デジタルがマーケティングにもたらした変化
技術の進化により、今や私たちの生活に“デジタル”は不可欠なものとなっている。美濃氏は「顧客の⽇常において“デジタル” は常に存在し続けています。そのため、デジタル に接点を持たない企業・ブランドは、“存在していない” と同義だと言えます」と切り出す。
またデジタルがマーケティングにもたらした変化として、「接点」「情報量」「選択肢」の3つが急増したことを挙げる。インターネット常時接続環境が整ったことで「顧客接点」は増加し、顧客は「膨大な情報」を手に入れ、複数の「選択肢」を持つことができるようになった。
こうした変化は消費者の購買行動も変えており、とりあえずウィッシュリストに入れるが買わない人、自分好みにキュレーションされたものを好んで買う人、メーカーや販売店と直接コミュニケーションを取って購買する人など、新しい購買行動が生まれてきている。
また選択肢の増加は「“多様性”の顕在化にもつながった」と美濃氏。近年、マス広告が効かないと言われるようになったが、実はこれまでマスと大きく括られていたものは、“細分化されたグループ”の集合体であったことが見えてきたのだ。
こうした変化を受け、美濃氏は「マーケティング担当者は、マス的とパーソナル的、両方のアプローチを使い分ける必要がある」と述べる。
「社会がデジタルにシフトする中でデジタルマーケティングの重要性が高まっています。加えて、顧客側における“多様性” が顕在化したことで、顧客をマスではなく “スモールマス” として捉える際に、デジタルを⽤いた⽅がコスト効率が良いという観点もあります」(美濃氏)
Cookieレス時代にデジタルマーケティングはどうあるべき?
そんなデジタルマーケティングで、今重大な変化が起こっている。Cookie規制だ。
Cookieはサイト訪問日、訪問回数、カート内アイテムなどの情報を格納する役割を持つもので、「サイトのアクセスや操作を便利にしたり、様々なサービスの提供を可能にすることに役立ってきた」と美濃氏。ファーストパーティCookieを用いることで、サイト側は表示内容を変えることなどが可能になる。
これに対して、サイトドメインに依存せずに横断的なCookie付与を可能にするのがサードパーティCookieだ。サードパーティCookieは、これまで主に広告のターゲティング、ユーザーの特定、行動の測定などに使われてきた。そのサードパーティCookieが、消費者のプライバシー保護の観点から使えない時代となっている。
ではこうしたCookieレス時代を迎えるにあたり、デジタルマーケティングはどのように見直していくべきだろうか。美濃氏は「今持っているファーストパーティデータをデータ戦略の中心に置くべき」と述べる。
具体的にはどういうことか。美濃氏は「Cookie利用から、永続的なIDの取得に移行することが重要」と話す。IDを使うことで、単純な広告施策だけではなく、幅広いオムニチャネル施策への活用が可能になり、プライバシーの観点でも同意に基づいた取得フレームワークを確立できるため、透明性や信頼性が得られる。
「CookieからIDと変わることで、大きな意味ではデジタルマーケティングがCRMに返ってくるようなイメージ」と美濃氏は説明する。
顧客中心のコミュニケーションは「感情のギャップ」がカギ
続いて美濃氏は、これからのコミュニケーション戦略について解説する。
そもそも、顧客は今どのようなコミュニケーションを求めているのだろうか。ここで重要になる変化が、「接点中心から顧客中心に変わっている」ということだ。接点をデジタル化してそこから得られるデータで顧客とつながるやり方から、顧客が利用する場所やサービスすべてとつながるやり方への変化が求められている。この変化を美濃氏は、「単なるデジタル化から、つながるためのデジタル化に変わる必要がある」と説明する。
そのためには、顧客を中心に体験をデザインすることが必要だ。そこでは、これまでの4P(Product、Price、Place、Promotion)のフレームワークから、Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客の支払うコスト)、Convenience(顧客利便性)、Communication(顧客との関わり)の4Cに見方と思考を変えることが求められる、と美濃氏は言う。
4Cへのシフトについては、顧客体験、顧客接点、時間軸の3つから説明がされた。顧客体験は言うまでもなく、顧客体験をどうするのかがこれまで以上に重要な要素となっているということだ。顧客接点については、顧客体験が重視されることで顧客接点の質が問われるようになるということ。またAlways Engagedの状態を作るためにあらゆる顧客接点の活用が求められるということだ。
時間軸については、「“時間”が顧客体験の質を評価するための指標になった」という。タイミングが適切であるか、リアルタイム性があるかがより求められるようになってきているのだ。
体験のイメージとしては、初回接触から顧客化しその後も関わっていくために、様々なデバイスで顧客体験提供する。このように継続的で連鎖した体験において重要なポイントが「感情のギャップ」だという。
具体的には、顧客の期待値の上をいく何かを提供することだが、これを行うためにはデータが必要になる。感情のギャップを生むためには、「顧客のニーズに合った商品を提供できているか、顧客の望む接点でコミュニケーションができているか、タイミングが適切かなどの観点が必要」と美濃氏。そのためには、オンラインとオフライン、両方のデータを集めて分析することで顧客の姿を理解・把握し、期待値を見極めることが重要と話す。
オンラインとオフラインの融合とデータ
感情のギャップを生む顧客体験の提供で欠かせないのが、テクノロジーだ。
データには、CRMデータ、Webやアプリの行動データ、SNSなどから得られる行動データ、サードパーティCookieなどがあるが、CRMデータ以外は足跡のような形で顧客を推測するデータとなる。足跡を入手して顧客の“ヒトとナリ”を把握できるが、デジタルマーケティングでは「想像している以上に多くのデータを得ることができる」と美濃氏は述べる。例として、Webでは閲覧したページ、訪問回数、流入経路など、電子メールでは到達の有無、開封の有無、リンクのクリックなど、モバイルデバイス上のアプリでは、位置情報、センサーから得られるデータなども集めることができる。
データは、自社が収集した「ファーストパーティデータ」、パートナー企業を通じて得られた「セカンドパーティデータ」、そして第三者から得る「サードパーティデータ」の3つに分類できる。
このデータを、オンライン、オフラインの両方で収集する必要がある。「これまでオフラインデータは店舗での接客販売や人的営業の補完的な役割という位置付けだったが、オンラインとオフラインを融合して新しい顧客体験をどう生み出すかを考える必要がある」と美濃氏は述べる。
「データをつなぐ」を実現するCDP
デジタルマーケティングのためのツールは様々だが、つながるためのデジタル化では、データ収集と施策実行の間に「データをつなぐ」ものが必要だと美濃氏は説明する。その役割を担うのが、CDP(Customer Data Platform)だ。
CDPを持つことで、顧客のデータを収集し、収集したデータを統合して価値を得ることが可能になる。施策実行ツールとの連携により、顧客接点で様々な施策を展開できるのもメリットだ。これにより、リアルタイムやパーソナライズなどの点でより良い顧客体験を提供できるため、競合との競争で有利になる。
「しっかりデータを溜め、それを統合管理し、そしてリアルタイムで施策実行ができるようになる。こういった観点でCDPが必要」と美濃氏はメリットをまとめた。
CDPの役割や重要性を考えると4つの要素が求められる、と美濃氏。
1つ目は、アクションにつながる存在であること。「顧客単位で一元化でき、常にメンテナンスができる状態である必要がある」という。その中で、各データから施策が刺さる個人を見極めることになる。
2つ目は、簡単に、素早く分析ができること。「様々な人が使えることが重要」と付け加える。直接データの参照、再集計、そして分析ができなければ宝の持ち腐れになる。
3つ目は、分析結果からすぐに施策展開できること。「施策の実行ツールとシームレスに連携できなければ意味がない」という。
4つ目は、将来に備えた拡張性だ。
では、Salesforceではその思想の下、どのようなサービスを提供しているのか。Salesforceではデータ収集、統合管理、セグメント作成、分析の機能をもつ「インサイト型」、Web/電子メール/モバイルアプリ/コールセンター・営業支援のチャネルを活用できる「エンゲージメント型」と2つの要素を、それぞれ「Marketing Cloud Customer Data Platform」「Marketing Cloud Personalization」として提供している。Marketing Cloud Customer Data PlatformとMarketing Cloud Personalizationはシームレスにつながっているため、インサイト型をカバーしながらエンゲージメント型も実行できるのが特徴だという。
美濃氏は、「本日お話した顧客の変化やマーケティングに求められる変化、CDP活用の方法などから、次の施策へのヒントが見つかれば幸いです」と述べ、講演を結んだ。
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