物理的要件、心理的要件、リテールヒューマニティが循環している事例とは?
次に岡本氏は、実際に物理的要件と心理的要件の両方を満たし、リテールヒューマニティによってよい店舗体験を提供している事例を紹介した。
千葉県船橋市のららぽーとTOKYO-BAYにある、「LaLaport CLOSET」だ。店内にある複数のショップの服などをオンラインで試着予約。それらをECで購入して手ぶらの買い物ができるほか、5秒で体型をスキャンして正確なサイズがわかる「3Dボディスキャナー」を備えていたり、プロがスタイリング提案をしてくれたりする場所だ。また、広いキッズスペースやおしゃれなパウダールームもあり、子ども連れのママもゆっくり買い物ができる。加えて、触れると色が変わるアートがあるなど、子どもも楽しめる空間づくりがされている。
この事例を因数分解すると、物理的要件は、「自分の正確なサイズが5秒でわかる、ECで買えば荷物にならない、無料でプロがスタイリング提案をしてくれるお得感」が挙げられる。そして心理的要件は、「プロのアドバイスで普段自分では選ばない洋服と出会う驚きがある、子どもによい環境が整っていて安心して過ごせる」こと。
それを、「たくさんのショーケースから自分に合ったものを自分のペースで選ぶ買い物」というリテールヒューマニティで、ラッピングし体験を良化している好事例だ。
岡本氏は上記の事例から「リテールヒューマニティには、『自分らしさが投影されていること、手触り感があること、無理をさせないこと、にわかに気づかせないこと』という4つの要素があると考えています。あまりにも日常から飛び抜けた体験ではなく、フィジカルな原体験の先にある日常が少し拡張された体験であることが大切です」と強調した。
サステナブル×おしゃれであることが消費者の満足感に
ニューノーマル時代において、サステナブルやエシカルといったことも商品やサービスのイメージ向上になることが生活者の意識調査の結果に表れている。冒頭の心理的要件の中で、「自分がよいことをしていると感じる」を挙げたが、社会にとってよいことをしていると消費者が感じることは心理的満足を満たすことになるのだ。
また最近では「アウトサイドイン」と呼ばれる、生活者のニーズと社会のニーズの両方に応えられるサービス開発が最優先課題とする考え方が広まりつつあると岡本氏は指摘。従来は、自社の資産と生活者のニーズの組み合わせでサービスを検討することが一般的だったが、社会のニーズに応えるサービス企画をするべきだと考えられるようになってきた。だからこそ、商品・サービスの提供側としてもサステナブルであるということを重要視しなければならないのだ。
「そこで紹介したいのが、サーキュラーエコノミーという概念です」と岡本氏。これは循環型経済における生物サイクル、技術サイクルの両方を回すことを良しとした考え方で、商品開発においてもバタフライダイヤグラムを実践する企業で見られるようになっている。特に欧米では進んでいて、こうした企業だから選びたいという消費者が増えている。
岡本氏はサーキュラーエコノミーが実現できている事例として、Tony’s Chocolate lonelyというオランダで人気のチョコレートブランドを挙げた。同社はポップなパッケージや不均等に割れ目のあるチョコレートで、チョコレート業界の不平等な実態や強制労働をなくすという企業理念などを表現している。つまり、プロダクトデザインでサステナブルな姿勢を表しているわけだ。こうしたおしゃれなデザインで伝えるからこそ共感と支持を得ており、結果としてサステナブルな姿勢で経済合理性も叶えている。
もう1つ事例として、エコシステムにユーザーを巻き込むLoopを紹介したい。スポーツドリンクなどの容器に再利用可能なものを用い、洗浄して繰り返し使用するという取り組みだ。こちらも容器のデザインが秀逸で、サステナブルであることはおしゃれであると消費者から捉えられるようになっている。
「ただサステナブルなだけでは消費者に選ばれず、おしゃれであることで『何かよさそう、これを利用することで自分の気持ちが上がる』といった気持ちを満たすことができ、消費者の生活に『自然と』取り入れてもらうことができるのです。そのため、リテールヒューマニティの要素には、先ほど挙げた4つに加えて『サステナブルである』ことも加えられます」(岡本氏)