クリエイティブ領域ならではの課題 工程をまるっと担えるサービスを目指して
――2018年にcre8tiveAIの構想をスタートした当時から今まででを振り返り、クリエイティブ×AIの業界のトレンドはどのように変わっていると思いますか?
クリエイティブ×AIを生業としている会社は、まだまだ少ないように思います。理由はふたつあり、ひとつは技術的に難しいためです。画像を識別・分類するAIは社会実装が進んでいる一方で、我々が取り組んでいるのは、画像認識をした上で生成するという、ひと回り難しい技術ですし、高解像度化にしても、低解像度のものから高解像度の画像を推測して作り出すことは技術的な難易度が高い。そういった理由から、取り組む会社はあまり増えていません。
ふたつめの理由は、ビジネスになりにくいことが理由ではないでしょうか。とくにクリエイティブの領域は、精度が求められるため、ビジネス向けのマーケットではあまり伸びていないのが現状だと考えています。海外で有名な背景除去のAIツール「Remove BG」は、ビジネスユースとしても活用できるサービスになっていますが、これは貴重な例。クリエイティブ×AIで役に立つサービスはお互いに認識しているほど、まだまだ狭い世界だと思います。
一方、コンシューマー向けのサービスは増えている印象です。TikTokでリアルタイムに自分の顔をアニメキャラクターに変換できる機能や、画像をアップロードするだけで絵に変換できるアプリなども登場していますよね。
――そういった状況も踏まえて、最後にクリエイティブ×AIに関する取り組みの展望、クリエイターへのメッセージをお聞かせください。
常に考えているのは、精度が求められるクリエイティブの世界の、どの領域であればすべての人に満足してもらえるのかということ。そしてそのためには、工程のいち部分だけを満たすのではなくて、制作物を作る工程をまるっと満たすサービスでなければならないと感じています。
それらをふまえ、直近ではふたたびキャラクター生成領域に注目をしています。特定の利用用途を満たすキャラクターの生成ができれば制作工程をすべて代替できるため、利用者を大きく伸ばすことができるのではないかと考えているためです。関連して、凸版印刷さんと顔写真1枚からリアルな人の全身3Dモデルを生成できる「MetaClone(メタクローン)」の開発をご一緒させていただくなど、関連技術を日々習得しています。

「AIは人の代替をするのではないか」といった話題があがることもありますが、私はAIは人の補助をするツールになると思います。以前バリカンが登場したとき、美容師の仕事がなくなるのではないかと騒がれたこともありましたが、そんなことはなかった。美容師はそれを使ってより効率的に髪を切ることができるようになったわけです。AIもそういった世界観になっていくのではないでしょうか。
AIを敵対するものとして捉えるより、これを使っていかに効率よく魅力的なクリエイティブを作るかといった視点で考え、積極的にAIに触れることでより価値を感じてもらえるはず。怖がらずに、楽しんで使っていただけたらと思います。
――漆原さん、ありがとうございました!