース(以下、スマニュー)で行っていたクーポンの訴求で言うと、始めたばかりの頃はスマニューしかやっていませんでした。何社かが追随してきましたが、それでもスマニューが圧倒的に強かったんですね。
しかし、顧客が一度価値を手にすると、それが当たり前になってしまい、その時点でもう価値は下がっています。顧客が変わり続ける以上、顧客が見出す価値は永遠に変わっていくものです。変化を意識して、次の提案のためのWHATを考え直さないといけないのです。
商品も売り方もずっと変えない企業は、顧客起点で考える競合や代替品にあっさり顧客を取られてしまいます。自分の考え方にこだわりすぎて顧客を見ていないから、顧客の変化に気付かないのです。
田部:顧客の中でも、ロイヤル顧客は重要ですが、やはり新規顧客を迎え続けないとビジネスは継続できないことも、忘れられがちだと思います。既存顧客に愛されている理由をブランドとして大事に考え過ぎてしまい、新規ユーザーを獲得できないでいることはありますね。
西口:そうですね。事実、どんなに素晴らしいビジネスでも、ロイヤルユーザーは一定割合で必ずいなくなっていきます。ですからそれを補充して上回るだけの売上貢献をもたらす新規顧客の開拓は絶対重要です。ロイヤルユーザーから得られる収益やLTVは大きいので、ロイヤルユーザーが1人抜けた穴は新規ユーザーの10人、20人に匹敵します。だからこそ、ブランドの中での顧客の流動性、動態を設計しておくことが必要なのです。
田部:マーケティングにおける大前提、そしてブランディングに投資する際の考え方について、丁寧に教えていただきました。西口さん、本日はありがとうございました。