2極化されつつあるカメラの活用領域
今、カメラの市場や用途は大きくふたつに分類されたと言っても良いかもしれません。それはビジュアル的に、また動画撮影も含め高品質志向のハイエンドなフルサイズ一眼レフカメラ(またはミラーレスカメラ)と、手軽さと即応性の点で優れ、インターネットとすぐに連携することができるスマホカメラのふたつです。
もちろんコンパクトやフィルムカメラ、トイカメラなど需要はまだまだありますが、10年前のデジタルカメラ販売市場からすると6〜8割ほど縮小傾向にあると言われています。数年前に某大手カメラメーカーがコンパクトカメラ市場から大幅縮小を発表したことは大きなニュースにもなり、とても印象深い出来事でした。
コンパクトカメラ市場縮小の一因としては、スマートフォンカメラの普及が大きいと言えるでしょう。そのおもな理由は次の3つだと考えています。
3つの理由
- テクノロジーが進化しコンパクトカメラのスペックと同等またはそれを超える機能が搭載された
- スマートフォンを常に携帯することでいつでも手元にあり使用できる
- 通信やアプリと連携することでスマホからデータ送信や共有が容易になった
これらの理由をみても、スマートフォンのカメラ性能の向上が市場をも大きく変えてしまったことがわかります。しかしこれらは高画質なビジュアル面や技術的な要因に焦点が当たりがちですが、UXデザイン、いちばんのポイントはユーザー体験が大きく向上したことなのです。
常に持ち歩くデバイス(スマホ)自体に高性能なカメラが搭載され、カメラを持ち出す必要がなくなりました。あえてカメラを持ち出さずとも常に手元にあり、ポケットの中にある小さなデバイスでいつでも撮影することができます。撮影されたデータはさまざまなサービス、プラットフォーム、アプリなどで送信や管理ができるように。本来カメラ単体ではできなかったことが、スマホひとつで完結できるようになったのです。
新しい価値観がユーザー体験を向上させ市場を変えた
技術的な進化を遂げる中で、ユーザーそれぞれのストーリーに寄り添うことができるようになりました。ちょっとしたスナップやポートレート、集合写真や旅行先、ペットや食事の写真など、クオリティを保ちながら誰でも手軽にスマホカメラで撮影することができます。
今まではカメラ職人しか持ち得なかった知識やテクニックをスマホから簡単に学ぶことができたり、スマホ自体が自動で最適化し処理してくれます。その結果、芸術性の高い写真や動画を一般ユーザーが簡単に共有し評価されるという体験を得ることができ、ユーザーが主のストーリーが増えることになります。
写真や動画を撮るというアクションが容易になり、さまざまなアプリやSNSとの連携も可能になりました。より便利で即応性が高いツールとなったスマホカメラはユーザー1人ひとりをカメラマンに変えてしまったと言っても過言ではありません。今やYoutubeや配信サービス、Instagram、TikTok、Snapchatなど、カメラと連動したサービスが個人の表現方法を広げています。
前述したとおりこういったSNSやアプリなどで活用されるカメラは、一眼レフに代表されるような「ハイエンド」またはスマホがマッチする「即応性」のカテゴリーでおもに使用されます。ユーザーのストーリーを紡ぎ、ニーズと時代にマッチしたカメラは、市場や新しいサービスとともに進化を続けています。
また、これから期待される「メタバース」では人々が欲しがるコンテンツをゼロからつくり出すクリエーターが、新しい市場をつくることになるでしょう。それらの領域に携われることはデザイナーとしてとても興味深く、楽しみでもあります。
カメラから見る、UX向上のヒントとは
ここまで考察してきた中で、ユーザー体験向上のヒントとなるものはユーザーの「ストーリー」と「手軽さ」、「愛着」にあると考えます。いくら映像のビジュアルが美しいものになっても、それが日常で活用できない、または扱いづらいものであれば意味がありません。ユースケースとユーザーのストーリーをスムーズに遂行し、その先のゴールにたどり着くことができるか。これが重要なのです。