「焼肉のたれ」「黄金の味」でトップシェアを走り続けるエバラ食品
エバラ食品は、1958年設立の調味料メーカーだ。創業当時は業務用のソースやケチャップの製造販売を手がけていたが、1960年代後半、外食での焼肉の人気に着目した創業者が「焼肉を家庭に持ち込めないか」と考え、1968年に「焼肉のたれ」を発売した。
「焼肉のたれ」の発売以降、流通する肉質の向上とともに、肉をたれに漬け込んでから焼く“漬け込み”から、肉そのものの味を楽しむ“素焼き”という食べ方に変わっていく。素焼きで食べることを想定し、たれもおいしくする必要があると考え、1978年に誕生したのが「黄金の味」だ。フルーツをたっぷり使った高級感のあるたれは、発売から40年以上経った今でも同社の国内トップシェアの座を支えている。
なお売上構成比を見ると、グループ全体の約82%が食品事業、そのうち家庭用商品が7割近くを占めているような状態にある。
このセッションで登壇した藤原亮太氏が属する、マーケティング部マーケティング課は、エバラ食品の包括的なマーケティングデータ分析業務を担う。「データで『ブランド』を磨く」、「データで『社員』を磨く」の2つを大きな切り口としていて、前者には外部パートナーとの連携によるデータ分析、部門内外の仮説立案のサポートやROIの最大化といった業務が含まれる。
食品業界を取り巻く環境変化を分析
続いて藤原氏は、「エバラ食品が取り組むデジタル×リテールマーケティング」の具体的な取り組みを話す前に、食品業界を取り巻く環境変化について説明した。
提示されたのは「外部環境」「業界」「流通」「プロモーション」の面からの変化と、その変化に対応するための方向性。1つ目は、外部環境の変化について。日本では少子高齢化社会が進み、人口も2021年の1億2,600万人から2060年には8,600万人にまで減少すると予想されているように、少子高齢化・人口減少は多くの人も共感するところだろう。
さらにPEST分析を用いてみると、失われた30年ともいわれる経済の低迷や雇用悪化(消費抑制)、共働き世帯・在宅勤務の増加などの社会的環境要因やテクノロジーの発達による技術的環境要因など、様々な変化も見えてくる。
「そうした中で売上を維持するためには、外部環境との整合性を意識しつつ『間口(トライアル率)と奥行(リピート率)の最大化』が必須と考えています」と藤原氏は語った。
2つ目は、カテゴリーをまたいだ競争の激化や、商品のコモディティ化に見られる業界の変化だ。情報過多でモノがあふれる現代において、一般消費財が機能面での差別化を図るのは難しい。そのため生活者インサイトの深掘り、情緒的価値の構築が必要となっている。
3つ目の流通に関しては、業界でもECの販売傾向は伸長しているものの、食品の収益の源泉はリアル店舗での販売にあることから、店頭企画採用率の向上やデジタルプラットフォームの影響度を検証する場を求めていた。
4つ目のプロモーションにおいては、売上の影響度を分析するとテレビCMの影響が高い状態にあったが、「プロモーションが多様化している中でもROIを可視化し、最適なリソース配分を検証できる必要があった」と藤原氏は解説する。