キャラクター生成AIからクリエイティブ制作AIへ その変遷をたどる
――ゲームのキャラクター生成AIから構想をスタートし、どのようにサービスを展開していったのですか?その変遷について教えてください。
最初はキャラクターだけに焦点を当てていました。ソーシャルゲームは多いときには月に何百体も制作するんです。キャラクターを考えて制作指示書を書いて……といった工程に手間がかかるため、これをAIで生成できるようになれば大きな市場になるのではないかと考えていました。
しかし、始めてみると解像度の問題が見えてきたんです。AIは低解像度で学習させて出力する分には、計算コストは低く結果の精度も高く出がちです。しかし仮に500ピクセル×500ピクセルで出力したものを2,000ピクセル×2,000ピクセルで出力しようとすると、コストは急に何十倍にもなってしまう。そのため生成においては、低い解像度で作った後に、高解像度化のAIを使うことで、その足りない解像度の部分を埋めることができれば効率的ではないかと考え、キャラクターAIの研究開発と同時に高解像度化の研究も始めました。

いざ研究をスタートしてみると、あらゆるところで活用できるサービスだということに気づきました。現在役員をつとめている渡部が当時は印刷会社の社長をつとめていたのですが、「印刷業界は本当に解像度で困っている。実際、印刷の現場で扱う画像の30%ほどは解像度が低く、そのうち半分ぐらいは失注してしまうので、ニーズがあると思う」と話してくれました。それを聞いたときに、この領域を突き詰めれば大きなマーケットになるかもしれないと思い、会社として高解像度化に注力するようになりました。
その時に、ほかの画像処理系AIにできることもあわせて検討しました。高解像度化AIだけでなくクリエイティブに関わるAIを一括で提供するサービスがあると喜んでもらえるのではないかと考えサービスの拡充に取り組んだのが、cre8tiveAIの始まりです。
――実際に提供を開始した当時の反響はいかがでしたか?
2019年の2月にcre8tiveAIをローンチした際の反響はかなり大きかったです。各メディアに掲載していただくなどお客さまも増えたのですが、一方でAIの難しさも浮き彫りになりました。
というのも、AIというのは何でも万能にできるわけではなく、囲碁や将棋のような特定の領域で人間の性能を上回るパフォーマンスを出すことができる。これは高解像度化も同様で、アニメなのか、実写なのかで学習のさせかたもまったく異なります。とくに実写の映像や画像は、撮影した年代ごとにカメラや映像編集機材が変わるため、そのすべてで適切なパフォーマンスを出すことが極めて難しかったんです。「画像をアップロードしたけど、きれいにならないじゃないか」というフィードバックもたくさんいただきました。
「1970年代に撮られた写真」といった細かいくくりの学習データはないため完璧にすることは難しいし、どこまでいっても100%にはならない――。AIに学習をさせて精度をアップデートしていくしかないながらも、そういった課題は今も変わらず存在しています。

――そういったAIの難しさと日々向き合いながら開発を行うなかで、意識していることはありますか?
最初は技術ドリブンで「この技術がちゃんとしたサービスクオリティに達することができそう」といった発想から開発をスタートしていましたが、ローンチしたもののユーザー数が伸びないケースもありました。たとえば「Enpainter(エンペインター)」という、画像をアップロードするとピカソやゴッホなど有名な画家風の絵に変換するサービスは、おもしろさはあったもののビジネスニーズはあまりなかったため思うようにユーザーを増やすことができませんでした。
そのときの反省を活かし、現在は「このAI技術が存在することで、どれくらい困っている人たちを助けることができるか」といった視点で開発することを心がけています。