「イネーブルメントプロジェクト」の詳細
(1)状態や行動を項目化・言語化
行動特性の言語化、育成項目の分類をしていく手順として、まず高いパフォーマンスを上げているトッププレイヤーにヒアリングを行います。ヒアリングの中で見えてくる行動特性や状態を図表2のように言語化し分類していきます。
大カテゴリには、コンサルティングスキルや営業スキルといったベーシックスキルが入ります。小カテゴリには大カテゴリのスキルを構成する要素に分解した項目、KDIはさらに行動レベルまで落とした項目が入ります。KDIはKey Doing Indicatorの略で、KPIの達成に向けて戦略的、組織的な行動に落とし込むための重要指標です。KPIの下位指標というとイメージがしやすいかもしれません。
図表2では大カテゴリ、小カテゴリ、KDIという項目まで表示していますが、実際はKDIをさらに明確に定義し、採点できるレベルまで解像度高く言語化していきます。
(2)各メンバーを項目毎に採点
(1)で言語化された項目ごとに育成対象者の採点をしていきます。採点をしていくとトッププレイヤーと育成対象者との点数ギャップが見えてきます。組織全体でみた場合は、ギャップは1ヵ所だけでなく複数出てきますので、どの項目を重点的に取り組むKDIとするかを決めます。その後の育成施策検討のベースになるので、KDIの決定はとても重要な作業です。
図表2 ヒアリングで見えてきたキーとなる行動特性の一例
(3)ギャップが大きい項目に対し、仕組みとして育成施策を打つ
(3)では、(2)で設定したKDIに対して、仕組みとしての育成施策を打っていきます。
以降は、(3)→(2)→(1)→(2)→(3)→(2)……とサイクルを繰り返すことで、様々な育成施策を積み重ねていき、育成の精度を上げ続けていきます。
(3)の育成施策の事例で挙げたテンプレートやリストを作るだけでは、課題の解決にはつながりません。このようなツールを作ってみたけれどKDIに変化がない、という場合は、なぜ効果が出ないのかを深掘りしていく必要があります。上記のサイクルを繰り返すことで、トライした育成施策がきちんと効果を出せているのかを検証することも、サイクルの中に組み込まれています。
組織的に育成に取り組む中で生まれた「個の動き」
「イネーブルメントプロジェクト」のキーは、複数あるKDIの中から組織として重点的に取り組むべき指標を特定し、育成施策を打つことにありますが、トッププレイヤーとのスキルのギャップが見える化されたことで、個々の社員が具体的にどの領域を伸ばし、補っていくかが明確になる効果もありました。
例をあげると、上司やトレーナーと育成対象者の間で、育成するべき領域について共通認識を持つことができるので、結果として、日々の育成における認識のズレが起きなくなりました。また、育成対象者の中にはトッププレイヤーとのギャップが明確に存在することをしっかり受け入れて、自分に足りない領域については、トッププレイヤーの仕事の進め方や資料フレームを積極的に真似てみたり、足りない知識を補うために資格の取得を目指したりなど、自身を成長させようとする自発的な動きが出てくるようになりました。もともとは組織としてKDIにヒットする育成施策に取り組むことをメインにした動きではありましたが、一人ひとりの社員が成長に向けて自走し始めたことは、想定外の嬉しい副産物でした。組織が質的にも量的にも成長していくフェーズにおいて、マネジメントに求められるミッションも増加していきます。マネジメントの中でも特に人材育成の領域は、重要度は高いと認識しながら、効果が明確に表れにくいため、優先度は低くなりがちです。ここに対してマネージャーの属人的なスキルに依存することなく、仕組みとして組織的に取り組めたことで、人材育成の領域において将来発生するマネジメントコストを減らすことができたと考えています。
「イネーブルメントプロジェクト」の今後
「イネーブルメントプロジェクト」は、事業成果にヒットする人材の有効化(イネーブル)を目的としてスタートしました。当社は現在、ここまでに紹介したサイクルを数ターン回したところです。今後も継続していくことで、取り組んだ育成施策は財産として残り、人が育つ環境は年を重ねるごとに充実していくことでしょう。その結果として、効率的に人材のイネーブルメント(有効化)が実現され、KPI・KGIを達成できる人や組織を創っていけると信じています。
「イネーブルメントプロジェクト」は、人材育成の課題を仕組みで解決に導くという点でチャレンジングな取り組みでした。人材領域以外でも、今回のように様々な課題を仕組みによって解決することができれば、特定のリソースに依存せず価値を生み出すことができるようになり、サスティナブルな成長が実現できると考えています。
当社は、「マーケティングで人・企業・社会をより良くする」というミッションを掲げ、マーケティングにおけるデジタルデバイドのない世界を目指しています。仕組みで課題を解決していくことで、私たちが今生きている世界よりも、未来を少しでも善くしていけたらと考えています。
