マーケターは、Cookie規制をポジティブに捉えよう
2018年にEUで施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)では、個人データの取り扱いを厳密に定めている。個人データの中にはCookie(Webサイト側が、訪問ユーザーのIDや閲覧履歴などを一時保存する仕組み)も含まれており、本人の同意なしにCookieを収集することは違法となる。アメリカやアジア圏でも、同様の規制が広がっている。
2022年4月に日本で施行された改正個人情報保護法ではCookieは個人情報とみなしていない(日本では個人関連情報の扱い)。そのため、Cookieを第三者提供(例:プラットフォーマーのターゲティング広告での利用など)しないのであれば、Cookieの取得に本人の同意は必要ない。しかし、世界各国で個人情報保護の動きが強化され、いずれ日本も同様の規制が入る可能性は高い。
また、GoogleやAppleなどブラウザやアプリを提供するプラットフォーマーも、Cookie規制に乗り出している。Appleは既にSafari上でサイトトラッキング防止機能を実装しており、Googleも2023年までにChrome上でのサードパーティCookieが取得できなくなる仕様にする予定だ。
どれも、これまでデジタルマーケティングに携わってきた担当者にとってネガティブな話題に聞こえるかもしれないが、田中氏は「ポジティブに受け取るべきだ」と断言。ユーザーにとっては幸せな状態に近づいているからだ。そして、田中氏は次のような考えで動くべきだと語った。
「ネガティブに捉えている方は、ファーストパーティデータの活用法がわからなかったり、『マーケティングコストが増えてしまうのでは?』と懸念していたりするのだと思います。マーケティングのコスト増加は確実に訪れますが、その上げ幅をどう抑えるかを考えましょう」(田中氏)
これからのデータ活用に必要なのはパーミッション
田中氏が所属するエン・ジャパンでは、「AMBI」「エン転職」「ミドルの転職」「エンゲージ」など、転職・求人にまつわるWebサイトを複数運営している。いずれも求職者と求人企業のマッチングを目的としており、求職者に対して適した求人情報を提供する上でCookieも利用していた。
Cookie規制が強まる中で、個人情報を含めたデータをどのようにマーケティングに活用していけばいいのか。模索した結果、田中氏は「原点回帰するべき」という結論に至った。
「データを活用したマーケティングで目指すべきは、顧客と商品の良質なマッチングです。最終的には、顧客にどれだけ価値を感じていただけるかどうかが大事なのです」(田中氏)
ここで田中氏は、マーケティングの第一人者セス・ゴーディンが書籍『パーミッション・マーケティング』(海と月社)で提唱したパーミッション・マーケティングに言及した。パーミッション・マーケティングとは、事前にパーミッション(許諾・同意)を得た相手だけを対象にしたマーケティング活動を指す。
事前に顧客から許諾を取ることで、反応率の向上が期待できる。押し付けがましさが軽減されるため顧客からの好感度も下がりにくく、最終的にエンゲージメント向上につながりやすい。
「パーミッションこそが顧客とのつながりを強めるというゴーディン氏の主張は、1999年に発表されています。個人情報保護規制の強化をきっかけに、顧客からの同意が重要だとここ数年で叫ばれていますが、実は20年以上前にその重要性が提唱されていたんです」(田中氏)
パーミッション・マーケティングというと、メール配信をする際に事前に許可を取る「オプトインメール」を連想するかもしれないが、本来はメールだけにとどまらない。「あらゆるマーケティング活動」に適用されるものだ。個人情報取得に関しても例外ではない。では、個人情報取得を事前に許諾してもらうにはどうすればいいのか。
「やるべきことはシンプルで、マーケティングの原点である顧客の不満を把握して、問題を解決する。これだけです。問題を解決し、価値を感じてもらって、顧客が自らデータを提供したくなる仕組みを作るんです。主語は顧客なんだと意識付けしましょう」(田中氏)