急激な技術革新に、制度が追いかけてきた(花王)
──昨今のCookieレス・個人情報保護の流れをどのように見ていらっしゃいますか。
個人情報保護法は、急激な技術革新の後に、制度が適切に整えられてきている印象です。
オンライン上の個人情報は、今後より厳密に保護されるべきで、規制強化は当然の流れだと見ています。Cookieレスの流れは、生活者がオンライン上の情報取得に関してこれまでの利便性を損なわないためにも代替手段は必要です。
一方、広告出稿側が必要以上に個人を追い回すリマーケティングなどは、代替手法でも、いずれ規制対象になると予測しています。そのため、広告のありさまを見直す機会にもなろうかと思います。
またAIの進化により、オンライン上の情報精査に関するアルゴリズムも飛躍的に進化している最中です。したがって広告活用という面では、個人情報に値するようなデータをダイレクトに使用しなくても、適正な方へ適正な情報が届くアルゴリズムに進化していく方向になるとは推測しています。
今後、データのプライバシーに配慮した活用、公平なアルゴリズムの開発、プラットフォーマーの独占化を防ぎつつ進化が加速するにつれジレンマもつきないと考えています(吉田氏)。
生活者におけるプライバシー保護の観点から、Cookieレス・個人情報保護の流れを鑑みると、やむを得ない動向です。しかし過度な規制は逆に企業と顧客の有用な接点も絶縁される懸念もあり、経済的マイナスもあるように思えます。Googleが発表した、Chromeの3rd Party Cookie廃止を撤回するという方針転換なども聞き、今後の動きに留意が必要と考えます(鈴木氏)。
Web解析データ精度劣化に留意し、対応していく必要あり
──注目しているサービスやソリューションはありますか。
広告主としては「適切な情報を必要な方へ、適正な量だけお届けできるか」「信頼できる情報を生活者の方へどのように提供すべきか」を今以上に精査することが、重要になってきます。またプラットフォーマーやサイト運営側にもそれが求められると思っています。
これらの状況をふまえると、メガプラットフォーマーが保有しているData Clean Room×AIアルゴリズムの進化による広告配信の適正化に加えて、掲載場所が明確かつ安全なサイトでの予約型広告枠に注目が集まっていますし、そうしたサービス・ソリューションの検討を進めています(吉田氏)。
プライバシーサンドボックス、コンテキストターゲティングなど、Cookieに依存しない新たな手法に関心がありますね。また、昨今のAI技術の革新は目を見張るものがあるので、新たなソリューションの登場に期待しています(鈴木氏)。
──ポストCookie・個人情報保護の対策の対策として貴社が取り組んでいることを教えてください。
Cookie対策として取り組んでいることは、自社在庫を多く保有するプラットフォーマーや媒体の活用、媒体社・リーテルCDPを活用した広告配信、PMP(Private Market Place)の活用があります。加えて予約型広告の価値の見直しや、コンテキストマーケティングの強化などを行っています(吉田氏)。
システム面からは4つの点からCookie対策を取り組んでいます。1つ目が、ゼロpartyデータ(自社オプトイン顧客データ)の拡充です。2つ目は、Web行動解析データ精度の信ぴょう性に関する留意と対応です。3つ目が、IDを起点としたセカンドパーティデータ連携からの顧客理解です。そして4つ目がデータクリーンルームの検証となります。どれも一朝一夕で行えるものではありませんが、腰を据えて取り組んでおります(鈴木氏)。
「どこまでが個人情報に該当するか」を常に見極める
──今後、取り組みたいことはありますか。
ポストCookie問題と同じようなタイミングでAIの進化も進んだことから、大きく情報環境が異なってきており、まだ変化の途中にあります。したがって常に最新情報を入手し、必要があれば都度改修する必要がある段階です。
個人情報保護は、「どこまでが個人情報に該当するか」を常に見極めながら、生活者の方に安心してご覧いただける広告情報を展開する環境を整えることが重要です。弊社としては、様々な技術の入れ替わりに一喜一憂せず、データを取り巻く環境を逐一見極め、ソリューションを含めた、積極的な変化が必要だととらえております(吉田氏)。
DX部門では、特に顧客IDを中心としたD2C、CRMを推進しているため、個人情報、プライバシーに関するリーガルや市場動向、新技術には常にアンテナを張っています。主にパーソナライズやリコメンデーションの領域において、AIによる顧客とコンテンツとのマッチングアルゴリズムを模索し、より精度の高いCX提案を実現したいと考えています。
また、日本国内だけでなく、グローバルの各リージョンでの法環境に鑑みて、最適なモデルの検証と採択が必要です。こうしたことも念頭に置きながら、誠実な対応を行っていきたいです(鈴木氏)。
花王株式会社 メディア企画開発部 メディアプランニング開発G
マネージャー 吉田智保氏
キュレル事業を10年担当後、現職。メディアプランニングの最適化や最新活用の開発を行っている。
花王株式会社 DX 戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター ダイレクトコミュニケーション部
部長 鈴木 直樹氏
主に事業・販売領域におけるデジタルマーケティング、マーケティングシステム開発などを担当。D2C・CRMの実務運営およびDXの推進も担っている