価値を生んでこそのデータ分析
今回紹介する書籍は『データ分析力を育てる教室』。著者はデータサイエンティストの松本健太郎氏です。
松本氏は龍谷大学法学部を卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院の門を叩きました。現在は報道関連のベンチャー企業でマーケティング全般に携わっているといいます。これまでも『データから真実を読み解くスキル』(日経BP)をはじめ、書籍などを通じたデータ分析のノウハウ発信を行ってきました。
本書は「データ分析とは何だろう?」という問いかけから始まります。その上で、意思決定につなげるデータ分析のためのステップとして「問題」「問い」「仮説」「データ収集」「証明」「結論」「意思決定」を提唱。取り組み方や注意点などを解説していく構成です。
データ分析で陥りやすいのが数字に終始してしまうこと。そのことを示すエピソードとして、松本氏は以下のような実体験を紹介しています。
今でも覚えていますが、あるメーカーのブランドマネージャーに「君は数字ばかり見て、数字を生んだ消費者を捉えていない。こんなレポートにお金は払えない」と激怒されたときは、本当に顔面蒼白になりました(「はじめに」より)
つまり、データをクライアントや自社の求める価値にまで昇華して初めてデータ分析には意味があるのです。では、どのようにすれば単なる情報の集合体に価値を付与できるのでしょうか。
7つの正当なプロセス
価値を生み出すデータ分析の手法として、松本氏は「問題」「問い」「仮説」「データ収集」「証明」「結論」「意思決定」の7つのプロセスを提示しています。
特定の問題を解決する優れた意思決定を下すために、まずは「何がわかればよいのか」という問いを立てます。次に問いに対する仮の答えを出した上で、仮説を証明するためのデータを収集。実際に証明したら、最後は問いに対する結論を導く。この一連のプロセスこそがデータ分析だと松本氏は述べます。
このプロセスに沿ってデータ分析を行う場合、2つのアプローチがあるといいます。それが「仮説構築」のためのデータ分析と「仮説検証」のためのデータ分析です。たとえば「進学するか、就職するか」という悩みを抱える高校生が、進学した場合の未来と就職した場合の未来について仮説を立てるとします。この作業が仮説構築のためのデータ分析です。一方、仮説検証のためのデータ分析は、立てた仮説に対し「結果はその通りだったのか、それとも異なったのか」を検証するアプローチです。
仮説構築の例でもわかる通り「大半の人は(日常生活の中で)無意識のうちに仮説構築から仮説検証まで実践できている」と松本氏。つまり、データ分析は特別な営みではないというのです。
データが誤った施策を導くことも
松本氏によると、データ分析とは「集めたデータから目的に沿った知見を得ようとする作業」のことだといいます。データが必ずしも「正」を導くとは限りません。松本氏は「そもそも人の意思決定なんて大半が勘や直感、一瞬のひらめきや思いつき」とした上で、データ分析は「人を深掘りするためのひとつの材料に過ぎない」と語っています。
データ分析が必ずしも「正」を導かなかった例として、本書ではマクドナルドが2006年に販売していた「サラダマック」を紹介しています。世の健康志向が高まる中、マクドナルドは消費者調査を基に同商品を開発しました。しかし、半年程度で販売終了に。調査では、消費者のマクドナルドに対する「無性に脂っこくて不健康そうでジャンキーな食べ物が食べたい」というインサイトまでは掴みきれなかったのです。
それでもなお、企業のマーケティング活動にデータ分析が欠かせない理由は何なのでしょうか。松本氏は優れた意思決定を導くことだと述べています。使い方や解き方を間違えず、消費者という大きなマスの動態を知ることができれば、データ分析は企業の売上拡大に大きく貢献できるというのです。
2章以降では、7つのプロセスを正しく踏むための具体的な手法を解説しています。「データ分析に取り組んではいるが、今一つ成果が出ない」と感じる方や、データ分析の質をより向上させたいマーケターの方は、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか?
本記事はマイナビ出版からの献本に基づいて記事作成しております