ミッションから読み解く、GoogleとMicrisoftの共通項
ところで、私はGoogle退職後に約13年間、デジタルマーケティングコンサルタントとして、独立して仕事をしてきた。最初の6年半はアタラ合同会社COOとして、その後の6年半は自分の個人会社(zonari合同会社)で、文字通り一人でやってきた。
だが、そうはいっても、博報堂DYメディアパートナーズとの契約、そして、その後、電通・電通デジタル・電通総研との契約を柱にして仕事をしてきた。つまり、電通グループや博報堂DYグループの多くの方々に、広告のイロハを教えていただき、そして、仕事をもらってなんとか生きてきた。だから、「媒体社・広告主・ユーザー/生活者」の中心で業界を支えている、電通グループ・博報堂DYグループの皆様に、なんとしても、その恩返しをしたいと思っている。Micrisoft広告事業のCPMだけではなくて、業界全体のCPMを上げて、広告代理店の皆様の単価(給与など)を少しでも上げていきたい。それが、業界の活性化になると信じている。
話は変わるが、まだ2ヵ月程度だが、今回Microsoftに入社してわかったことがある。私が知っている10年以上前のGoogleと今のMicrosoftが似ているということだ。もちろん、会社の成り立ちや歴史も違うし、異なるところは当然ある。だが、Overture(Yahoo!)など他のシリコンバレーの会社での勤務経験や日本企業などと比較すると、圧倒的に似ている。
Googleのミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」だ。一方、Microsoftのミッションは、「to empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」ことだ。
この2社は、どちらも、世界中の人、あるいは、地球上のすべての個人や組織を対象に、ミッションを宣言している。世界をより良くしたいと思っているし、より良くできると「信じて」いる。企業のミッションとは、「企業の信念」の表現型だ。
GoogleのCEOだったエリック・シュミットは、以下のように述べている。
「私たちはテクノロジー楽観主義者だ。テクノロジーには世界をもっと良い場所にする力があると信じている。」—『How Google Works (日本経済新聞出版)』エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,等著
Microsoft創業者のビル・ゲイツは、サティア・ナデラ(現CEO)の本の序文で述べている。
「私たちは、来るべき未来に楽観していい。世界はかつてない速さで進歩し、よい方向へ進んでいる。本書は、エキサイティングで挑みがいのある未来への示唆に富むガイドになるだろう。」—『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』サティア・ナデラ,グレッグ・ショー,等著
Googleの幹部も、Microsoftの幹部も、楽観的により良い未来を信じている。自分たちの会社はより良い未来を作っていけると確信している(ように見える)。
そして、GoogleもMicrosoftも、「文化」を最重要視している。
「だがスマート・クリエイティブはリストの一番上に文化を持ってくる。実力を発揮するには、どんな環境で働くかが重要だとわかっているからだ。新しい会社やプロジェクトを始めるとき、検討すべき一番大切な項目が文化であるのはこのためである。」
出典:『How Google Works(日本経済新聞出版)』エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ, 等著
「2014年2月にマイクロソフトの第3代CEOに指名された時には、この会社の文化を刷新することが自分の最優先事項だと社員に告げた。そして、誰もが入社時に抱いた、世界を変えるという目標に立ち返れるように、イノベーションの障壁となるものを容赦なく取り除くことを誓った。」
出典:『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』サティア・ナデラ,グレッグ・ショー, 等著
私は約13年間、小さいながらも企業経営を経験した。当然、最初は売り上げゼロ円からはじまった。そうすると、「本当に契約が取れるだろうか?」とか、「今は電通デジタルと契約があるが、来年も更新してもらえるのか?」など、ときどき、悲観的になったり不安になったりする。13年間もよく継続できたものだと思うが、その精神的なストレスは会社勤務とは比較にならない。明日、契約を切られるかもしれないのだ。
最後は、自分自身を信じるしかない。その信念は、やはり、「自分が正しいことをやっている」とか「世のため人のために役立つことをやっているんだ」という自己肯定がないと継続できない。要するに、独立・経営とは、楽観的に自己肯定する精神的ゲームなのだ。積極的に自己を肯定して、自己の存在意義を問い続ける精神的プロセス、それが個人経営では重要だ。
「成功するかなぁ」「失敗したらどうしよう」と相対的に精神が揺れると、うまくいかない。
「そもそも、「成功と失敗」「勝利と敗北」「達成と挫折」「幸福と不幸」「幸運と不運」といった「二項対立の世界」にとどまるかぎり、表面意識の世界で、どれほど強く「成功」や「勝利」や「達成」を心に描いても、心の世界には「双極的性質」があるため、必ず、プラスの想念とマイナスの想念の分離が起こり、無意識の世界には「失敗」や「敗北」や「挫折」といった想念が生まれてしまう。そして、この無意識が、実際に「失敗」や「敗北」や「挫折」を引き寄せてしまうのである。」
出典:『運気を引き寄せるリーダー 七つの心得~危機を好機に変える力とは~(光文社新書)』田坂 広志著
「『強運』の経営者やリーダーが抱いているのは、ただ一つの想念である。それは、「自分の人生は『大いなる何か』に導かれている」「人生で起こること、すべて、深い意味がある」 という想念であり、さらに深く覚悟を定めた経営者やリーダーが抱くのは、「すべては導かれている」「人生で起こること、すべて、良きこと」という「絶対肯定の想念」であろう。」—『運気を引き寄せるリーダー 七つの心得~危機を好機に変える力とは~(光文社新書)』田坂 広志著
10年以上前にGoogleにいたときにはわからなかったが、Googleのミッション、そして、その文化が、テクノロジーの進化を「絶対肯定」し、「テクノロジーには世界をもっと良い場所にする力があると信じている」という、この「絶対肯定の想念」が、実は、Google成功の秘訣なのだと、今の私は理解している。
そして、Microsoftも「来るべき未来に楽観していい。世界はかつてない速さで進歩し、よい方向へ進んでいる」と言い切る。そのような「絶対肯定」の文化を作るために「この会社の文化を刷新することが自分の最優先事項だと社員に告げた」と、現CEOのサティア・ナデラは言っているのだ。
メジャーリーガーの大谷翔平選手が愛読書として、中村天風の書籍を紹介した。それがきっかけだと思うが、ここ数年、書店で中村天風の本を目にする頻度が増えた。中村天風は「絶対肯定」とほぼ同義の「絶対積極」という言葉を使う。
「そこで、「絶対積極」がビジネスの上に生かされると、独自の路線をいく「オンリーワン」になり、「共存共栄」ということになる。ビジネス上のライバルはなくなり、すべてが協力者となる。
一般的に「積極」というと、常にエネルギッシュで、周囲を圧倒して「勝ち続ける」ようなイメージがあるのではなかろうか。これは相対的なものだ。もちろん、相対的な積極は否定されるものではなく、無気力で何もしないより、はるかによいことは確かだ。しかし、必ずといっていいほど行き詰まる。」
出典:『中村天風 絶対積極の教え』松本幸夫著
GoogleとMicrosoftの絶対肯定、絶対積極は、ミッションの示す通り、地球上のすべての人々と、「共存共栄」していきたい。そういうことなのだと、私は理解している。
※2022年11月24日(木)15時半に、記事に修正を施しております。