※本記事は、2025年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)112号に掲載したものです
【特集】いま選ばれる「ブランド」の作り方
─ ブランドに求められる「善」と「余白」/これからのブランディングに必要な6つの視点
─ クボタが推進するK-ESG経営とコミュニケーション戦略、「選ばれるブランド」になるために(本記事)
「クボタらしいESG経営」を進める「KESG推進部」
──御社は2014年にブランド推進室を新設され、2021年のKESG推進部発足にともないブランドコミュニケーション機能として同部に合流されています。KESG推進部の設立背景と、その中でのブランディングやコミュニケーションの役割を教えてください。
2014年にブランド推進室が発足した背景には、グローバル市場の中において、お客様と社会に選ばれ続けるためにはブランドが大事だという認識がありました。そこで、2017年より国内ブランド強化プロジェクトを開始しました。
KESG推進部が立ち上がった2021年は、2030年に向けた長期ビジョンと、2025年までの中期経営計画を発表した年に当たります。長期ビジョンで当社が目指す姿である“命を支えるプラットフォーマー”を実現する上では、「クボタらしいESG経営」(以下、K-ESG経営)が必要であるはずだと考え、クボタグループ全体で推進する部門として、社長直轄の組織であるKESG推進部が発足しました。

1996年クボタ入社。水環境エンジニアリング事業に従事した後、人事部にてダイバーシティ・マネジメントおよび採用の責任者として、「ダイバーシティ経営」の推進に貢献。2014年からブランドコミュニケーションの責任者として、グローバルでのブランドガバナンス、ブランドコミュニケーションを推進。
K-ESG経営には2つの特徴があります。まず、経済的価値の追求だけではなく、社会的価値の追求もしていくこと。もう1つが、ステークホルダーの皆様とのさらなる信頼関係の構築です。クボタのブランドを多くの方々に知っていただき、ブランド価値をいかに高めていくかという役割を担うため、ブランド推進室がKESG推進部の中に位置づけられることとなりました。
その中で私は、コミュニケーションを通じて、特に日本国内におけるブランドポジションを高めていく役割を担っています。様々なメディアを活用し、クボタの目指す姿や事業活動を伝え、共有することで「クボタならば良い社会作りに貢献してくれるだろう」と思っていただけるような、未来に対する期待の獲得が現在の大きなミッションとなっています。
以前はクボタの認知度は限定的なもので、主力製品の農業機械をご利用いただいている農家の方々には親しまれていたものの、一般消費者には広く知られているとは言えない状況でした。また、当社は水道用鉄管の製造・販売など水関連事業も行っていますが、水道インフラは目に見えない場所で機能しているため、クボタの社会貢献が広く認識されにくい状況だったと思います。
このような背景から、当初は「認知度向上」と「事業理解の促進」に注力していましたが、現在のブランド戦略は大きく進化しています。多様化する社会課題に直面する現代において、企業ブランドに求められるのは「未来を創造するビジョン」と「それを実現するケイパビリティ」です。これらの要素を兼ね備えていることをステークホルダーに理解されなければ、「選ばれ続ける企業」になることは難しいと考えています。だからこそ、そのことが伝わるようなコミュニケーションを心がけています。
たとえば2023年には、北海道Fビレッジ内に初のPR施設である農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT」を開設し、“食と農業”の未来を志向する仲間作りの場を提供しています。また、小学生高学年向けの食と農業をテーマにしたサマーキャンプ型体験学習「クボタアグリキッズキャンプ」を開催しているほか、「クボタ アグリキッズサミット」として、100人の子どもたちによる未来の食と農業の提言を「KUBOTA AGRI FRONT」や大阪・関西万博会場でも発信する予定です。
このようなリアル体験施設からマスメディア、デジタルまで、多様なチャネルを統合的に活用した総合的なブランド戦略を展開しています。