Instagramマーケティング、2022年現在のキーワードは?
Facebook Japan 代表取締役 味澤将宏氏による講演から始まったHouse of Instagram 2022。味澤氏は「マーケティングを進化させるInstagram」の講演テーマで壇上に立ち、近年マーケティング業界で重要なテーマとなっている「価値共創」と「没入型体験」に対して、Instagramが提供できる価値について話した。
価値共創へのアプローチ「クリエイターマーケティング」
ソーシャルメディアの拡大・浸透にともない、個人へのパワーシフトが進んでいる昨今、マーケティングにおいてもその流れは顕著に表れている。自身からの発信に加え、利用者やコミュニティ、さらには「クリエイター」のパワーをうまくマーケティングに取り入れるブランドが増えていることは、多くのマーケターが実感しているところだろう。ポイントは、従来のインフルエンサーマーケティングとクリエイターマーケティングとでは、少し概念が異なるということだ。
Instagramが考える「クリエイター」とは、「プラットフォーム上で“独自の”コンテンツを生み出し、自分自身のコミュニティを持ち、そして自ら収益を生み出すことができる」存在。マーケティングにおいては、ただ発信をするのではなく、“ブランドと価値を共創する”という重要な役割を担う。「Instagramでは利用者とクリエイターを含めたコミュニティを通して、ブランドの価値を共創することが可能」と味澤氏が強調するように、クリエイターのパワーがブランドのマーケティングを大きく進化させるひとつの要素になっている。
没入感の高い「動画コンテンツ」はInstagramでも急伸長中
また、オンラインにおけるコミュニケーションは、テキスト主体の時代から写真が付加され、今は動画がメインの時代になっている。Instagramでも、フィード、ストーリーズに加え、リールやARなど動画コンテンツが急増。中でも、リールの伸び率は最も高く、利用者がリールの視聴に費やす時間が利用時間全体の20%を超えるほどになっているという。そして、もう1点特筆すべきは、“楽しみ”と“つながり”の両方を満たす動画プラットフォームとしてのInstagramの特異性にある。
「Instagramにおいても、動画によるコミュニケーションの比率は非常に高まっています。特徴的なのは、単純に動画を楽しむだけではなく、人とのつながり・コミュニティが重視されていることです。Instagramはマーケティングの観点からも、動画に適し、バランスの取れたプラットフォームであると言えると思います」(味澤氏)
味澤氏の講演に続き、およそ2時間にわたって行われたHouse of Instagram1日目では、「Instagramの価値共創と没入型体験」に関する最新動向および事例が次々に紹介された。
価値共創マーケティングは「文脈価値」を起点に
次のセッションのテーマは、「現代に求められる価値共創マーケティング」。ファシリテーターとしてFacebook Japanの倉迫有沙氏が入り、かげこうじ事務所代表の鹿毛康司氏、日本ロレアルの高瀬絵理氏、デロイトトーマツコンサルティング 吉沢雄介氏の3名のゲストとともにパネルディスカッションが行われた。
最初の話題は「価値共創とは何か?」。まずアカデミックな視点から研究を行う吉沢氏は、人々の価値観が“交換価値”から“文脈価値”に変化していることを示した。文脈価値とは、顧客自身の文脈によって価値が規定されること。「ブランドと顧客が継続的に高め合う価値共創がマーケティングにおいても重要となる」という吉沢氏の説明を受け、鹿毛氏はマーケターの視点から、価値観が変わっていく中での顧客コミュニケーションの仕方について次のように話す。
「マーケティングでは10年ほど前まで、顧客はみんな同じ顔をしていると考えられていました。1つの蛇口からブランド側が情報を出していくだけで、購買につながっていたのも事実です。ですが今、顧客の顔には多様性、個性があふれています。そうなると、上から目線の情報提供ではダメで、顧客と同じ目線での発信が求められる。さらにここに“文脈価値”が生まれて、顧客間での情報交換が進み、ぐるぐると水が循環するように情報の渦が巻き起こるようになっているんです」(鹿毛氏)
高瀬氏は、この渦をしっかり巻き起こすために、メイベリン ニューヨークでどのようなクリエイターマーケティングが行われているかを紹介。Instagramには様々なカテゴリのクリエイターがいるが、ブランド側においてはそれぞれの強みを理解した上で、共にコンテンツおよび価値を創り上げていくことが重要となる。メイベリン ニューヨークでも、この点にかなり重きを置いて施策を行っているそうだ。
「クリエイターさんの先に視聴者=ファンがいるので、ファンの心を動かすためには、私たちブランドもそこに寄り添うことが大切です。ですので、Instagram上では、クリエイターさんが持っている個性を織り交ぜたコンテンツを展開しています」(高瀬氏)
ときにはブランドとしての思いを抑える必要もあり、少なからずジレンマもあるというが、クリエイターを尊重して初めてその先のファンに価値が伝わると高瀬氏は考えている。そのためには、そもそもブランドと世界観が一致するインフルエンサーを起用することも重要となってくる。
一方的な情報提供から、ブランドと顧客が互いに価値を高め合うコンテンツ発信を。価値共創の重要性の高まりを感じるディスカッションとなった。
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※2022年12月31日まで視聴可能
花王がゲスト登壇、広告戦略のドラスティックな改革を明かす
テレビCMの印象が強い大きなブランドを多く持つ花王だが、現在はデジタル施策、とりわけInstagram上での取り組みを拡大させている。たとえば、2021年5月に発売されたKATEの「リップモンスター」は、Instagramでのコンテンツ展開が功を奏し、発売から1年以上経った今でも入荷したそばから売り切れるほどの人気商品となっている。
続いて行われたセッションでは、Facebook Japanの丸山祐子氏が花王の立山昭洋氏をゲストに迎え、花王のInstagram活用の秘訣に迫った。
まず立山氏は、花王の広告コミュニケーション戦略の柱を紹介。「テレビCM一辺倒の状況がだいぶ変わってきました」との言葉とおり、現在花王はSNSを起点としたブランドコミュニケーションの開発を広告戦略における最大のテーマとしている。その上で、テレビ×デジタルの組み合わせによる広告効果の最適化、さらにはロイヤルユーザー拡大を目的としたコミュニケーションにもトライしているという。
花王のデジタルプラットフォーム活用は、「広告リーチ」と「ブランドへの興味・評判形成」の大きく2つの視点で行われている。広告リーチでは、テレビ×デジタルのトータルでリーチを最大化し、フリークエンシーを最適化。ブランドへの興味・評判形成においては、マス広告だけではビジネスインパクトがなかなか出にくくなっている昨今の状況を踏まえ、「話題化だけでなく、その先にある評判形成」を目指している。具体的には、次の3つの要素をそろえるように意識しているそうだ。
「【1】話題の種になるコンテンツに加え、【2】UGCを含めた第三者の商品レビューによって評判を形成し、そしてその裏付けとして【3】ブランド公式で商品のスペックなどの情報を広告として出していく。デジタルプラットフォームを活用するときには、この3つを揃える必要があります」(立山氏)
5年前は8対2だったテレビ広告とデジタル広告の割合は、現在おおよそ5対5に。年間100億円ほどの予算がデジタル広告に移行しており、非常にドラスティックな改革を進めていることが共有された。中でもInstagramはビジュアル面で多彩な機能を持つため、化粧品の魅力を伝えやすいプラットフォームだと立山氏は認識しており、【1】話題の種と、【2】評判形成となるレビューの2点におけるコンテンツ生成に役立てている。
改革を成し得るのは、啓蒙・教育を促進する社内体制があるから
立山氏は具体的なInstagram活用の事例として、「ビオレUV水層パック(日焼け止め)」と「メリーズ(おむつ)」の2ブランドでの施策も紹介した。これらのブランドはいずれもSNSでの話題化を狙ったコミュニケーションと第三者からのレビューコンテンツを展開し、追いかける形でブランド公式情報をデジタル広告やテレビCMで発信。結果的に「ビオレUV水層パック」では店舗で欠品が起こるほどの反響となり、その情報がさらなる話題を生んだという。「メリーズでは、テレビや店頭よりもInstagramでの施策が最も購入意向率の向上につながり、大きな収穫がありました」と立山氏はその手応えを話した。
マーケターだけでも200人以上が在籍する大企業でありながら、こうした広告戦略のドラスティックな改革を進めている花王。その裏には、経営層や部門長だけでなく、ブランドを最もよく知る現場担当者が日々議論と試行錯誤を繰り返しながら自ら意思決定することを重視する体制がある。現場担当者のマーケティングリテラシーやスキルを高める取り組みも社内外で行っているそうだ。
「経営トップを含め、定期的にFacebook Japanさんを訪問して知識や体験を積み重ねており、理解と肌感覚のレベルを近づけていけるようにしています」とInstagramとの協力体制による良い影響もあると立山氏。デジタル施策を本格化させる上では、社内外での啓蒙活動、教育も必要であることがうかがえるセッションであった。
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※2022年12月31日まで視聴可能
好きと欲しいを作り出す、Instagramの3つの機能
続いてのセッションでは、ブランディングキャンペーンで「好きと欲しいを最大限に引き出す」ことを可能にするInstagramの特長をFacebook Japanの南勲氏が解説した。押さえておきたいのは、次の3つのポイントだ。
1.偶発的な発見を最大化する広告配信
2.多面的に共感を生み出すストーリーテリング
3.データに基づく効果検証と最適化
1.偶発的な発見を最大化する広告配信
Instagramにおける偶発的発見を支えるのは、グローバル36億人のユーザーデータを機械学習させている高精度なアルゴリズム。このアルゴリズムは、想定していなかったオーディエンスも含め、ブランドストーリーを気に入りそうなオーディエンスの偶発的発見を最大限に引き出すものである。従来の顧客層の枠を超えて、新たなオーディエンスをうまく活用し、広告効果の効率を高めること可能となる。
2.多面的に共感を生み出すストーリーテリング
Instagramでは、ブランドパフォーマンスを高めるフォーマットを総じて「ブースター」と呼ぶ。このブースターには、外部の声を多くの人に届ける「ブランドコンテンツ広告」、より深いブランド体験を作る「AR広告」、参加型で関与度を高める「アンケート広告」など様々な形態があり、目的に応じた効果を期待できる。
3.データに基づく効果検証と最適化
業界をリードするパートナーと連携し、効果測定の選択肢を充実させ実用的な最適化を導き出すことに切り込んでいるInstagram。キャンペーン開始前からキャンペーン中、中長期的な検証まで、すべての段階において継続的なテストや分析最適化をサポートすることにより、継続的に効果検証のPDCAを回すことができる。
高い没入体験をもたらすメタバースの可能性
1日目の最後に「メタバースとInstagram」というテーマで登壇したのは、Facebook Japanでビジネスマーケティングを統括する中里光昭氏とクリエイティブストラテジストの藤田啓輔氏。イベント全体の2大テーマのうち「没入型体験」に焦点を当て、Instagram上におけるメタバースとは何か、またメタバースへの架け橋となるARについて紹介した。
2022年はメタバース元年と言われる。ソーシャルテクノロジーの変化とともに人々はよりリッチなコンテンツを日常的に享受できるようになり、これからはVRやARがもたらす没入型コンテンツへの共有と移行していくことが予測されているが、「この移行はすべての企業にとってチャンスであり、課題でもある」と中里氏は提起する。
コミュニケーション方法が変わるということは、企業が発信するプロモーションやマーケティングの方法にも変化が生じるということ。そこには可能性と課題が混在しているのだ。
メタバースに発展するテクノロジーのビジネス活用が少しずつ見られるようになってきた今、中里氏はメタバースの構築におけるMetaの役割を「ハードウェア、ソフトウェア、そしてテクノロジーの開発をサポートしていくこと」とする。ハードウェアの中心にあるのは「Meta Quest2(メタクエスト2)」というオールインワンVRヘッドセットで、ソフトウェアとしては日本でも多くのビジネスシーンで活用されている仮想オフィス「Meta Horizon Workrooms」、北米でローンチ済みの交流プラットフォーム「Meta Horizon Worlds」がある。
さらに、メタバースへの架け橋として注目されるARについては、Instagramではこれまでに120万種以上のエフェクトが提供されており、ARが中心的な役割を担うキャンペーンも増えている。コロナ禍はARを活用した企業プロモーションが広がるきっかけになったとも言われ、新たなビジネスチャンスとしても期待されているそうだ。
最後に中里氏は、Metaのメタバースに関する取り組みの展望を次のようにまとめた。
「メタバースの世界はMeta一社で実現できるものではありません。弊社はエコシステムの構築に向けて政府、教育機関、様々な企業と連携し、課題や可能性を検討しています。経済的な機会創出、プライバシー問題への配慮を行い、安全で公正な場であるべきと考えています。そして、メタバースは一夜にして実現できるものではなく、5~10年はかかります。当面は既存のプラットフォーム上で没入感のあるソーシャル体験への橋渡しをする仕組み作りに注力していきます」(中里氏)
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※2022年12月31日まで視聴可能