企業の社会貢献は「土台づくり」「問いの設定」が必要
──昨今、パーパスに基づいた一貫性のあるアクションによって、ブランドの姿勢や付加価値を示していく取り組みが広まっています。一方で、事業として利益を出し、成長することと両立させるのは難しいようです。御社では、どのように考えていますか?
菅:パーパスを提示し、それを目指して事業を推進することができるかどうかは、まず組織の今ある段階、規模によって異なると感じています。
チェリオの場合は、大きな企業のようにパーパスを固めて提示するのではなく、スタートアップ的なダイナミズムを持って試行錯誤しながら推進していく段階の組織だと考えています。
我々は600人程度の組織なので、ローカルなコミュニティとして人となりがわかっています。お互いに目配せをしながら進んでいけるチームです。一方、飲料事業としてお客様は非常に沢山の方がおり、どのような価値観の提案をしていくのかというのはすごく大切。社内と社外で分けて考える必要があると思います。
社内に関しては従前申し上げた通り、アイデンティティとパートナーシップの選択は個人の選択を尊重したい。せっかくチェリオに縁あって働いてくださっているわけですから、どこから来たかではなくて、どこに行きたいかをとても大事にしています。
その「どこに行きたいか」にパーパスが見えてきます。

菅:チェリオは年間約2億本の飲料を販売しており、お客様との間にある2億回のコミュニケーションの1回1回がお客様にどんな思い出やひらめき、情熱のほとばしりを与えるのかが重要だと考えています。
我々の場合は、1人でも多くの人たちに居場所を感じてもらえる社会を飲料事業を通じて作ること。LGBTQや多様性という観点では本当にみなそれぞれの受け止め方をします。様々なテーマ、それぞれのお客様の好みに合ったプロダクトをお渡しできるように、事業として一生懸命に作っていければと思います。
ただ、私が語ったのはほぼ「自己実現の話」ですよね。足元固まっておらず、将来の使える資源に余力がない状態で自己実現に取り組むのはなかなか難しい。事業ではどんな荒波が来てもこの船は沈まないという、土台づくりを必死にやらなければいけないですよね。成長戦略を作った上で、余剰資産を使った社会づくりを組み合わせるべきだと思います。
もちろんESGやSDGsで掲げられている基準や目標はとても大事。一方、ビジネスのサイドとしてみると、事業のアイデンティティがそれぞれ違うのだから、指標に対して自分たちが何をするのかも、それによって変わってきます。
会社も利益を生み出せて、社会にとっても良いことを事業を通じて作り出すために「どんな問いを立てなければいけないか」ということ自体が、私たちの実践の本質です。チェリオという会社は、そこをみんなで追求していると思っています。
事例として海外から多数評価。規模拡大へ
──取り組みへの社外からの反響はいかがでしょうか?
菅:まず一つとして、SNSを通じた反響はいつもいただいています。励ましの言葉や、改善のためのアドバイスをいただいたりしながら、一つひとつのコミュニケーションを学びの機会として捉えています。
「のんでCHANGE!」の取り組みとしては、work with Prideという団体からベストプラクティス賞をいただきました。また取材や講演の機会などが増え、米スタンフォード大学刊行の雑誌では「次世代のフィランソロピーとリーダーシップ」というテーマで日本のケースとして取り上げていただき、カナダのトロント大学にあるビジネススクールではダイバーシティのケーススタディとして取り扱われています。
実践の進捗を多くの場所で共有させていただき、それを皆さんが参考にしてくれるのであれば、少しでも多くの会社が「様々な人に居場所がある社会」に賛同してくれると嬉しいですね。
飲料の製造販売事業としての視点では、やはり業界全体規模でも同様の支援や取り組みを実践できればという想いがあり、今後取り組んでいければと考えています。
──最後に、今後LGBTQの生きやすい社会づくりについて取り組んでいきたい企業にひとことアドバイスをお願いします。
菅:アドバイスではないのですが、プライドパレードを一緒に歩いていただけると嬉しいですね。毎度本当に素晴らしい学びの機会、共感の機会をいただいている場所なので、1人でも多くの方と一緒に歩きたいですね。
